第248話
「フンッ!!」
「ハッ!!」
互いに攻撃を放ち打ち合う俊夫とオレガリオ。
その攻防は、ほぼ互角。
どちらの攻撃も掠りはするものの、深い傷を負い、負わせるには至っていない。
「…………」
俊夫とオレガリオによる戦闘ではあるが、そこには綾愛も参戦している。
常に父の援護をできる位置に移動し続け、オレガリオが俊夫にできた隙を狙おうとすると、火球を飛ばしてそれを阻止していた。
表情を変えず、無言で援護し続けている綾愛だが、内心は冷静とは全く異なっていた。
『付いて行くのがギリギリよ!!』
伸のお陰もあって、自分もかなりの実力を得ることができたと思っていたが、父とオレガリオの戦いを見ていると、まだ足りていないということを綾愛は自覚していた。
自分の役割は父の援護。
離れた位置にいるため、2人の素早い動きもなんとか見えている。
そのため、役割通り父が致命傷を受けないように、オレガリオの攻撃を阻止することができている。
しかし、それもギリギリにできているといったところだ。
ちょっとでも集中を切らしたら、父の命が危険に晒される。
そのプレッシャーに潰されないよう、綾愛は必死に2人の動きに食らいついて行った。
「フゥ、フゥ……」
「ハッ、ハッ……」
何度目になるかの鍔迫り合いをし、俊夫とオレガリオは互いにバックステップをすることで距離を取る。
両者ともかなりの量の汗を掻き、息を切らしている。
「ハッ、ハッ……、さすが柊家当主、魔力が回復した状態だというのに、ここまで傷を負わされるとは……」
モグラの魔人がやったように、他の魔人の魔石を飲み込むとパワーアップする。
それは確かなことなのだが、俊夫が言ったように諸刃の剣だ。
同じ魔人であろうと、魔石が持っている魔力の波長はそれぞれ違う。
自分の波長に近い魔石であるならばパワーアップをすることができるが、全く合わないと、自分の魔力と取り込んだ魔力打ち消し合い、パワーダウンしてしまう可能性がある。
あまりにも合わない場合、命を落とすこともあり得たため、オレガリオは決意をしたように魔石を飲み込んだのだ。
モグラの魔人の場合は兄弟だったこともあり、魔石の波長が合う可能性が高かったが、オレガリオの場合は完全にギャンブル状態。
そのギャンブルの結果は、とりあえず成功といって良い方だろう。
肉体の能力が上昇することはなかったが、一番欲しかった魔力が回復をしたのだから。
魔力さえ回復してしまえば、柊俊夫を倒すことは難しくない。
そう考えていたオレガリオだったが、思うとおりにはいかなかった。
娘の綾愛の援護があるとはいっても、俊夫が自分と戦えるレベルにまで成長しているなんて思ってもいなかった。
体のところどころから流れる自分の血を見て、やはりこの大和皇国で警戒すべきは鷹藤家よりも柊家の方だったのだと、オレガリオは確信していた。
「フゥ、フゥ……、2対1の状態で褒められてもな……」
傷の数だけ見れば互角だが、俊夫としてはそう言いきれない。
何故なら、娘の綾愛の援護がなければ、自分は致命傷を負っていた可能性が何度かあったからだ。
娘の援護があっての互角と言うのが、正しい表現だろう。
そのため、オレガリオに自分を評価するような物言いをされても、ちっとも嬉しくはなかった。
「……そもそも、お前はまだ本気ではないだろ?」
オレガリオはまだ全力を出していない。
それは、この数年魔人と戦う経験を何度もした俊夫ならば分かっていることだ。
何故なら、オレガリオは人の姿のまま戦っているからだ。
魔人の場合、人型と魔物型という2通りの形態がある。
戦闘能力で言った場合、魔物型の方が身体能力的に高いため、本気で戦うのであれば魔物型に変身するべきだ。
そうしていない人型の状態で戦っている今のオレガリオは、本気を出していないということと同義だ。
「フッ! たしかにな……」
たしかに、人型の状態では綾愛の援護があるとはいえ俊夫を倒すことはできないだろう。
俊夫を倒すためには、魔物型に変身する必要がある。
そのため、俊夫の指摘を受け、オレガリオは笑みを浮かべた。
「しかし、魔物型に変身するまで待ってくれるわけではないのだろう?」
魔物型に変身すれば、俊夫に勝てるはずだ。
しかし、魔物型に変身するのにはリスクが伴う。
人型の時と違い、魔物型になると理性がかなり低くなる。
戦闘面において、それは足かせになりかねない。
自分の場合、それがあっても問題ないのだが、それよりも問題なのは変身するまでに多少の時間が掛かるということだ。
変身中は隙だらけのため、その時に攻撃でもされようものなら、変身する前に殺されてしまうかもしれない。
そのことを知っている俊夫が、変身することをうなアしてきたということは、それが狙いなのだろうとオレガリオは判断した。
「チッ! 引っかからないか……」
オレガリオが思った通り、俊夫の狙いは変身中の隙を突いての全力攻撃だった。
しかし、オレガリオはそれに乗るつもりはないようだ。
他に勝機が見いだせない俊夫は、思わず舌打ちをするしかなかった。




