9.皆との別れ
「こほん。では、バーレッド。貴様からも何か」
「えっ? ぼ、僕ですか?」
発言したタイミングを狙っていたのだろう、調度良いとばかりにキリシマが手を叩き一同の視線がバーレッドに注がれる。
席を立ってしまったスクルージを除けばこのギルドでの二番手は彼だと思っていて、何か気の利いた締めの挨拶をしてくれという意味でキリシマも彼に振ったのだろう。
「参ったなあ。急にいわれても格好いいこと言えないよ」
改まって場を提供されると言葉に詰まる。
見知った仲間内を相手にあがり症という質でもないが、堂々とキャラロールをするキリシマや適当におちゃらけているスクルージに比べ真面目で融通がきかないバーレッドは照れくさくなって頭をかいた。
「まあよい。貴様にできぬならば我がいる。では、ギルドマスターの我が最後にありがたい言葉をくれてやろう。心して聞け、刮目せよ、翼を持つ大蛇の聖なる同朋らよ……」
生真面目にも残り数分の間に思考を巡らせるバーレッドでは気持ちの良いトリにはならないと判断したのか、話をするよう振ったキリシマ本人が彼と替わると言い出す。横暴ともいえるが彼らしいその気配りがバーレッドとしてはありがたかった。
だが、時間は有限だ。ゆったり演説を待ってはくれないようで、
「あっ、まずい! あと十秒なんだけど! 何かあと、あとあと言い残したことない?!」
「と、とにかくありがとうございました!」
「この後、全自動さんにはあっちでメール送りますんで!」
「さよなら、キリシマさん! バーレッドさん! またどこかで!」
「なっ?! お前たち……!」
キリシマが話を始めようとした途端、皆口々にチャットの退室をしていく。
見れば終了の赤いカウントダウン表示がゼロに向かって刻一刻。
最後の時はあっという間であった。
(……慌ただしい最後だったが、まぁそれもいいか。楽しかったな)
と、キリシマのプレイヤー・桐島修吾はそんなことを思いながら画面越しにクスリと笑う。
名残り惜しい気持ちを飲み込んでギルドの解散を選択し、ギルドハウスと雇用しているNPC一覧やペットを自分の画面から一括解除する。わいわい騒いでいる一同を見つめ自分もログアウトのコマンドボタンを押す。
こうして彼らが愛したLSOというMMORPGは完全に終わり、歴史あるゲームがまた一本終了したコンテンツとして人々の記憶の中に残ったのであった。
──LSOは終わった。
本来であれば、その「はず」であった。