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第232話

【これより、八郷学園新田選手対、同じく八郷学園金井選手の試合を始めます!】


「「「「「ワーーー!!」」」」」


 対抗戦の準決勝が開催される会場にアナウンスがされる。

 それを受け、観客たちの歓声が上がった。


「…………」「…………」


 伸は石塚と共に、了は吉井と共に入場し、それぞれ武舞台の上へと上がる。

 両者とも無言で少しうつむき、目を合わせないようにして集中している。

 審判から恒例の簡単なルール確認が行われ、2人は開始線に立って武器となる木刀を構えた。


「それでは……始め!!」


“バッ!!”


「っ!!」


 審判から合図があり、試合が開始される。

 それと同時に、試合は動く。


“ガンッ!!”


 開始早々に動いたのは了。

 最初から全力で攻める気でいたのだろう。

 魔力を集めて強化した足で、移動速度を上げての特攻をしてきた。

 超加速による接近からの居合斬り。

 1年の時から使用してきたこともあり、今では了にとっての得意技になっている。

 いきなり仕掛けてきた了の攻撃を、伸は木刀で受け止める。


「……いきなりだな」


「……あっさり止めるな。自信なくしそうだぞ」


 開始早々何かをしてくる可能性も考えていたが、本当にやってきたことで少し驚いた伸。

 運が良ければ、初撃が当たってダメージを与えることができるかもしれない。

 そう考えていたが、完璧と言っていいほどの受け方をされて止められた了。

 互いの木刀がぶつかり、鍔迫り合いの状態になった2人は、小さい声で言い合いを始めた。


“バッ!!”


 鍔迫り合いを続けても活路が見いだせないと判断した2人は、お互いバックステップすることで距離を取る。


「ハッ!!」


「っと!」


 距離を取った了は、伸に向かって左手を向ける。

 そして、手のひら大の魔力の球を伸に向かって発射した。

 その攻撃を、伸は横に動くことで回避する。


「せいっ!!」


「…………」


 躱す方向が分かっていたのか、了は伸の死角に移動して斬りかかる。

 しかし、伸はその攻撃を木刀で受け流すようにして回避した。


「ハッ! フンッ!」


「…………」


 一撃でだめならと言わんばかりに、了は連続で攻撃を放つ。

 それを、伸は木刀を使って回避する。


「フッ!!」


「っ!?」


 何度攻撃を躱されても構うことなく、了は木刀による攻撃を続けようとする。

 しかし、それはフェイントで、了は更に一歩踏み込んできた。


「ムンッ!!」


「っと!」


 距離を詰めた了は、伸に向かって蹴りを放ってくる。

 伸はそれをバックステップすることで回避した。


「シッ!!」


「っ!!」


 距離を取り、相手の様子をうかがう伸に対して、またも了が動く。

 不規則な動きと速度で伸との距離を詰め、了は木刀を上段から振り下ろす。

 その攻撃を、伸はまたも木刀で受け止めようと一瞬思ったが、そうせずに横に飛ぶことで回避することに変えた。


「……面白い技覚えたな」


「これを躱すかよ……」


 了の攻撃を躱して距離を取った伸は、先ほどの攻撃の感想を述べる。

 そんな伸に、了はショックを受けたように話す。

 今回のために用意していた技を、初見だというのに躱されてしまったからだ。


「足に溜めた魔力を腕に移すなんて、魔力操作の腕を上げたな」


「そいつはどうも」


 先程の攻撃を、受け止めるのではなく躱すことに変えた理由がこれだ。

 了は、足に魔力を溜めることで移動速度を上げることが得意になった。

 その足に溜めた魔力を、移動中に腕へ移動させることで腕力を強化して攻撃の威力を上げる。

 もしもあのまま木刀で受け止めていたら、木刀を折られていたかもしれない。

 了の魔力操作技術が上がったからこその技だ。

 伸はそのことを褒めるが、結局躱されてしまった了は複雑な表情で返事をした。


「そっちから攻撃してこないのか?」


 試合開始してから攻撃しているのは自分ばかりで、伸からの攻撃はまだない。

 相手の攻撃を躱したり受け流しているだけでは決着はつかない。

 そのことから、了は伸に攻撃してくるように促す。


「……そうだな。悪いが勝たせてもらうぞ」


 言っては何だが、伸は了に負けるつもりはない。

 たしかに了は入学した時に比べるとかなり成長している。

 しかし、それでもまだ自分には及ばない。

 はっきり言って、勝とうと思えばいつでも勝てるのだが、了の今の全力を見てからにしようと、伸はこれまで防御のみに徹していたのだ。

 自分が攻撃をするとなると、試合が終わってしまう。

 そのため、伸は了に勝利宣言をして木刀を構えた。


「引き訳はないって昨日言っただろ? 試合はどっちかが勝って、どっちかが負けるもんだ。だから勝てるもんなら遠慮せず勝ってみろよ!」


「そうだな……」


 昨日の夜に部屋に来た時から何となく感じていたのだが、了は自分が負けることを覚悟していたのかもしれない。

 それでも全力で向かってきた了に、伸は遠慮なく勝利することに決めた。

 それが了への礼儀になると思ったからだ。


「俺だってただでは負けない!」


「っ!!」


 了の身体強化の魔力が膨れ上がる。

 全魔力を総動員して、伸の攻撃に対処するつもりのようだ。


「行くぞ!」


「来いっ!」


 勝負なのだから本来必要ないのだが、伸は了に向かって声をかけ、了はそれに返事をした。



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