32. 戦闘狂
ルタは今、自分の目に映っている戦いをあまり良くないものだと思っていた。
かっちりとしたメイルプレートを着込んだ鎧男に対し、バーレッドは和柄の入った身軽な軽装に鋼の剣。体格も装備もバーレッドのほうが明らかに劣っている。バーレッドが斧の一撃をまともに食らいでもしたらひとたまりもないに違いない。彼には最悪の未来が見えていた。そしてだからこそ、バーレッドには自分の支えが必要なのだということも理解していた。
(バーレッドさんの体力が少しでも減ったら回復する……少しでも減ったら回復する……)
自分自身に言い聞かせているうちにその時が来たようだ。黒鎧の男が受け流したことで反動ダメージを浴びたバーレッドの体力ゲージが少し削られた。反応をするなら今だ。
「小回復! バーレッドさん、頑張ってください!」
応援の言葉と一緒に指揮棒を振り上げると、ルタの周りでかすかな光が昇華する。光はバーレッドの傷にとりつき彼のHPを満タンにした。
(やった! 上手くいった……!)
しかし、ルタに手放しで喜んでいる暇はない。一度回復したゲージは数秒と経たないうちにまたすぐに削り取られ、先ほどよりさらに多く減る。慌てて次の詠唱を始め、即座にその穴を埋める。次も、またその次も。焦らず落ち着いて回復魔法を唱え続ける。
ルタの気を知らないでか或いは信頼をおいてのことなのか、ヒールを受けているバーレッドはというと、
(でええ?! ば、バーレッドさん?! それ! ちょっと無茶してませんか?!)
細い白刃で巨大な斧を受け止めてはじき返すという物理的法則を無視した戦いを繰り広げており、手元の忙しいルタは心の中で頭を抱えて叫んでしまった。
何度かのパリィが成立したのち、がっちりと武器同士が固め合いしばらく鍔迫り合いをしていたが、やはり腕力の差は体格の差に比例してしまうのか、黒鎧の男に押し返され始めてしまうバーレッド。それでも突っ込んでいく攻の姿勢を乱さず、まったく手を弛めようとしない彼にルタも目が離せない。隙を作ることなく減ったHPを埋めるための魔法を使い彼を援護し続けている。
「寄り集まれりは寂雷の渦、距たれしは帯と重なる稲妻の喜来、風を齎し雨を連ねる祖の力よ……」
ルタから数メートル先でキリシマも動き出している。杖の先に雷の元素体を集め輝きを灯すと、長い呪文の魔法詠唱を開始した。




