第262話
「逃げてっ!! 奈津希ーーーっ!!」
幼馴染で親友の奈津希の危機。
それは、自分を守ろうとオレガリオの意識を引きつけたためだ。
自分のせいで奈津希が殺されてしまうことになるなんて、絶対に許容できない。
斬られた傷が痛むことなど気にすることなく、綾愛は奈津希に向かって大声で叫んだ。
「今更遅いっ!!」
「っっっ!!」
声を掛けようが、柊親子に自分を止めることなんてもうできない。
そのため、オレガリオは笑みを浮かべて奈津希へと刀を振り下ろす。
膨れ上がった筋肉による、とんでもない速度で振り下ろされる刀。
走馬灯のようにゆっくりとその刀が迫るのを、奈津希は死を覚悟しつつ目をつぶった。
“ズバッ!!”
「「「「っっっ!?」」」」
オレガリオの振り下ろした刀により、血が舞う。
その結果に、4人が目を見開く。
「ぐうぅ…………」
「金井君っ!! ……な、何でっ!?」
奈津希の命は助かった。
柊親子と奈津希、そしてオレガリオも想定していなかった人物が出現したためだ。
覆いかぶさるようにして、伸の親友である了が守ったからだ。。
しかし、了の背中から血が流れ、苦しそうに呻き声を上げる。
そんな了を見て、奈津希は涙ながらに問いかけた。
「……杉山に…死なれたく…ないからだ……」
不意に出た奈津希の問いに、痛みで苦しむ了は言葉を詰まらせながら返答する。
この高校3年間、了は対抗戦本選に3回全て出場できた。
それに引き換え、奈津希は2年の時の1回だけだ。
了の中で、自分と奈津希の実力は大差がないと考えていた。
自分が3回出場できたのは、単純にトーナメントの組み合わせによる運でしかない。
運も実力の内とよく言うが、了の中でそれを受け入れきれない部分があった。
しかも、今年の対抗戦で了は、伸を担ぎ出すつもりでいた。
高校に入ってからできた親友の伸。
いつも一緒にいることが多かったからこそ、実力の底が見えなかった。
確実に自分よりも強い。
八郷学園のためにも、実力のある人間こそ対抗戦の出場するべきだ。
その思いから、了は自分が出場権を掛けて、伸を引きずり出そうと考えていた。
しかし、その企みは不発に終わる。
自分が言いだす前に、奈津希が代表権をかけて伸との決闘を申し出たからだ。
実力的には同等と思っている奈津希だが、組み合わせの運とはいっても自分よりも結果は下。
出場できるだけで、大和皇国全土に名前を売ることができる対抗戦。
それを捨ててでも伸に挑むことを邪魔するのは、奈津希の決意を無にする行為になるのではないかなどと躊躇ったために、止めに入ることができなかった。
それも、自分が許せない一因だった。
それを払拭するために、上位を狙って一生懸命に対抗戦の上位を狙った。
結果的に、3位という最高の結果を出すことができた。
だからといって、自分のモヤモヤが払拭できたわけではなかった。
伸と綾愛の決勝で多くの魔人たちが現れた時、逃走を選択しようとした自分とは違い、奈津希は綾愛たちの援護のために刀を取りに向かった。
その時点で、自分は奈津希よりも劣っていると思ってしまった。
だったら、彼女を超えるためにも自分は逃げてはならない。
たとえ、戦闘に参加できないまでも、何かの助けになるべきだ。
その思いから逃げずに物陰から様子を窺っていたところで、奈津希の窮地を目の当たりにすることになった。
そうなったら、いつの間にか体が動いていた。
魔人に殺されそうになっていた奈津希を救うため、咄嗟に飛び出していた。
それによって怪我を負うことになったが、了としてはこれまでのモヤモヤを吹き飛ばすことができたため、どこか清々しい気持ちで意識を失った。
「金井君!? 金井君!! うっ、うぅ……」
意識を失った了に、奈津希が声をかけるが、了は反応しない。
自分の身代わりになってくれた了に、奈津希は縋りつくように大粒の涙を流した。
「……フンッ! 無駄に邪魔しやがって……」
急に現れて邪魔をされたが、何者かは分からなくても所詮人間は皆殺しにするべき存在。
殺す順番が変わっただけだ。
そのため、オレガリオは了に縋りつく奈津希を今度こそ始末するため、もう一度刀を振り上げた。
「やめろーーーっ!!」
了を斬りつける前から、オレガリオに向かっていた俊夫。
伸の友人だと認識している了が、どうしてこの場に現れたのかは分からない。
しかしながら、娘の親友の奈津希を救ってくれたことは確かだ。。
そんな彼と、再度奈津希を殺そうとしているオレガリオを放っておくわけにはいかない。
2人を何とかして救うために、俊夫はオレガリオへと斬りかかった。
「フンッ!! 邪魔だ!!」
「くっ!! くそっ!! くそーっ!!」
距離を縮めて斬りかかるが、またもオレガリオのパワーによって吹き飛ばされる。
速度は大差なくても、パワーの違いはどうしようもない。
吹き飛ばされて距離が空いてしまった俊夫は、了と奈津希を救えない自分の無力さに、歯ぎしりをするしかなかった。




