21.立て直し
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「……なるほど。それで逃げてきちゃったわけですね。キリシマさんに襲い掛かってきたその敵、名前やレベルなどは確認できなかったんですか?」
変装の燕尾用を普段使いの黒服に戻しながらバーレッドが言うと、キリシマも破られた虎柄のマントを脱ぎながらおずおずと話し始めた。
「そう責め立てないでくれバーレッド。あんな奴見たことがなかったのだ。シャーロッテめ、また新しく変な魔物を飼いおってからに……」
「責めてはいませんよ。僕だってキリシマさんと同じめにあったら咄嗟に対応出来るかわからないですし」
さんざん通い慣れていた地下ダンジョンのその奥地。クリア目標である宝箱の向こう側にあるシャ―ロッテの金庫に近づくことが可能だということは確かめられた。
しかし、そこに突如として現れ攻撃を仕掛けてきた漆黒の重鎧は、過去にダンジョンで見て来た魔物たちとは違う異質な空気を纏っていた。
その者のただならぬ殺気と職種的状況の不利に無我夢中、キリシマは分析することも放って逃げ出してきてしまったといい消沈する。
上等な装備を整え誰もが羨まるスキルを数多く修得している上級プレイヤーのキリシマにしては何とも情けない話だが、彼の性格はバーレッドもよく知っていた。
肝が据わっていて勢いや思い切りは誰よりもいいし、攻勢状態でのゲームメイクは上手い。
そのくせに仲間の士気が低いと自分もネガティブな感情で行動を左右されてしまう繊細さがあり、ソロプレイヤーとしての融通はさらに薄弱。予期しないトラブルは大の苦手で、そうなると混乱しがちという残念な面もある。
給仕のふりをする役割のほうを自分と交換していたらまだよかったかもしれないな。と、バーレッドは今更ながらに思った。キリシマが変装に抵抗を示さなければの話ではあるが。
「うーむ……」
「見つかりました?」
バーレッドはこの世界がゲームであったときのように何事もそう上手くはいかないということも察し同時に思考していた。
もし自分が未知の敵に遭遇しても冷静でいられるだろうか。予想外の出来事が起きたとき即座に対処できる自信は正直なところ、ない。バーレッドはキリシマだけが情けないとは思えなかった。
「いいや。特徴を照合しているが、魔物図鑑には掲載されていないようだな……」
所持品の一覧から魔物図鑑を選択しテータベースを検索していたキリシマが不満げに唸る。
ゲーム上何処かで同じ魔物に出会ってさえいれば魔物図鑑には自動的に登録されるはずだが、大斧を持った黒い歩く鎧らしきモンスターは見つけられなかった。




