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第263話

「こいつらの後に相手してやる。そこで大人しくしてるんだな……」


 綾愛は怪我をし、邪魔になるのは俊夫のみだが、吹き飛ばしたことで距離がある。

 そのため、自分が奈津希と了に仕留めることを止められる者は存在しない。

 そのことから、オレガリオは俊夫に一言告げると共に、奈津希と了に向かって刀を振り上げた。


「ぐうぅ……!!」


「金井君っ!?」


 斬られた背中から血を流しながら、了は上半身を上げて近くに落ちていた自分の刀を拾ってオレガリオに向かって構える。

 出血の痛みで立ち上がれない状態で刀を構えたところで、オレガリオの攻撃に対応できるわけがない。

 それでも奈津希を背にかばうようにして、了はオレガリオを睨みつけた。


「……良い目だ。部下にほしいくらいだが、所詮は人間。死んでもらう……」


 自分が怪我をしているのにもかかわらず奈津希を守ろうとする了を見て、オレガリオは感心したように呟く。

 人間ながら天晴と言ったところだろうか。

 評価しても、了と奈津希を仕留めることを変えるつもりはない。

 そのため、オレガリオは振り上げていた刀を了目掛けて振り下ろした。


“プスッ!!”


「つっ!?」


 オレガリオは、了を仕留める手を止める。

 急に右腕に痛みを感じたからだ。


「…………?」


 俊夫が何かしたのかと思ったが、何かした様子はない。

 では、綾愛かと思って見つめるが、怪我で動けないでいる。

 二の腕に小さい怪我をして血が出ているが、何が起きたのか分からないため、オレガリオは首を傾げるしかなかった。


“プスッ!!”


「っっっ!?」


 何が起きたのか分かっていない状況で、再度痛みが走る。

 まるで針で刺されたような痛みで、今度は左の太ももに小さいな怪我を負っている。


“プスッ!!”


「くっ!?」


 今度は右のふくらはぎに痛みが走る。

 すぐにふくらはぎを見るが、何も目に移らず、何が起きたのか分からない。


“プスッ!!”


「ぐっ!?」


 今度は左腕。

 元々怪我をしていることもあって、痛みを強く感じたオレガリオは顔をしかめる。


「誰だっ!? 何をしている!?」


 大した怪我ではないが、無視できない程度のちょっとしたに痛みを感じる。

 しかし、一向に何が起きているのか分からない。

 もしかしたら、姿を隠して攻撃してきているのではないかと、オレガリオは刀を振り回して周囲をでたらめに斬りかかる。


“プスッ!!”


「っっっ!? おのれっ!!」


 刀を振り回すのを止めたとたん右脇腹に痛みが走る。

 原因が分からないまま怪我が増えていくことに、オレガリオは焦りを覚え始めた。

 この間に、奈津希が了を連れて距離を取っていることにも気付いていないようだ。


「だったら……」


 何かが接近しているような気配だけは感じる。

 しかし、その姿が見えない。


「ハアァッ!!」


 それならば、自分を中心にして360度に攻撃をすればいい。

 そう考えたオレガリオは、自分の足元目掛けて魔力を纏った刀を振り下ろした。


“ドーーンッ!!”


 振り下ろされた刀によってオレガリオの足元の地面が爆発し、大量の石礫が吹き飛んだ。


「…………」


 吹き飛んだ大小様々な石礫。

 近くに何者かがいれば、躱すために動きがあるはず。

 そのわずかな反応を見逃さないように、オレガリオは意識を集中する。


「っ!? そこかっ!?」


 僅かに何かが動く反応があった。

 それを感知したオレガリオは、そちらに視線を向けた。


「……キキッ!」


「……? ピ、ピグミーモンキー……だと?」


 視線の先にいるのは、小さい猿だ。

 ピグミーモンキーと呼ばれる種類である弱小の魔物だ。

 オレガリオは知らないだろうが、このピグミーモンキーは伸の従魔のピモだ。

 そのピモが、血の付いた針を持っている。

 少し離れたところでは、人間と魔人たちが命を賭して戦う殺伐とした雰囲気を醸し出しているというのに、完全に場違いな容姿をした小猿が紛れ込んでいる。


「お前だったか……」


 犯人を見つけられなかったのも納得いく。

 握り潰すだけで殺せそうな弱小魔物が、魔人である自分の体にいくつもの傷をつけ、翻弄された。

 そのことを考えると、オレガリオは沸々と怒りが沸き上がってきた。


「殺す!!」


 こんな豆粒の小猿にいいようにやられたと考えるだけで、血管が切れそうなほど腹立たしい。

 殺さなくては気が済まないオレガリオは、ピモと捕まえようと歩きだす。


「キッ!!」


「っっっ!? なっ!?」


 これまでは小さくて見つけられなかったが、見つけてしまえばもう見逃すことはない。

 そう思って近づき、捕まえようと思ったオレガリオだったが、ピモの動きに驚きの声を上げる。

 普通のピグミーモンキーとはかけ離れた移動速度で、その場から動き出したからだ。


「ピモちゃん……」


「ピモ? ……たしか、新田君の……」


 ピモが現れたことに驚いているのは、オレガリオだけでなく綾愛もだ。

 どうしてここにいるのか分からず綾愛が名前を言うと、俊夫もピグミーモンキーが誰の従魔だったかを思い出した。


「……何でピグミーモンキーがあんな動きをしているんだ?」


「……新田君の従魔だから…かな?」


 とんでもない速度で縦横無尽に動き回るピモ。

 その速度に目が追い付いていないのか、オレガリオはピモを見失っているようだ。

 離れている俊夫でやっと追いつけるほどの速度で動くピグミーモンキーなんて、今まで見たことも聞いたことがない。

 その思いから出た問いに、綾愛が疑問符を浮かべながら返答した。



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