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第252話

「フゥ~……」


 眼をつぶり、深く息を吐き、精神統一する伸。


“キッ!!”


「ハーーーッ!!」


 目を見開くと共に、伸は一気に体内の魔力を体外へ放出する。

 そして、その魔力を身に纏い、身体強化のレベルアップを図る。


「……おぉっ! 肌が……!!」


 伸の身体強化を見たバルタサールは、感嘆の声を上げる。

 そして、自分の腕に鳥肌が立っていることに気付く。


「伸といったな!? これだけの魔力を操るなど、お前は本当に人間なのか!?」


 驚きの言葉と共に問いかけるバルタサールだが、その表情は嬉しそうで興奮している様子だ。


「ハハッ!! お前のような人間は生まれて初めてだ!! 魔人でも見たことがない!!」


 楽しそう。

 というより、楽しいのだろう。

 バルタサールのテンションは上がる一方だ。

 そうなるのも仕方がない。

 その言葉通り、長い年月を生きてきたが、バルタサールは生まれて初めて自分を楽しませてくれるであろう生物に遭遇したからだ。


『これを見ても笑うか……』


 バルタサールの反応は、伸としては望ましくはない。

 笑みを浮かべるということは、自分が負けることはないと分かっているからこその反応だからだ。

 バルタサールの魔力を見ての判断からすると、魔力の総量では自分の方が劣っている可能性が高い。

 それでも、笑みを消すぐらいはできると伸は思っていた。

 しかし、そうならなかったため、伸は自分が完全に不利な状況にいることを受け入れざるを得なかった。


『俺にとっては久々の感覚だな……』


 魔人と魔物。

 魔人は魔物から進化した生物だ。

 しかし、全ての魔人が、全ての魔物よりも上であるわけではない。

 魔物の中には、魔人以上の戦闘力を有している種もいる。

 祖父母が生きている時代から密かに魔闘師として活動していた伸は、魔人との遭遇はなかったが、魔人以上の魔物と戦った経験がある。

 魔人以上の魔物と言ったら、数えるほどの種類しかいない。

 その中でも、伸が遭遇したのは竜。

 魔人でも戦えるのは数えるほどで、人間が遭遇したら逃げの一択しかない生物だ。

 そんなのを相手に、伸は怪我を負いながらもギリギリの勝利を収めることに成功した。

 その時、敵である竜だけでなく、もしかしたら自分は死ぬかもしれないという恐怖とも戦う経験をした。

 そして今、バルタサールとの戦いも同じようなことになるのだろうと予測していた。


「行くぞ!! 伸!!」


『……馴れ馴れしいんだよ!』


 身体強化のレベルを上げた伸に対し、バルタサールは剣を構える。

 人間の姿をしていた時は背が低かったが、変身した今の姿は伸と同じくらいの身長になっている。

 背が低いことをカバーするために長い剣を使用していると思っていたが、どうやらこの姿の時に丁度いい長さにしていたようだ。

 何故なら、その構えに隙が感じられないからだ。

 剣を構え、前傾姿勢で今にも襲い掛かってきそうなバルタサールが伸の名前を叫ぶ。

 いつの間にか下の名前で呼ばれていることに内心でイラっとしつつも、伸は黙ってバルタサールの動きに反応できるように集中力を高めた。


「ハッ!!」


「ぐっ!!」


 武舞台の床を蹴ると、バルタサールは一瞬にして距離を詰めてきた。

 その速度はとんでもなく速いが、伸は何とか反応する。

 その移動速度を利用した突きが迫るが、伸は刀で弾きつつ横に跳ぶことで攻撃を回避した。


「いいぞ! あっさり終わってはつまらないからな!」


 攻撃を躱されたというのに、バルタサールは嬉しそうに話しかける。


「今まで大抵の相手がすぐに死んでしまうのでな……」


「自慢話かよ……」


 昔から強い相手と戦う機会が少なかったのだろう。

 バルタサールは、どうやら生粋の天才肌といったようだ。

 伸からすると自慢話のようにしか聞こえないため、小さくツッコミを入れる。


「少しずつ速度や強度を上げていく。ついて来いよ」


「……あっそ」


 先程の攻撃ですら速度も威力も高かったというのに、まだ本気ではないようだ。

 そして、これからまだ上げていくというつもりらしい。

 言われなくても、バルタサールに勝つためにはついて行くしかないため、伸は適当に返事をした。


「ハッ!!」


「っ!?」


 移動を開始したバルタサールは、右へ左へジグザグに移動を繰り返しながら伸との距離を詰めてくる。

 方向転換するたびに消えたように見えるバルタサールを、伸は必死に目で追う。


「フンッ!!」


「クッ!!」


 接近と共に、バルタサールは薙ぎ払いを放つ。

 言葉通り、移動速度も上がっているうえに威力も上がっている。

 下手に受け止めると、手が痺れて刀の握りが甘くなってしまうことだろう。

 そうならないよう注意しつつ、伸はそれを刀で弾き距離を取る。


「いいぞ! いいぞ!」


 自分の攻撃がなかなか当たらない。

 そのことで、バルタサールは益々嬉しそうな声を上げる。


『……こいつ、もしかしたら……』


 これまでの発言などから、伸はバルタサールのある考えに至る。

 その考えが正しければ、もしかしたらバルタサールに勝てるかもしれない。

 思わず笑みを浮かべたいところだが、それを抑え、伸は勝つための道筋を見つけ出そうと必死に頭を巡らせた。



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