4.ヴァロランド
二人は偶然、つい二日前まで同じオンラインゲームで遊んでいたプレイヤー同士だった。
VRMMO・ロストスペルオンライン……通称、LSO。
剣と魔法でドラゴンや悪魔と戦う、およそありふれた架空のファンタジー世界が舞台の海外製ゲームで、数年前に日本語パッチが配信されてからは日本でも十万人近いプレイヤーが遊んでいる大手のMMORPGだ。
キャラクターメイクが細かく遊びの幅が広いのが最大の特徴で、バーレッドもキリシマもそれぞれ前衛と後衛に別れてはいるものの、戦闘職と戦闘特化の種族を選んでいる。
LSOは戦いだけではなくアイテムの生成などに特化したキャラメイクも可能であり、そうした生産職などを楽しむプレイヤーもいる。
購入可能な敷地を買って家を建てたり、無人島を開拓して牧場を作ったり、乗り物代わりになるペットに名前をつけて飼ってみたり、レストランを経営し売上で船を買い、それをクルーズに改装して海岸沿いを移動しながらお菓子を配ったり……果てはゲーム内の教会を装飾し数百人を参列させる結婚式を挙げることも出来たり。
自由なプレイスタイルを尊重し、年齢性別、集団ソロ問わず自分だけの遊び方でやりたいことができるところも人気の理由だった。
そんなLSOの公式からサービス終了のお知らせを掲示されたのは、今から三か月ほど前の出来事。
きっかけはアンチ集団によって起きた無差別な情報漏洩テロだった。
日本サーバで発足したアンチLSOと称する集団、組織・ヴァロランド。
LSOプレイヤーでありながらゲームに恨みを持った人間たちが所属している団体らしく、「我々は腐ったゲームに反旗をひるがえす者」という挑戦的で攻撃的な組織の簡易説明文は誰でも閲覧可能だったが、参加はギルドマスターの許可制だった。
構成員は全部で十六名。キャラクターの種族も職業もレベルさえもバラバラで統一感は無し。名前を一覧で表示しても二ページに満たないほんの小さなギルドでしかなかった。
そこまでは単なるちっぽけな存在で「何処にでもいる阿呆共の集まりだ、すぐに飽きていなくなる」と、誰も見て見ぬ振りをした。
だが、ある時ヴァロランドの立案者、ギルドマスターのAKがゲーム内の一斉発言機能を使って突然ログイン中のプレイヤー達に謎の予告を撒き散らし、事件が始まった。
個々ではなく、オンラインでプレイしている全員へ送信された赤字の声明文。
そこに貼り付けられたURLを開くと、AKがチャンネルの主催をしている動画サイトに飛び、再生される動画でLSOプレイヤー達の個人情報が特定され生放送されていた。
最初の数回こそは相手にされず質のわるい悪戯とされ噂程度に留まっていたのだが、とある最大規模の所属人数を抱えたギルドが標的になったときプレイヤー達は改めて事態を認識することとなった。
ヴァロランドの悪意の的になったのは約四〇〇人ものプレイヤーが所属する組織・戦乙女の園。
このギルドは心身ともに女性(ここでいうプレイヤー本人とキャラクターアバターの性別の両方)である人のみが加入できる……女性であることが参加に絶対条件のギルドだ。
ギルドの創立者は世界に数本のみ存在するという、ランキング報酬の闇の槍を所持する寡黙な女暗黒騎士……ハルカ・ディード・アイリスというキャラクターであった。