5話 異世界4
冒険者ギルドの建物が見えてきた。
平太は、
「よし! 初依頼を成功させたお祝いに、今日は俺が奢ってやるぜ!」
と言って、駆け出した。和樹はその背に言う。
「おいおい。無理すんなって」
「大丈夫だって! へそくりがあるから!」
腕を上げてポーズを決める平太だったが、今ギルドから出て来た三人の男達を見て、ぴたりと足を止めた。男達は、平太に気付いた仕草で、近寄ってくる。
「ヘイタ、今頃戻ってきやがって、どこ行ってたんだてめぇ~」
前を歩く長髪の男で、リーダー格と感じられる男が言う。三人とも、革製の鎧を着こんでおり、腰や背中に、武器を背負っている。
「い……依頼だよ。薬草を取りに……」
平太は後ずさりをするが、残りの二人に回り込まれ、三人に取り囲まれる形になった。
「てめぇ、今日は俺らとPTを組んで、狩りの予定だったろうが。何 途中でいなくなってんだよ?」
「お……お前らが消えたんだろ! だから俺は戻ってきて、別の依頼を受けたんだよ!」
「消えてねぇよ。狩りなんだから、息をひそめて隠れてたんだよ。獲物が寄って来るのをよぅ」
「それを……説明しとけよ! じゃあ俺も隠れたのに!」
そこで長髪の男は平太の髪をむしりと掴み、顔を引き寄せて言う。
「囮まで隠れちゃ、狩りになんねーだろうが。お前には貴重な、ホーンベアを引き寄せる蜜粉を振りかけてたんだからよ。で、その蜜粉の代金を、俺らに返すべきだよなぁ? そうだよなぁ?」
「……ホーンベアを引き寄せる? ちくしょう! だからか! マクール、てめぇあの粉は、魔物避けだって……。嘘ついてやがったな!」
平太は、両手でマクールの手首を掴むが、マクールの腕はびくともしない。
「知らねぇなぁ? ロッテン、モース、俺 そんな事言ったかぁ?」
長髪の男、マクールに振られた仲間の二人は、へらへらと笑いながら答える。
「い~やぁ。ちゃんと話したぜ。ヘイタが囮で、ホーンベアを引き寄せる役だってよぉ」
「そうだそうだ。それで、俺達がとどめを刺すってなぁ。逃げ出したヘイタのせいで、今日の狩りは失敗したんだよなぁ」
ロッテン、モースがそう言うと、マクールは、掴んだ平太の頭を前後に揺すりながら、左口角を上げて言う。
「蜜粉代、ホーンベアの損害金、あと、手間賃、慰謝料、迷惑料、全部で金貨五十枚ってとこかなぁ…ん?」
そこまで言うと、マクールは、平太のリュックから覗く白い物に気が付いた。当然、許可なくリュックに手を突っ込み、白い角を引き抜いた。
「お前 これ……、ホーンベアの角じゃねーか? まさか、倒したのか?」
「何すんだ! 返せ!」
平太が取り返そうとするが、マクールは角をロッテンに投げた。受け取ったロッテンは、角をまじまじと見る。
「確かにホーンベアの角だぜ。ヘイタに狩れる訳がねーから……」
ロッテンとモースは、二人して後ろを振り返り、和樹と五十嵐を、上から下へとじろりと見た。
「知らねぇ奴らだが……」
「ただ物ではなさそうだな」
ロッテンとモースは、まったく物おじしない和樹と、この世界では斬新な緑の迷彩服を着ている五十嵐に、普通では無い印象を持ったようだった。
マクールは平太のリュックを取り上げ、中から残りの二本の角も取り出した。そして、リュックは道に投げ捨てる。リュックの中から薬草が道の上にこぼれた。
「傷無しの角が三本か、こりゃ上々だな。まだ魔石とかあんじゃねーのか? 出せよ」
「ね……ねーよ! もう何もねーよ!」
そう答える平太だが、マクールは、平太の視線が一瞬、下に落ちたのを見逃さなかった。
平太の髪を掴んでいたマクールは、平太の腹に膝蹴りを入れた。そして、くの字になった平太の背を、思いっきり上から殴りつける。
「うぐっ!」
平太は顔を土に打ち付けた。そして地面で腹を押さえてもがく。その平太の右膝を、マクールは強く踏みつけた。
「おい! この足だ! ズボンの裾を見てみろ!」
マクールが指示をすると、ロッテンがしゃがみ込んで、平太のズボンを足首からまくり上げる。すると何かを見つけたようで、それを力任せに引きちぎった。
「金貨だ! こいつ縫い付けてやがったぜ! たった一枚だが、今日の宴会には十分だぜ!」
三人は、平太の金貨を見ながら、下品に笑った。
眉をひそめてその様子を見ていた五十嵐だったが、横にいる和樹の拳に、ぎゅっと力が入っているのに気が付いた。
「和樹殿、任務の優先順位ですが……もちろん…」
「分かっているよ」
和樹は、表情を変える事無く答えた。
マクールが、
「こいつはぁ、隠してた罰を与えなきゃぁだよなぁ?」
と、言うと、ロッテンとモースは、肩を揺らして笑いながら、何やら期待の眼差しをマクールに送る。
「じゃあ、これだ!」
マクールは、不意に腰のナイフを抜いたと思うと、地面に投げつけた。そこには、平太の掌がある。
ドスッ
「ぎゃぁぁぁ!」
平太は、右手首を押さえて地面を転がった。その右手からは、小指が根元から消えていた。
「良いか? 借金として、明日からはちゃんと全財産を差し出せよ? 出さなきゃ、一日に一本、指が無くなるからな。足の指入れても、二十日後にはつんつるてんだ。そうなりゃ、もう人間じゃねーから、魔獣として首を落としてやるよ!」
また、ぎゃははと下品に笑う三人だったが、何やら気配を感じて振り返った。そこには、無表情ながら殺気を放つ和樹と、頬をぱんぱんに膨らました五十嵐がいた。
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