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5月17日(月曜) オカルト研究会探訪①

 薄暗い室内だ。

 自分の部屋のベッドの上だということは分かったが、すぐには起き上がることができなかった。身体が強張って、ろくに動かすことができない。

 布団の中で少しずつ首や手足の位置をずらし、動くことを確認しながら、凝りをほぐすようにしていく。身体を丸めて横になった状態から、そうしてなんとか仰向けになった。

 緊張で全身が固くなったように感じていたが、特に自分の身体の下敷きになっていた左腕は痺れて感覚がなくなっていた。

 だから吉岡が引っ張っていたのも左腕だったのだろうか、などと無意識に関連付けて考えてしまう。

 滞っていた血の循りがよみがえり、腕全体に、こそばゆいような、チクチクと刺されるような痛みが広がっていく。確かに自分が感じている痛みのはずなのに、その腕がまるで自分の物ではない、異物になってしまったかのようだった。


 身体の回復を待つ間、改めて夢のことを思い返していた。

 そして、自分がさっきまで見ていた夢の内容を、とても鮮明に憶えていることに驚くのだった。一瞬、あれが実際にあった出来事なのでは、という恐れが頭を過ぎり再び身体が強張る。

 そんなはずはない。

 そんなはずはないのだが、そんな錯覚を起こさせるほど、現実の記憶との境が曖昧だった。

 これまでも印象深い夢を見たことはあるが、これほどはっきりと記憶されていた夢はない。

 目が覚めた今、特に異質だと感じられるのは視覚情報の鮮明さだ。

 夢を見ている最中はそのことに気が回らなかったのだが、今思い返すと、あの夢らしからぬ視界の明瞭さに対し、違和感を覚えなかったことが不思議でならない。

 夢の中で自分がいたのは、普段通っている高校の校舎の中。教室棟から体育館へと続く二階の渡り廊下だった。

 その窓から見える外の様子も見慣れた情景で、現実の校舎の間取りと寸分違わないものだった。……そのように思えた。

 その違和感のなさが、逆に夢らしからぬ違和感を呈しており、まるでつい先ほどまで実際にその場にいたかのような錯覚の元になっていた。

 夢とは、本来もっと漠然としていて、理屈の通じない不条理なものではなかっただろうか。


 それに反してというべきか、だからこそというべきか。生徒を襲っていた謎の存在の異質さが際立っていた。

 細部まで夢らしからぬリアルさで鎧われた夢の世界で、あの存在だけ輪郭がぼやけ、抽象的な、概念のような振る舞いを見せていた。

 夢の中で感じた、あの腹の底が冷えるような恐怖感は、そういったアンバランスさに因るものだったのだろうか。

 そんな歪さこそが、あの夢を夢足らしめる不条理さであり、確かにやや風変りではあったが、その実、やはりただの夢なのだと説明することもできる。


 ゆえに、そう片付けることにした。

 そうであってもらわなければ、恐ろしくて布団から抜け出すことも出来はしないではないか……。

 意を決して、ようやっと上体を起こす。

 時計の表示は午前五時過ぎ。

 普段より一時間も早い起床だった。

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