19.大蝙蝠
歩きながら思い出すことは友人たちとの楽しい記憶だけではない。記憶が思い出させる通りにいけば地下への入口から角を六つ。右に曲がって七つ目の角でお決まりのエネミーが設置されている。
「……やはり、出たな。ブラッドバッドキングよ」
予想通りのエンカウントが待ち受けていた。
キリシマの頭上に天井を覆う程大きなコウモリ型のモンスターが現れる。
名前は大蝙蝠。見た目のそのままで、全長は6メートル。レベルは45。
この程度の敵はボスにも満たず、初心者プレイヤーたちならともかくベテランの自分の相手ではない。と、キリシマは心の中で呟いた。
「ふん。ゆくぞ」
松明を隅に立て掛けて置き、コマンドで得意武器の杖を呼び出す。
キリシマの杖はギルドの名前を冠している通り二頭の翼を持った蛇が絡みつき秘宝の輝石がはめ込まれた立派な杖だ。一振りで魔物の軍勢を壊滅させた伝説を持つというフレーバーテキストが付いた代物で、世界に数本しかない最強武器の一本。彼が限られた上位プレイヤーたる証を示す武器でもあった。
闇を伴って滑り落ちてくる大蝙蝠の突進をひらりとかわし正面から向き合えば、
「聖なる碧光よ! 悪を焼き滅し給え!」
短い詠唱によって緑の風が吹き杖の先端が敵の鼻に触れようとした時、強烈な閃光がそこから放たれた。
たちまち大蝙蝠は反対に仰け反り眩さに顔を覆う。敵が怯んだその隙にキリシマは呪文で追い打ちをかける。
「季節の指揮者よ我に従え! 風刃!」
コマンドと共に素早く片手をかざし、杖と反対の手のひらから風の刃を放つ。
空中に逃げようと飛び上がる大蝙蝠の片翼めがけて砂を巻き上げながら大きくなる風の刃は、敵を逃さず地面へと叩き落とした。
キリシマは片方の翼の皮膜を破かれ身動きのとれない大蝙蝠を分析する。
「残り体力は六○○といったところか。虫の息だな。雑魚め。散るがいい」
とどめの呪文には初歩的な小ぶりの炎の玉を選んだ。
魔法職を選んだプレイヤーが一番最初に取得する魔法だがそれもキリシマほどの上級者になれば威力は桁が変わってくる。
見た目は草の塊を炎上させる程度でも、大蝙蝠の残りの体力を越えるダメージを与えることができる威力を持つ火球。
自身のMP・マジックポイントの消費を気に掛けながら敵にとどめを刺し、キリシマはさらに奥へと進んでいく。




