表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
276/280

第276話

「これは……」


 伸が戦っていると思われる大爆発が起きた場所に到着した柊家当主の俊夫は、周囲を見渡して小さく呟く。

 というのも、先程の爆発によって起きた土煙によって全貌は見えていないが、会場の武舞台は消し飛び、観客席も穴だらけになっている。

 しかも、隣の会場まで穴が開いている場所まである。

 どう戦ったらこのような状況になるのか理解できない。

 これを見たら、俊夫でなくても戸惑いの声を上げることだろう。


「あれはまさか……」


 会場を見渡していた俊夫は、端の方に折れた刀が落ちているのを発見する。

 その柄には見覚えがある。

 伸が使用していた刀だ。

 刀が折れているのを見て、伸の身に良くない何かが起きたのではないかと俊夫の頭をよぎった。


「っ!?」


 少しずつ土煙が治まってくる。

 そして、その中から人の姿らしきシルエットが見えてきた。

 俊夫としては、伸が無事でいることを願いつつそのシルエットに目を凝らす。


「……っっっ!? そんな……」


 土煙の中から姿が見えた。

 伸であることを願っていた俊夫だったが、それは叶わなかった。

 立っているのが魔人バルタサールの方だったからだ。

 そのため、驚きと共に絶望の気配を感じていた。


「お終いだ……」


 俊夫にとって、伸は柊家の期待の婿殿だ。

 それだけではなく、この大和皇国にとっても希望となる存在になる事は間違いない。

 だからこそ、伸ならどんな魔人にも負けないと信じていた。

 そんな伸が敗れるなんて、自分や魔闘師たちが束になっても勝てる気がしない。

 そのため、俊夫はこの国の終わりが迫っていることを感じざるを得なかった。


「…………見事だ」


 土煙が晴れ、バルタサールは小さく呟く。

 誰に言っているのかは明白。

 伸に向かってだ。


“ガラガラッ!!”


 バルタサールの攻撃によって開いた壁の穴が、上にある観客席の重みに耐えきれずに崩れ落ちる。

 それによって、またも土煙が舞い上がった。


「……そいつはどうも」


「っっっ!?」


 土煙の中から声が聞こえてくる。

 伸の声だ。

 俊夫は目を見開き、声がした方向へ視線を向ける。


「生きてる……」


 土煙がなかなか晴れないため全身は見えないが、傷だらけでありながらも立っている。

 そのことだけでも、絶望を感じていた俊夫の気持ちに希望が生まれていた。


「まさかあの状況から転移をするとはな……」


 先程の全力を込めた自分の一撃。

 その攻撃が当たる瞬間、伸の姿が消え去った。

 それによって、ただ壁を破壊するだけになってしまった。

 伸が消えた方法については心当たりがある。

 転移魔術を使用したのだ。


「魔力を残していたなんてな……」


「まあな……」


 バルタサールを倒すためには、相当量の魔力を込めた攻撃が必要だ。

 そのために、伸はその一撃を放つための魔力を残しておいた。

 その魔力を使うことで、バルタサールの強力な一撃を回避することに成功した。


『じいちゃん、ばあちゃんに感謝しないとな……』


 生き残るために残しておいた魔力を使用してしまった。

 残りの魔力は、もうスカスカの状態だ。

 何とか立っているが、気を失わないように耐えるだけで精一杯だ。

 しかし、そもそもバルタサールほどの相手とここまで戦えた時点で出来すぎだ。

 ここまで戦えたのは、剣や体術を教えてくれた祖父と、魔力コントロール技術を鍛えてくれた祖母のお陰と言っていいだろう。

 そのため、伸は心の中で祖父母に感謝していた。


「どうやら、俺もいつまでもここにいるわけにはいかないようだな……」


 はっきり言って、バルタサールも残りの魔力は少ない。

 伸を倒すことができたとしても、この場に居続ければ危険でしかない。

 そう考えているのは、俊夫のことに気づいているからだ。

 俊夫だけでなく、他の魔闘師たちもこの場に向かってきているから尚のことだ。

 それでも、残りの魔力を使用すれば逃げ切るくらいは問題ない。

 安全に逃走するためにも、バルタサールは一刻も早く伸を倒すことにした。


「今度こそさらばだ。伸!」


 伸の残りの魔力では、身体強化することすら不可能だろう。

 足が小刻みに震えていることから、辛うじて立っている状態なのだろう。

 そんな状態なら、仕留めることなど簡単だ。

 先程の攻撃を躱したのは素晴らしいが、無駄に時間を長引かせただけに過ぎない。

 今度こそ仕留めるため、バルタサールは伸への別れの言葉と共に地を蹴った。


「新田君!!」


 怪我をして魔力も消費しているバルタサールだが、それでも移動速度が尋常じゃない。

 離れた距離にいる俊夫では、伸を助けたくても間に合わない。

 そのため、俊夫は思わず伸の名前を叫んだ。


「ハァーッ!!」


「…………」


 距離を詰めたバルタサールは、右拳を振りかぶる。

 それを、伸は動かず、ただ黙って見ていることしかできないでいた。


“ドンッ!!”


「っっっ!? がっ!?」


 バルタサールの右拳が、伸の頭部に迫る。

 その瞬間、伸とバルタサールの間に魔法陣が浮かび上がり、そこからバスケットボール大の魔力の玉が飛び出してきた。

 不意に真下から飛んできたその魔力の玉が、接近していたバルタサールの顎をかち上げた。


「シッ!!」


「っっっ!! バ、バカ…な……」


 顎を打たれ動きが止まったバルタサール。

 その隙を待っていたかのように、伸は右手で抜き手を放つ。

 所詮は身体強化をされていない生身の人間の攻撃。

 そう思ったバルタサールだったが、伸はその考えを覆す。

 右手の人差し指と中指の2本にだけ、魔力を纏っていた。

 その2本指の攻撃により、バルタサールの心臓に深く突き刺さった。


「お、おの…れ……」


 血を吐き、その場に崩れ落ちるバルタサール。

 それを見届けた伸も、糸が切れた人形のように倒れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ