16.ネズミ小僧作戦
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二人がターゲットに選んだシャーロッテ・イヴィナは、テンプレートも万歳三唱でよろしくどうぞごめんあそばせボンボワールな悪役令嬢だ。
LSO稼働の最初期、期間限定イベントで登場した彼女は土地を開拓した資産家の父の財産を使って違法な流通を繰り返し、ペットと称した狂暴な大型モンスターを買い付けて暮らす絵に描いた悪役代表NPCだった。
その後も運営に気に入られていたのか、ネットの宣伝広告では彼女の高笑いから罰を与えられて目を回すまでのムービーが流されたり、描きおろしの記念イラストを公式が使ったグッズ販売がされることもあった。
そうしてLSOでは年に二度ほどシャーロッテがメインになるクエストが毎年のように開催された。
プレイヤーは期間内の前半で舞台となる場所を巡り彼女の悪事に関する情報を集め、後半は前半の報酬を消費してボスである大型モンスターを討伐しさらなる報酬や期間限定の称号などを得る……といったクエストが通例行事として存在していたのだ。
そういった便利なキャラクターとして扱われていたために、彼女は一回のイベントで悪事を働いたあとも全く懲りずに同じ過ちを繰り返す。
いわゆる勧善懲悪の気持ちよさをすべての参加者に伝える役目を持つ、「ごぞんじお決まり悪役コンテンツ」としてプレイヤー達の反対側に永久にいるキャラクターがシャーロッテなのだった。
「うん。彼女なら民にもお騒がせな人物だと思われているでしょうし、誰も悲しまないでしょうからね。と、いうか本当にいるんだ。うわあ……」
使用人たちに囲まれ、庭のあずま屋でうたた寝をしているシャーロッテを生垣越しに観察しながらバーレッドが頷き、メニュー画面を開いて自分の装備を変更する。
服はどうやら一瞬で着替えさせてくれる仕様らしい。自分で着替えることもできるようだったが、裸にならずに服だけが切り替わるゲーム時代のコマンドセットを選択した。
「これでどうかな?」
「ああ。申し分ない。立派な奴の小間使いに見えるぞ」
「こ、小間使いって……」
いつもの黒づくめコートからパッと服が変更される。
質素だが小綺麗な洋装に着替えたバーレッドに対し、からかうように笑ってキリシマも準備を始め、
「戦闘は出来れば避けたいところだがやむを得ん場合は……だったな」
「シャーロッテの取り巻きたちの戦闘値はもともと大したことはなかったと思うんで心配ないとは思いますけど。一番強い使用人NPCでも60レベルくらいみたいですし」
「ああ。そのようだ」
「では、さっき話した通りの作戦です。僕がシャーロッテ達を引き付けておくのでその間にキリシマさんが倉庫に忍び込むということで。目標金額は家を買うための数千万円。引き出したら全力で逃げましょう。安全が確認出来たら連絡をください。僕もあとでこっそり退散して合流します」
ターゲットにアイコンを表示させながら二人で立てた作戦を振り返る。
世にはばかり紅茶をすする高貴な憎まれし暴君を叩き、弱き貧民(ここでは自分たちのことを言っておく)を助ける大仕事。
題していやしんぼネズミ小僧作戦が決行されるときがきた。




