第45話
「ヌンッ!!」
鍔迫り合いの状態から、魔人は力任せに押し切ろうとする。
伸はそれに合わせるようにわざと後方へと飛ばされ、魔人との距離を取った。
「ハッ!!」
「っと!」
距離を取った伸に、魔人は火球を放つ。
伸はそれを横に跳んで回避する。
「セイッ!!」
「危なっ!」
魔人は、伸の回避する方向を読んでいたように迫る。
接近すると、そのまま突きを放つように腕を伸ばしてきた。
その攻撃を、伸は刀を使って反らすことに成功する。
「そんな刀で防ぐなんて、たいした剣技だ!」
「どうも! 祖父譲りでな……」
両手の爪を振り回して伸へと攻撃する魔人。
その攻撃を、伸は刀を使って防御する。
防ぎ続ける剣技に、魔人は攻撃をしながら感心の言葉を呟く。
それに対し、伸は律儀に返答する。
敵である魔人からの言葉だとしても、剣技を褒められて嬉しそうだ。
というのも、伸の師匠は祖父だからだ。
「厳しかったけどな……」
剣技を褒められて、伸は祖父のことを思いだした。
小さい頃に両親を亡くした伸は、祖父母によって育てられた。
祖父から剣技を、祖母から魔術の基礎を受けて育ったため、自分が強くなったのは2人のお陰だ。
伸の祖父である義光は、魔術師として名門の鷹藤家に生まれたが、魔力が無く家を出るしかなかった。
だからといって、別に義光は弱いわけではなかった。
魔力が無いのなら、剣技を鍛えればいいと考えて懸命に鍛えたそうだ。
結局、生身の肉体では強い魔物を倒せないと分かったが、その剣技は魔術なしなら負ける者無しといえるほどにまで達していた。
その祖父に幼少期から指導を受けたことで、伸は剣技も得意な魔術師となったのだ。
「しかし、その剣技も所詮は防御としてしか役に立っていない! 守ってばかりでは勝てないぜ!」
「……フッ!」
「……? 何がおかしい?」
攻撃を続ける魔人の言うように、守ってばかりでは時間を稼ぐ事しかできない。
反対側から洞窟内に突入した鷹藤の到着でも待っているのだろうか。
しかし、鼻で笑う様子を見る限り、どうやら違うようだ。
その笑みの意味が分からず、魔人は伸へと問いかけた。
「守ってばかりでは勝てないことくらい分かっているさ」
「……抜刀術? 面白い……」
魔人の攻撃を躱して少し距離を取ると、刀を鞘へと納刀する。
その様子を見て、魔人は伸が何をする気なのかを理解した。
狙いは、抜刀による攻撃なのだろう。
これまで回避一辺倒だった伸のその行為に、魔人は期待と共に警戒を高めたのだった。
「…………」「…………」
右足を前にし、左手は鞘を握る。
いつでも握れるように右手を柄の付近に置き、前傾姿勢で伸は魔人を見つめる。
その態勢からどんな攻撃が繰り出されるのかを警戒しつつ、魔人は伸を見つめる。
お互いが無言のまま見つめ合い、この場に少しの時間静寂が訪れた。
「ハッ!!」
「シッ!!」
沈黙の睨み合いから、先に動いたのは魔人の方。
伸の狙いは、攻撃される前に接近しての一撃と判断したことによる反応だ。
それが成功したのか、自分の攻撃のタイミングに合わせるように、伸が間合いに入ってきた。
『速いっ!! しかし……』
予想以上に伸の移動速度が速い。
そのことに慌てるが、攻撃を合わせるのは可能。
そう判断した魔人は、迫り来る伸へと目掛けて右腕を振り下ろした。
“フッ!!”
「消えっ……!?」
振り下ろした爪が伸を斬り裂く。
そう思った瞬間、伸がその場から消えるようにいなくなった。
目を見開き驚くが、魔人はすぐさま探知で伸の居場所を探る。
そして、伸が自分の背後へと移動しているのを微かに感知した。
「シッ!!」
「そこだ!!」
背後に回った伸が、物音を立てないように抜刀する。
そして、その刀がそのまま魔人の首を目掛けて迫る。
高速移動に高速抜刀術。
その攻撃に対し、魔人は振り返りながら左手の爪を上げる。
「……ハハッ! すげえ威力だな!?」
ほぼ直感による防御によって、伸の攻撃が魔人の爪に防がれた。
しかし、5本ある爪の3本が伸の攻撃によって斬り落とされた。
地面を容易に掘ることのできるほど強固で、さらに身体強化しているにもかかわらず、片手の爪が半分以上斬られた。
なんとか止めることに成功した魔人は、その威力に冷や汗を掻きつつ笑みを浮かべた。
「終わりだ!!」
伸の全力攻撃を防いだ。
これで伸を目の前に留めることに成功した。
伸と違い、魔人は両手に武器がある。
左手は防御に使ったが、右手の爪が残っている。
勝利を確信した魔人は、残ったその右手を振りかぶり、伸へ向かって振り下ろそうとした。
「……いや、まだだ……」
「っっっ!!」
魔人の右手の爪が振り下ろされる前に、伸は小さく呟く。
速度を利用した抜刀術。
たしかにそれで仕留められれば、それに越したことはないだろう。
しかし、それが防がれたら、力を籠め多分次へ移動するのに僅かに時間がかかる。
その隙に攻められれば、逆にこちらが攻撃を受けることになる。
攻撃を受けないように、防がれた時のことは考えていた伸は、そのまま対策を実行に移した。
「ま、魔じゅ……!?」
伸の呟きが聞こえると、魔人は異変に気付く。
左手で防御した伸の刀。
自分に向けられているその刀の切っ先に、魔力が集まっていたのだ。
魔術発射の兆候に、魔人は慌てたような言葉を発しようとするがもう遅い。
「ハッ!!」
“ボンッ!!”
「……ガッ!!」
向けられていた刀の切っ先からの火球魔術。
超至近距離から顔面で受けた一撃に、魔人は煙を上げたまま吹き飛んで行く。
とんでもない速度で飛んで行くと、魔人は地面に数回バウンドして仰向けに倒れた。
「フゥ~……」
魔術を当てることに成功し、伸は軽く息を吐く。
しかし、表情を緩めるようなことはしない。
何故なら……、
「……ぐ、ぐぅ……、ぎ…ざま……」
顔面を大火傷しながら、魔人は上半身を起こしてきたのだ。
ヨロヨロとしつつも立ち上がった魔人は、火傷で閉じることができなくなった目で伸を睨みつけた。
「……すげえ生命力だな」
大火傷を負いつつも、魔人はゆっくりと伸へと近付いてくる。
まだ戦う気でいるようだ。
「ごろ…ず!!」
ゆっくり迫ってきた魔人は、伸に近付くと右手を振り上げる。
これまでのような高速の攻撃はどこへ行ったのかと言うほど、その動きは鈍い。
「ハッ!!」
その振り下ろされた攻撃に合わせるようにして、伸は魔人の首を斬り飛ばした。




