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第256話

 柊親子とオレガリオが戦っている場所の隣の闘技会場では、柊家当主義康と息子の康則、義康の孫で康則の息子で魔人と化した文康が戦っていた。


「ハハッ!! どうしたよ!?」


「ぐうっ!!」


「ぐっ!!」


 両手を広げ、高笑いをする文康は、離れた位置で膝をつく祖父と父に問いかける。

 魔石を飲み込みパワーアップに成功したため、戦いは文康優位に進んでいた。

 康義と康則は所々怪我をしており、少なくない量の出血をしている。

 文康も数ヶ所傷を負っているが、軽傷らしく痛みを感じている様子はない。


「昔のように打ち負かしてくれよ! お爺様! お父様!」


 オレガリオに誘拐されるまで、文康は一度として祖父や父を倒すことなどできたことはなかった。

 小さい頃から天才と言われ、才能の面だけで言えば祖父や父を超えることは間違いなかったが、高校に入ってから伸び悩み、その機会が訪れることはなかった。

 魔闘師業界のトップである鷹藤家の長男に生まれ、祖父から父、父から自分へと当主の座が受け継がれる可能性が高いため、プライドばかりが高くなり、傲慢な性格になっていたのが伸び悩んだ原因と言えるだろう。

 そんな性格になったのも、才能が高かったことも原因かもしれない。

 近くにライバルがいなかったことで、モチベーションが上がらないことが多かったのも成長の妨げになっていた可能性がある。

 なかなか成長できず、数か月前までは祖父や父を超える未来図なんて見えなかった。

 それなのに、魔人になったらその夢物語があっさりと実現することになった。

 あれほどイラついていた思いが一気に晴れ、文康の気分は高揚するばかりだ。

 そのため、康義や康則を挑発するように話しかけた。


「くっ!」


「こいつっ!」


 2対1でこの状況。

 たしかに文康は強くなったと言わざるを得ないが、それは魔人になったからだ。

 人間を捨て、魔人になる事で得たような、いわばドーピングのような力でしかない。

 しかし、調子に乗っている文康に追いつめられている自分たちが何を言おうと、負け犬の遠吠えとしてしか認識されないことは分かっているため、康義と康則は言い返せず歯噛みするしかなかった。


『しかし、どうしたものか……』


 思っていた以上に、文康はパワーアップしている。

 技術に関しては、数か月前とそこまで変わりはないため多少の隙は見受けられる。

 しかし、その技術を補うように込められた魔力が問題だ。

 いくら文康が自分より技術的に劣っているとはいっても、すべての攻撃を躱すことは難しい。

 そのため、刀で受け止めたりするのだが、大量の魔力で身体強化した攻撃の威力が半端ではなく、受け止めた瞬間に吹き飛ばされてしまう。

 ならば、遠距離からの魔術攻撃を放ってみるが、文康は溢れる魔力を使用して防いでしまうため、無駄な攻撃に終わってしまう。

 危険とわかりつつも、接近戦で勝負するしかない状況に、康義としては悩ましく思っていた。

 

『このまま続けてもこちらが不利だな……』


 魔力によって底上げされた強力な攻撃をかいくぐり、文康につけることができるのは浅い傷。

 それに対し、自分たちは文康の攻撃を受ければ大怪我をしてしまうため、刀で受け止めれば吹き飛ばされ、またも接近することに苦労することになる。

 その繰り返しを続けなければならないことを考えると、自分たちの方が不利なのは明白だ。

 何か文康に深手を負わせる一撃ができないか。

 康義は必死に頭を巡らせていた。


「……何か考えているみたいだが、そんな時間を与えないぜ!」


 パワーアップしたことで、魔力量が大幅に上昇した。

 その溢れる魔力を使うことで、自分が祖父と父を同時に相手しても有利に戦えている。

 しかし、経験値が豊富な祖父に時間を与えると、もしかしたらこの状況を覆す方法を思いついてしまう可能性がある。

 そうさせないために、文康は言い終わりと共に、刀を振って魔力の斬撃を2人に向かって放った。


「チッ!」


「くっ!」


 自分の孫なだけはあり、こっちにとって嫌な所をついてくる。

 もう少し考える時間が欲しいところだが、攻撃を回避することに集中しないと、何かを思いつく前に大打撃を受けてしまいかねない。

 仕方がないため、康義はひとまず考えることをやめ、文康の攻撃に対処することを選択するしかなかった。


『……こうなったら、自分を犠牲にして……』


 康義の援護を担当しているためか、康則の方が後方に位置している。

 距離があるためか、康義よりも文康の攻撃を躱すことにまだ余裕がある。

 そのためか、文康への対抗策も一つだけ浮かんでいた。

 それは、自分の身を犠牲にすることで、文康に大きな隙を作りだすという考えだ。

 孫殺しだけでなく息子殺しまで背負わせることになってしまうため、提案したところで父の康義は頷きはしないだろう。

 しかし、そうするしか文康を倒す方法がないため、康則は隙を見て勝手に実行するしかないと考えた。

 そのため、文康の動きを止める機会を見つけるため、康則は攻撃を躱しながら少しずつ距離を詰め始めた。



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