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第268話

「ハッ!!」


「くっ!!」


 文康の刀が康則に迫る。

 上段から振り下ろされたその攻撃を、康則は刀で受け止める。

 しかし、片腕の文康の攻撃の威力はすさまじく、康則は抑えきれずに肩口を浅く斬られた。


「ぐうぅ……っ!!」


 追撃を防ぐために、康則は文康から距離を取る。

 父の康義と息子の道康は、怪我で戦闘に参加できるような状態ではない。

 そのため、自分1人で文康を倒さなければならなくなった。

 大怪我を負っているため、かなりの戦力ダウンをしていると思われた文康だったが、それでも強力な力を有しており、文康の方が少しずつ怪我を負う状況になっていた。

 何とか深い傷を防ぐことはできているが、追い込まれているのは完全に康則のように思える。


「ハア、ハァ、くそっ! さっさとくたばれよ……」


 康則に片腕を斬り飛ばされた文康は、道康の不意打ちで受けた傷同様、火魔術で傷口を焼くことで出血を無理やり塞いだ。

 出血を止めることはできたが、大量出血による貧血で足元がふらついているため、実のところ文康も追い込まれている。

 焼いた傷口は全く引かない。

 すぐにでも誰かに回復魔術を掛けてもらいたいところだが、康則のしぶとさがそれを許してくれない。


「鷹藤家の…ためにも、お前の…ためにも、ここで止める!」


 体中に傷を作り、ボロボロの状態の康則だが、その瞳は諦めていない。

 ここで文康を逃せば、多くの人々に危害が加わることになる。

 それは、鷹藤家としても、文康のためにも止めなければならない。

 それをできるのは、もうここには自分しかいない。

 その思いから、康則は断固たる決意で体中の痛みに耐え、文康へと向かって行った。


「ハッ!!」


「くっ!!」


 貧血で動くのがきついため、康則のほうから近付いてくれるのはありがたい。

 しかし、これ以上時間をかけると貧血に疲労も重なり、倒れてしまう可能性が高いため、文康は焦っていた。

 接近と共に斬り上げを放ってくる康則の攻撃を防いだ文康は、急いで反撃を繰り出そうとした。


「このっ!」


「くっ!!」


 攻撃を防いだ文康は右足でローキックを放ち、康則の左足を止める。

 本来ならば、ローキックは数発食らうことで動きが鈍るものだが、文康のは重いため、一撃で強烈な痛みが康則を襲った。


「シッ!!」


「おわっ!」


 ローキックを放った足が戻り切る前の片足立ちの状態の文康に対し、康則は足の痛みを我慢して突きを打ち込む。

 喉元目掛けて飛んできた突きを、文康は横に避けることで回避する。


「フンッ!!」


「くっ!!」


 突きを放った康則に、文康は今度は右足と言わんばかりにローキックを放つ。

 強烈な蹴りが太ももに入り、康則は表情を歪める。


「……チィッ!」


 たった2発のローキックによって、両足の動きが鈍くなってしまった。

 これでは、これまでのような動きができない。

 文康の攻撃を躱すには、速度が重要だというのにだ。

 更に不利になった状況に、康則は思わず舌打ちをした。


「ハッ!!」


「しつけえ……なっ!!」


「ぐっ!!」


 手を出さない事には文康を倒すことなどできない。

 そのため、康則は文康に向かって刀を振り下ろす。

 しかし、足の動きが鈍り、踏み込みが弱く、その攻撃はいまいち威力がない。

 そんな攻撃が通じるわけもなく、簡単に弾かれ、そのまま文康の前蹴りが康則の腹に突き刺さった。

 その攻撃によって、膝をついてしまいそうになるほど康則の膝が折れる。


「止めだっ!!」


 前蹴りが腹に入り、康則の動きが止まった。

 その隙だらけとなった康則を斬るために、文康は刀を振り上げる。


“パシッ!!”


「……っ?」


 振り上げた刀を振り下ろそうとした瞬間、何かが文康の顔に当たる。

 文康は、反射的に飛んできた方向に意識が向く。

 飛んできた方向にいるのは康義だ。

 もう動けなくなっているはずの康義が、大した威力もないビー玉くらいの魔力の玉をぶつけてきた。

 そんな攻撃でダメージを受ける訳がないことは、康義だって分かっているはず。

 そのため、文康は何がしたいのか分からなかった。


「……っ!!」


「っっっ!?」


 文康が康義に視線を向けたのは僅かに一瞬。

 その一瞬の隙を康則は逃さない。

 膝が折れて中腰状態から、無言で全力の薙ぎ払いの一撃を放つ。


「ごふっ!!」


 康則の攻撃は腕の無い左側へと向かい、文康の脇腹を()()()()()


「…ぐ…ふっ……」


「……、ハァ~……」


 文康は白目をむいて前のめりに倒れる。

 脇腹を()()()したとき、康則の手には骨が数本折れた感触が伝わってきた。

 他の傷による出血からくる貧血状態で、更には骨が数本折れたのだ。

 魔人とはいえ、これで意識を保っていられるわけがない。

 文康の気絶を確認した康則は、ようやく深い安堵のため息を吐いた。


「……殺さないのか?」


「……えぇ」


 魔人となってしまった以上、息子とはいえ殺すしかない。

 そのため、わざわざ峰を返す必要などなかった。

 戦いが終わり、ヨロヨロ近づいてきた康義が問いかけると康則は頷く。


「折角の()()()()ですから……」


「……そういうことにしておこう」


 本来は殺さなければならないところだが、これまで誰も成し遂げなかった魔人を生け捕りにすることができた。

 康則が口に出した通り、今後も出現するかもしれない魔人へ対抗するために、文康を研究材料とするために殺さなかったのだろうか。

 それとも、最後の最後で自分の息子を殺すことへの躊躇いが生まれたのだろうか。

 息子の本音はどちらなのか分からないが、康義はひとまずこの勝利を安堵した。



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