第11話:勝敗の行方は
「では、お二人とも準備はよろしいですか?」
訓練場に兵士の声が響く。
休憩もそこそこに勝負の時間がやってきた。
意外なことに、周囲には兵士たちが結構集まっている。
ミリタルはどちらかに肩入れしてはいけないので、ちょうど真ん中のところで俺たちを見ていた。
「ああ、今行くよ」
審判役の兵士に答え、【カミナ】を箱にしまって移動する。
中央にはあの人形が向かい合っている。
俺は勝負が始まるまでは、【カミナ】の最後の調整中をしていた。
といっても、ほこりを吹き飛ばすくらいのことしかやってないが。
正面からは、ナナヒカリが女性の使用人さんとともに歩いてくる。
「よぉ、オッサン。逃げなかったことだけは評価してやるよ」
「10日ぶりだな」
「つうか、なんだよ、その格好。汚ねえなぁ。臭いがうつると最悪だから、これ以上近づくなよ」
ナナヒカリは初めて会ったときと同じように、煌びやかな服に身を包んでいた。
なんというか、こう……パーティーに出るときみたいな格好だ。
「わかってると思うが、この勝負に負けたらもっと真剣に仕事に打ち込めよ」
「ったく、うるせえなぁ。俺が負けるなんてありえねーっての。おい、さっさと剣を出せ」
ナナヒカリはドヤ顔で執事に箱を開けさせた。
そこから出てくるのはとんでもなく優れた名剣。
……のはずなのだが……。
【ソリッドソード】
ランク:A
属性:無
能力:頑丈な剣。一般的なモンスターなら力負けしない。
あれ? Aランク?
Sランクの素材を使うんじゃなかったのか?
てっきり天下の大名刀クラスの武器かと思っていたが。
予想と違って、なんだか拍子抜けしてしまった。
「見とれてないで、お前の剣もさっさと出せや」
「あ、ああ、そうだな」
箱を地面に置き、【カミナ】をそっと取り出す。
刀身に触れるとヤバそうなので、とにかく慎重にだ。
「これが俺の用意した剣、【カミナ】だ」
「「……っ!?」」
【カミナ】を見せた瞬間、辺りは静まり返った。
みな、一様に俺の剣を見ている。
ナナヒカリでさえそうだ。
な、なんだ? どうした?
「エ、Sランクの剣じゃないか。Dランク以下の素材から造ったというのか? ……ありえない」
「あんな剣見たことないぞ。魔力を込める前から雷属性の力が迸るなんて」
「ここまで離れていても余波を感じる……すごい剣だ」
兵士たちのゴクリ……と唾を飲む音が聞こえる。
一瞬にして、訓練場は緊迫感に包まれた。
顔にはピシピシと雷の迸りを感じる。
あ、あの~、俺も緊張してきたんですけど。
「へっ、ど、どうせ見せかけだろ。こんなオッサンに造れるわけがねえからな」
ナナヒカリは気を取り直したように軽口を叩くが、その顔には冷や汗が伝っていた。
「で、では、人形に剣を装備してください」
兵士の言葉で、俺たちは訓練人形に剣を持たせる。
準備が終わったら、審判は人形の背中に手を当てる。
「人形を起動しますのでお二人は下がってください」
俺たちが十分離れたのを見計らって、兵士は人形に魔力を込めた。
「……<スターティング>!」
人形たちの目がヴヴンッ! と赤く輝き、ガシャガシャと動き出す。
起動したようだ。
人形は互いに向き合って剣を構える。
まったく同じポーズだ。
「始めっ!」
兵士の合図で、人形は同時に剣を振り上げた。
それぞれの相手へと、力いっぱい切りかかる。
観客たちの歓声が湧き上がるぞ。
剣と剣がぶつかっ…………た瞬間、ナナヒカリ側の人形が剣ごと斜めに切り落とされた。
胴体はズシンと、【ソリッドソード】の刀身はカランという軽い音をたて地面に落ちた。
「「……え?」」
静寂に包まれた後、兵士たちから唖然とした声が零れる。
誰も彼も目を見開いて人形たちを見ていた。
「な、なにが起きたんだ……? あの人形が音もなく切り落とされた……?」
「今まで一度も壊れたことがなかったのに。なんて切れ味の剣なんだ。まるで、紙を切るかのようだったよな」
「……すげえ! あのオッサンすげえよ!」
どっ! と兵士たちは歓声を上げた。
訓練場は俺を称える声で包まれる。
……のだが、一番驚いていたのは俺だ。
いくら切れ味が鋭いからと言って、Aランクの剣をあんな簡単に切ってしまうなんて。
【カミナ】は想像以上にとんでもない剣のようだ。
さて、人形に持たせっぱなしは危ない。
さっさと回収するか。
一応、審判に申告してからな。
「もう剣を回収してもいいか? 誰かが怪我するとまずいから」
「……え? は、はい、それはもちろん。……すみません、勝利宣言を忘れていました。しょ、勝者はデレート殿!」
「「うおおおお! オッサーン!」」
審判の宣言を受け、観客はより一層盛り上がる。
オッサンコールは解せぬが、みんな拍手で迎えてくれた。
【カミナ】を箱にしまっていると、ミリタルが駆け寄ってきた。
「おめでとうございます、先生! 先生なら絶対に勝つと思っていました」
「ありがと。ミリタルたちが気を遣ってくれたおかげだな。集中して鍛錬できた」
さて、勝負は終わったわけだが、ナナヒカリはどうしているんだろう。
ふと、ヤツの方を見ると、相変わらず呆然と突っ立っている。
剣はいつの間にか使用人さんが回収していた。
ずっと真顔だから、もしかしたらこういうことに慣れているのかもしれない。
というか、このまま帰っていいのかな?
……いや、一応握手くらいはしておくか。
ナナヒカリのことだ。
挨拶もせずに帰りやがった! 訴えてやる! とか言いそうだし。
とりあえず彼の元へ近寄り、そっと右手を出した。
「い、いい勝負だったな。お前の剣もなかなか……」
「ぁあ!? オッサンと握手なんかしねえよっ! 俺に触んな!」
握手しようとしたが、ナナヒカリにビシッと弾かれてしまった。
痛いよ……。
まぁ、そんなことはどうでもいいが。
「約束通り、これからは鍛冶師の仕事に真剣に取り組んでくれ」
「う、うるせえっ! 国軍の鍛冶師なんか辞めてやるよ! こんなしょぼい仕事やってやれるか! クソ国軍ども! 死にさらせ! お前らを訴えてや…………うごっ!」
ナナヒカリは辞職宣言をした後、何か喚いていたが、使用人さんにドカッ! と手刀を喰らい気絶した。
使用人さんは眉一つ動かさずナナヒカリを引きずっていく。
「皆さま、坊ちゃんが大変失礼いたしました。私の方からきつく言っておきますので、どうかご容赦を」
「「は、はい……」」
流れるような動作に圧倒されていたが、ミリタルが咳払いして高らかに宣言する。
「では、デレ―ト殿を国軍の新・専属鍛冶師に任命する!」
「「おおおお! オッサーン!」」
地鳴りのように湧く訓練場。
オッサンコールには解せないわけだが、俺の心は幾分か明るい気持ちで満たされていた。
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