第12話:後悔(Side:ナナヒカリ②)
「ぐっ……ここは……」
「お目覚めでございますか、ナナヒカリ様」
気が付いたら、俺はベッドに横たわっていた。
周りには見慣れた壁や天井が見える。
フェルグラウンド家の屋敷だ。
そして、隣にいるのはメイドのエージェン。
外は暗いから、もう夜らしい。
「っ……今何時だ?」
「日の入りから2時間ほど経ちました」
気を失った後、寝てしまったようだ。
知らないうちに運ばれてきたのか。
エージェンの感情がない瞳を見ていると、あの出来事が鮮明に思い出された。
「よくも主人に向かって手刀なんてできたな! この俺が覚えていないとでも思ったか!」
「あのままでは収拾がつかなかったと存じますが?」
「ぐっ……」
確かに、剣を折られて取り乱したのは事実だ。
エージェンと話しているうちに、訓練場での一件も思い出す。
デレ―トめ、あいつのせいで俺は惨めな思いをした。
いくら心の広い俺でも、復讐しなければ気が済まない。
「あああ! あのクソ野郎が! オッサンのくせに調子に乗ってんじゃねえぞ、コラぁ!」
怒鳴りながら、部屋中の物を投げまくった。
いかなる理由があろうと、この俺を辱めたことは万死に値する。
ちくしょう、どうやって復讐してやろうか。
そうだな……いっそのこと闇討ちでもするか?
「では、私はナナヒカリ様に危害を加えた責任を取り、お暇をいただきます」
「ああ、そうしろ! さっさと出て行け! 暴力メイド! 訴えないだけ感謝しやがれ!」
「承知いたしました」
いつの間にか、エージェンの足元には旅行カバンが置いてあった。
ふんっ、自分が処罰されることはわかっていたらしい。
その手際の良さだけは感心できるな。
早く出て行け、気色悪い女め。
「ああ、それと……」
エージェンはドアの手前でピタリと止まった。
「ナナヒカリ様が許可なく屋敷の素材を使ったことは、公爵様と夫人様にお伝えしておりますのでご心配なく」
「……なに?」
父上と母上に伝えた……だと?
「言うな、って言っただろうが!」
「そうでございましょうか。では、失礼いたします」
「おい! ちょっと待て、エージェン!」
「ナナヒカリ! 素材を使ったとはどういうことだ!」
エージェンと入れ替わるように、父上と母上が入ってきた。
恐ろしい顔で手紙を握りしめている。
あの女が送った物に違いない。
「ち、違うんです! 話を聞いてください!」
「他国へ献上する予定があるから、絶対に触るなと言っただろう!」
「ま、まずは、話を……ぐあああ!」
袋叩きにされ、あっという間にボロボロになる。
「ち、父上……母上……お助けを……」
「貴様はもうフェルグラウンド家の一員ではない。追放だ。今すぐ屋敷を出て行くがいい」
息も絶え絶えに許しを請うが、まったく効果はなかった。
それどころか、つ、追放だって?
「お、お待ちください、父上。追放なんて悪い冗談を仰らないでください」
「冗談ではない。……おい、この者を王都の外にある“タモンの森”へ追放しろ」
「待ってください! それだけは……! 父上―!」
着の身着のまま、馬車へ押し込まれる。
しばらく走った後、森の中へぽいと置き去りにされた。
ここは“タモンの森”。
王都の東側に広がる深い森だ。
この辺りでは珍しく、モンスターがうようよいることで知られている。
『キィェッ! キキキ!』
『ハァ……ハァ……』
『グァグァグァ!』
そこら中から、何かが蠢く音が聞こえる。
背中がぞわっとし、心臓が早鐘を打つ。
「な、なんだよ、あっちに行けよ!」
思いっきり怒鳴っても、不気味な音は消えない。
最近は暖かくなってきたが、夜はまだまだ寒い。
寒さとモンスターに襲われるんじゃないかという恐怖に体の震えが止まらない。
どうして……どうしてこうなった……。
洪水のようにこれまでの記憶が蘇る。
その中で、一人の男の顔がポツリと浮かんできた。
稀代の鍛冶師……デレ―ト。
――勝負なんかせず、素直に教えを請えば良かった……。
そうすれば、今頃は温かいベッドで寝られていたのに……。
笑ってしまうほど、あまりにも遅すぎる後悔だった。
◆◆◆(三人称視点)
フェルグラウンド邸を出た一人の女は、人目につかぬよう路地裏へ入った。
さらに歩を進め、表舞台の人々から完全に離れる。
エージェンは尾行されていないことを念入りに確認した後、カバンから持ち運ぶには大きめな鏡を取り出した。
今はナナヒカリが評した人形のような顔しか映っていない。
しかし、エージェンが魔力を込めると、徐々に不気味な黒い影が浮かび上がってきた。
『計画の方はどうだ、エージェンよ』
「……申し訳ございません。失敗いたしました」
『ふむ……詳しく話せ』
鏡に映りこんでいるのは人型の影。
唯一、頭の横から生えているねじ曲がった角が、それは人外であることを示している。
結論から言うと、彼女はただのメイドではなかった。
魔族と唯一友好的な関係を結んでいる人間の組織……“理の集い”の一員だ。
この世は人間ではなく魔族が支配するもの――。
そのような思想に憑りつかれた人々は、いつしか一つの集団となっていた。
「デレ―トという男が現れ、グロッサ軍の専属鍛冶師となってしまいました。相当な腕の鍛冶師と見受けられます」
『デレ―トか……聞いたことがないな』
魔族領は人間が住んでいる大陸の侵略を企てている。
そこで、“理の集い”はすぐに行動を始めた。
最初の目的は、国軍の弱体化。
武装の修理や製造を妨害し、強力なグロッサ軍を少しでも弱くする。
酸の海を渡ると、さすがの魔族も疲弊してしまう。
だから、計画が露呈しないようにグロッサ国の国力を下げることは重要な任務だ。
愚かな跡取りをそそのかして、専属鍛冶師に就任させたまでは良かった。
だが、デレ―トという謎の男により計画は早々に破綻した。
『侵略の準備は着々と進んでいる。絶対に失敗するな、と言ったはずだが?』
「ご心配なく……すでに別の計画も進行しております」
エージェンはその内容を魔族に伝える。
彼女の指示により、国内の同志は各地で動いていた。
『お前が魔族ならすでに死んでいるが、我々としても協力的な人間は貴重だ。よって、今一度チャンスを与える』
「はっ! ありがたき幸せ!」
『よい成果を期待している』
鏡から黒い影は消え、エージェンの顔が映った。
次こそはよい結果を出す――彼女は強く決心する。
そして、それこそ溶けるように闇夜へと消えて行った。
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