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30.今度は三人で

「まず、前衛は僕がつとめます。敵は一体で重量系ということなので、剣士の僕が攻撃を受け止めて受け流すことを意識して立ち回ります。そしてキリシマさんが後衛の砲台係です。僕が敵を足止めしているうちに『爆雷』を詠唱し発動させてください」

「御意だ。頼りにしているぞバーレッド」

「ええ」


淡々と作戦を説明していくバーレッドに聞き入る両脇の二人。

爆雷というのはLSOで習得できるうち最も威力が高い攻撃魔法の一つで、キリシマが得意とする魔法だ。複数の大きないかずちを敵の頭上から落とし感電及び発火・炎上を引き起こして敵を殲滅する、見た目にも派手で強力な高等魔法。

キリシマが持つ魔法使い職をカンストさせた時に得られるスキルは、雷系の魔法威力を増大する代わりに詠唱時間が長くなるというもので、最高火力を出すためには35秒という比較的長い詠唱時間が必要だった。

黒鎧の男の守りがどうあれ、トップクラスのプレイヤーが操る最大火力の魔法にはどんなモンスターでも太刀打ちが出来ないはずだ。

相手がもしもNPCであるならば人間キャラクターの最大HPである9999のダメージをも叩きだすこの魔法を使えば一撃である。

魔物かNPCかを見分けるために当てるとしても十分すぎるほど十分な選択だろう。


そして、その35秒のあいだ無防備になるキリシマに敵が近づかないよう身をはって彼を守るのがバーレッドの役割。

二刀流の剣士である彼はかつての仲間であるスクルージのような重鎧の戦士や体力自慢の舞踏家プレイヤーにはやや劣るものの、魔法職と比べれば断然HPも高く防御力を上昇させるスキルも会得している。

加えて彼は俊敏な動きが得意で回避率がそこそこあり、重量級の敵とは相性が良い。バーレッドは敵の斧の大振りな攻撃をかわすことに特化していた。


「ルタくんは僕を常に回復し続けてください。MPが切れてしまったら隙を見てアイテムを使って補充をして、とにかく僕のHPが減らないように注意していてください」


そして二者がそれぞれの役割を徹底する中、直接ダメージを与えるではなく場を管理するのが回復職の役目となるが、全体を見据えてHPの管理をすることなど初めて強大な敵を前に連携するルタには無理な話だろう。そのことはキリシマもバーレッドも踏んでおり、無茶振りをするようなことはしない。

ルタには単純明快でわかりやすい、ただ一つの役割のみを真摯に全うするという作戦を与えるのだった。


「聞いているな? 貴様にかかっているのだぞ、ルタ」

「が、がががっ、がんばります……!」


名前を呼ばれたルタはビクッと飛び上がる。課された役目へのプレッシャーに思わず食べていたバケットを喉につっかえてしまいそうになる。ベテランのプレイヤーの二人がついているとは言え、その二人の命綱を握るのがはしくれの自分だなんて。と弱気になり眉がみるみる下がってしまう。それでもやるしかないのだ。ネガティブな言葉をパンと一緒に飲み込む。


「任せてください、ご主人さま! バーレッドさん!」


威勢よく水を飲み、食べ物を押し流しながら大きく頷いた。彼の大きな青い目はもう不安の涙目ではなく希望に満ちている。


「その勢いです、ルタくん」


今回の作戦では全戦力を鎧男討伐に注ぐため、シャーロッテの注意を引き付けておく囮役は無し。彼女に不審がられないように立ち回る必要がある。

それはすなわち、侵入を悟られずに事をすべて終わらせる……それだけ素早い攻略が必須となるということである。

「最初から分担をせず二人一緒に地下に赴いていればよかったのでは?」というルタの言葉には、キリシマは耳を塞いで否定をした。何事もやってみてからでないと解らないものだ。あとからいう言葉はなにもかも結果論に過ぎないのだぞ。と。




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