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第242話

「どうしたクソジジイ!? 昔のように俺を打ち付けてみろよ!」


「……チィッ!」


 伸とバルタサールがいなくなった後、元の競技場では他の戦いが繰り広げられていた。

 その一つが、鷹藤文康とその祖父である鷹藤家当主の康義との戦いだ。

 現在押しているのは文康。

 防戦一方の康義は、思わず舌打ちをした。


「そういや、ずっとやりたいことがあったんだ……」


 魔人となった時点で、自分が祖父と戦う可能性があることは理化していた。

 そして、ここまできたらもう祖父と孫という関係ではなくなっている。

 魔人と化して悪しき心が強くなった文康は、自分が昔思っていたことが頭に浮かんできた。

 そのことを思い出した文康は、ニヤケ顔で康義に話しかける。


「……何をだ?」


 祖父だからこそ分かることがある。

 この顔をした時の文康は、ろくなことを考えていないということを。

 それが分かっていながら内容が気になった康義は、文康に問いかける。


「あんたを打ち負かし、上から見下ろしてやるのをだ!」


「フンッ! 魔人になって魔力が上がっただけで調子に乗りおって……」


 祖父としては、息子の康則の跡を継いで鷹藤家の当主になる可能性が高い文康を厳しく指導したつもりだが、そのことを心の奥底で憎く思っていたのだろう。

 魔人になると悪しき心の部分ばかりが湧いてくるのか、やはりろくな考えではなかった。

 元々、高校生の中ではかなりの技術と才能を持ち合わせていた。

 それこそ、真面目にその才能を伸ばしていれば、柊綾愛に引けを取ることなどなかっただろう。

 しかし、成長するにつれて、誰に似たのか傲慢な性格が強くなってしまい、とうとう人類の敵である魔人にまで成り下がってしまった。

 オレガリオに誘拐される前は多少はまともになりつつあったというのに、魔人となってしまった今では、救うことなど不可能に近い。


「父上! 私も戦います!」


「お前は手を出すな!」


「しかし……」


 観客の避難誘導をおこなっていた、康義の息子であり文康の父である康則が参戦を決意する。

 しかし、康義はそれを止める。

 魔人と化した文康は、康義1人で相手にするのは少々分が悪いように見える。

 そのため、自分も参戦することを決意したのだが、それを止められた康則は戸惑いの声を上げる。


「……お前に子を殺すなんてできないだろ?」


「それは……」


 魔人と化しても文康は自分の息子だ。

 去年の対抗戦で優勝を取るために誘拐などをする犯罪者になってしまったが、鷹藤家から完全に追い出すことができなかったのも、どこかで父としての甘さがあったからかもしれない。

 そんな自分に、息子である文康を殺すことができるのかは不確実な状態だ。

 そのため、父である康義の指摘に、康則は反論することができなかった。


「手を汚すのは私で良い……」


「父上……」


 魔人と化してしまった以上、生かしておくわけにはいかない。

 祖父や父だからこそ、生け捕りにして長い人体実験生活送りにしたくない。

 そのため、この場で殺してやるのが祖父や父である自分たちの役割だろう。

 しかし、そうなると康則では難しい。

 犯罪者になっても勘当することができなかったくらいだ。

 自分の手で息子を殺すことなんてできはしないだろう。 

 代わりに自分がやるしかない。

 そう判断した康義は、自分が文康を手にかける決意をした。


「……フッ! ハハッ!」


「なにがおかしい!?」


 康義と康則の会話を聞いていた文康は、急に笑い出した。

 祖父と父である自分たちが真剣に話し合っているというのに、それを笑うなんて非常識極まりない。

 そのため、康義は文康に怒り表情で問いかける。


「魔人化しても孫は孫。なのに、殺す決意があっさりできる……」


「……何が言いたい!?」


 たしかに決意を決めるまでの時間は短かった。

 文康からしたら、その短い時間があっさりという考えに至ったのだろう。

 康義としては苦渋の決断だというのにだ。

 不快に思った康義は、文康に話の続きを促した。


「魔人てのは長生きでな。鷹藤家の昔のことを色々教えてくれたんだよ」


「……昔のこと?」


 誘拐されてから何をされたのか分からないが、どうやら魔人たちは鷹藤家の何かを文康に話したようだ。

 昔のことだけでは何のことだか分からない康義は、文康に話の内容を求める。


「ジイさん……、あんた弟がいたんだってな?」


「っっっ!!」「っっっ!?」


 文康が発した言葉。

 それを受け、康義と康則は驚き反応を示す。

 しかし、その驚きの内容は2人で違ていた。


「父上に兄弟……?」


「…………」


 生まれてから今まで、自分の父は一人っ子だと信じて生きてきた。

 そのため、康則が驚いたのは父である康義に兄弟がいたということが初耳だったからだ。

 康義としては、鷹藤家がひた隠しにしてきた情報を魔人が知っていたことに驚いた。

 鷹藤家の汚点でもあるし、自分にとって最大の後悔でる情報をだ。


「俺を閉じ込めていたあの部屋。実はその大叔父を生まれてからずっと閉じ込めていた部屋だったんだってな?」


「そ、そこまで……」


 魔人は人族への変身能力を利用して、様々なところにスパイを送り込んでいる。

 それが看破できるようになったのは、ここ数年前くらいだ。

 つまり、それ以前はそのスパイに気付けずにいたということだ。

 だからこそ、昔のことの多くがバレているのかもしれない。

 細かいことまで……。


「その大叔父は、成人すると鷹藤家から逃げ出したらしいな? そりゃそうだ! 生まれながらに魔力のなかった大叔父からすりゃ、いつ秘密裏に始末されるか分からなかったんだからな!」


「…………」


「そんな……」


 鷹藤家に生まれながら魔力がないなんて、たしかに秘匿したいと思う存在でしかない。

 しかし、それを本当に秘匿しようとするなんて、正気の沙汰ではない。

 文康の話に反論せずに黙っている父を見れば、それが真実なのだと理解した康則は、信じられない気持ちでいっぱいだった。


「本当の事みたいだな……」


 黙っている祖父の表情を見て、魔人たちの言っていたことは真実だったのだと理解した文康。

 人間でいたときは誇りであった鷹藤家の負の部分を知り、残念な気持ちと共に、自分が魔の道に進んだのは、鷹藤家の業によるものなのだと納得する気持ちが文康の中で沸き上がっていた。



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