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第226話

「どうも! 思ったよりも早く戦うことになりましたね?」


「そうだな……」


 鷹藤家次男の文康からのしらじらしい問いかけに、伸は感情のこもっていない棒読みのような返答をする。

 そもそも、開会式が始まった時点でトーナメントの組み合わせは発表されていた。

 なので、開会式の選手入場前にちょっかいをかけてきた時には、両者が一勝すれば対戦するのは分かっていたことだからだ。


「1回戦見ましたよ」


「……そうか」


 文康の言葉に、伸は意外に思う。

 八郷学園で戦った時は、自分が従魔を使用したから負けたと文康は思っており、対抗戦ルールで戦えば負ける要素などないと考えているはず。

 そのため、次に対戦するとはいっても、自分の試合を観戦することはないと思っていたからだ。

 一応警戒してくれていたのかと、伸はちょっとだけ嬉しく思った。


「清水選手の実力を見るためだったんですけど、金井先輩みたいな相手でやりやすかったんでしょ?」


「…………まあな」


 どうやら、自分を警戒していたから観戦していたわけではなく、自分が勝った清水を警戒して観戦していたようだ。

 それだけだと、自分は眼中にないと遠回しに言われているようでイラつくが、相手の清水が了に似ているタイプの人間だったから勝つのが楽になったのは確かのため、伸は文康の言葉に頷くしかなかった。


「運良く1回勝てて良かったっすね。最後の年に良い記念になったんじゃないっすか?」


「…………」


 1回戦を突破したことを運呼ばり。

 文康の発言に、伸はまたもイラっと来る。

 これ以上文康の相手にするのが嫌になった伸は、試合で分からせてやることにした。


「2回戦。始め!!」


「シャア!!」


 審判の合図を受け、文康はすぐさま伸との距離を詰める。

 1回戦で清水がおこなった戦法と同じだ。


「…………」


「っと!!」


 明らかに罠だ。

 しかし、伸は罠であろうと気にせず清水の時と同様に攻撃を躱し、文康の胴に向かって木刀を振った。

 読み通りと言わんばかりに、文康はギリギリのところで胴への攻撃を躱す。

 そして、攻撃をしたばかりの伸に向かって袈裟斬りを放った。


“スカッ!!”


「……えっ?」


 どんな相手でも、攻撃をした後は隙ができる。

 そこを狙えば自分の勝利は揺るぎないと思い、自分はそうなる状況を作り出した。

 その時点で、勝利を確信した文康は、木刀から手に伝わる衝撃を待った。

 だが、その衝撃は伝わってこない。

 袈裟斬りが躱されたからだ。


「…………」


「ぐっ!!」


 文康の攻撃を躱した伸は、無言で前蹴りを放つ。

 わざと威力を抑え、腕の部分を押すような蹴りだ。

 受けた文康からしたら、少し痛い程度でしかないだろう。


「……へぇ~、罠だって気づいてたんすか?」


「当たり前だろ」


 蹴られて距離ができたことで、文康は先ほどの攻防を冷静に判断できたようだ。

 これまでのような伸を下に見るようなにやけた表情から、 少しは真剣なものに代わっている。

 多少は警戒してくれたようなので、伸としては少しだけしてやったりと思いつつ真顔で返答する。


『……ったく、最初から真剣にやらないからだ……』


 特別席から観戦していた鷹藤家当主の康義は、孫の戦い方に苛立っていた。

 あからさまな罠を張った攻撃を躱され、反撃を食らうなんてみっともないとしか言いようがない。

 大会前に、「鷹藤家の人間なら余裕をみせつつ上位に入れ」と発破をかけたことが悪い方に作用してしまったようだ。

 康義としては、相手に何もさせないように最初から真剣に試合に挑めという思いで、決して相手を舐めた戦い方をしろと言ったわけではないのだが、文康は違う捉え方をしたのだろう。

 先程の攻防も、蹴りなどではなく木刀で攻撃してきていたら、その時点で負けていた可能性がある。

 相手は、()()柊家の婿だ。

 そもそも勝てる見込みがない相手だと気付いていない時点で、康義の文康への評価は下がっていた。


「ったく! 無駄な体力を使いたくなかったんだけど……」


 真剣な表情になった文康は、伸に向けて木刀を構える。

 才能に頼るだけではなく、度重なる訓練によって鍛え上げたことが窺えるような構えだ。


「ハッ!!」


「……っ!」


 武舞台の床を蹴る文康。

 身体強化によって生み出された脚力によって、あっという間に伸との距離を詰めた。

 とはいえ、あまりにも直線的すぎる。

 まるで自分が反応できないと思っているかのような行動だ。

 そのため、伸はまだ舐めているのかと頭をよぎったが、すぐにその考えを消し去る。

 自分の間合いに入ったと思った瞬間、文康が急に直線から真横へと方向転換したからだ。


「シッ!」


「…………」


“ガンッ!!”


 伸の右横に移動した文康は、胴目掛けて右薙ぎ払いを放つ。

 その攻撃を、伸は手首を返して木刀で受け止め、距離を取った。


「……今のも防ぐか、思っていた以上に防御力高いな……」


「…………」


 攻撃を防がれても戸惑う様子なく呟く文康。

 どうやら完全に本気になったようだ。

 そんな文康に、伸は声や表情に出さず、心の中だけで笑みを浮かべていた。

 ここまでの攻防で、文康が去年よりも実力が上がっていることは分かるが、精神の方が成長していない。

 一応後輩である文康の成長のため、実力が下だと思っていた自分との実力差を見せつけて、軽く心を折ってやろうと伸は思った。



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