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29.上手くやる

「ふむ。見事なみねうちであった。流石はバーレッド」

「キリシマさんこそ流石ですよ」


横からルタのステータスの成長具合を確認しバーレッドが言う。


「久しぶりですね、この作戦。強敵の先頭にレベルの低い初心者を置いて、経験値が多めに得られるように最後の一撃だけを決めさせる……なんて言うんでしたっけ?」

「龍へと至れる鯉の王作戦だ」

「そうそう。そんな名前をつけてたんでしたね。でも、新人のレベル上げと同じように手伝い屋のレベルを上げるなんて。ゲーム時代じゃあ手伝い屋を戦えるように育てるなんて考えつかない発想でした」

「持てなかった武器が装備できるということは、今の奴らは戦うことも可能だと考えたまでだ。レベル40前後の大熊グリズリー一体で結構な経験値が入る。この調子ならばすぐにルタを中級者レベルにしてやれるだろう」


キリシマもバーレッドもただ懐かしい思い出を振り返りながら、「やった! やった!」と敵を倒してはしゃぐルタを見守っていた。


(LSOがゲームであった頃にはこうしてよく新規プレイヤーの手助けをしていたものだ)


キリシマはギルドの長として、自身の領地へ来る者には平等に接し面倒を見ていた。バーレッドもギルドの所属内外を問わず、通りすがりに助けを求めらても気持ちよく応じるような性格だった。かつて新人たちに必要とされていた玄人二人は、こうして人と人との繋がりを感じていた頃のゲームが楽しかったな。と思い出にふける。


「おーい! ご主人さま! 次行きましょうよーー!」

「そう急かすなルタ。すぐに行く」


二人の助力もありレベルが上がっていくと、ルタ自身も着々と自信をつけてきたようだった。連れてこられた最初こそおっかなびっくりにキリシマの後ろで震えて同行していたはずが、数回大熊を狩っているうちに自分から前を歩くようにさえなっていた。めざましい進歩である。

キリシマとバーレッドで敵の行動封じとみねうちをし、とどめをルタにささせる。この方法で大熊狩りを続けた一行の思惑通り、初心者未満だったルタのレベルは今や35となっていた。

これは、ソロで遊ぶプレイヤーがストーリーモードをクリアしたときのレベルと大体同じで、一通り自分でやりたいことが出来るようになる頃のレベルともいえる。普通ならばこの辺りでより強者との戦いや交流を求めてギルドに加入するのがLSOのオンラインモードでの遊び方だった。


「それではこれを」


35レベルを迎えたルタに、キリシマはギルドメンバーの証である水晶の首飾りを贈った。ギルド名にちなみ翼を持った蛇が彫り込まれている特別品で、彫金師技術のスキルをマスターしているギルド長にのみ作成できる宝飾品だ。


「大切にします! ご主人さ……じゃなくて、ギルドマスター!」


このアイテムをNPCであるルタに贈れるということ自体がキリシマとしても意外な発見だった。ルタは手伝い屋というNPCなのに、ここまでやってきた事はまるでプレイヤーと変わらない。二人が初心者プレイヤーとの交流で行ってきたそのままのことを思い返しながらやってあげているだけで、特別な事は何もしていない。そうしてすっかり一人前になってしまった。

NPCを育成してプレイヤーと遜色なくできるということはゲーム時代には考えられないことだった。二人が知らなかっただけでいずれは導入される予定だった機能なのかもしれないが、サービス終了となった今では確かめることはできない。


ルタが特別な存在なのだろうか。とも考える。

目の前の彼は間違いなく自分たちプレイヤーたちとなんら変わりなく交流し、武器とアイテムを装備する。自分たちのパーティやギルドに加入して魔法を唱え一緒に戦うことだってできた。単なるプログラムだと思っていた少年の偶像が、目の前で泣いて笑って息をしている。

従うだけの存在だったキャラクターが感情を訴え、意見もしてくる。一体どういう仕組みで彼は動いているのだろう。どうして自分たちと同じようにここに居るのだろう。


「ううむ、奇々怪々だ……」

「ほ、ほっぺいたいれしゅ……」


考え出してはまだ夢の中にいるのではないかと、ついついルタの頬をつねりながらキリシマが唸る。


「ああ。すまなかったな」

「いいえ。大丈夫ですご主人さま。ところで次はどこで冒険をなさるのですか? ご主人さまのおっしゃっていた、ご主人さま方にも倒せないエネミーというのは一体……」

「それなんだけど……そろそろいいんじゃないですか? キリシマさん」

「そうだな。もう教えてしまって構わん」

「それじゃあ次の敵と作戦のこと、ルタくんにもわかるように詳しく説明するね」


酒場の席を今度は三人で囲み、生ハムを乗せたバケットを人数分注文しながら二度目になる現状の整理が始まった。

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