第225話
「ハッ!!」
「ぐっ!!」
大会の日程が進み、了の試合が開始された。
相手は洪武学園の深山という名の3年生男子で、去年に続いての出場だ。
やっぱりというか、開始早々に了が敵に襲い掛かった。
「止められたか……」
「去年も見てるんでな」
「なるほど……」
先手必勝とばかりに攻撃したのだが、予想していたように止められた。
そのことを残念そうに呟き、一旦距離を取った了に、相手の深山が返答した。
深山が去年も出場したということはセコンドの吉井に聞かされていたため、了はその返答で止められた理由に納得いった。
「なら……」
“バッ!!”
「っ!?」
先制攻撃が通用しなかった。
ならばと、次の策を思いついたらしく、了は武舞台の床を蹴る。
「フンッ! ハッ!」
「くっ! ぐっ!」
またも距離を詰めた了は、相手が間合いに入ると連撃を開始する。
その攻撃を、深山は距離を取ろうと動き回りながら木刀で防ぐ。
了の身長は180cm中盤、相手深山の身長は170cm中盤。
その対格差から、多くの観客は了が力によるごり押しを狙っていると考えただろう。
「ハッ! ハッ!」
「くっ! うっ!」
何度も追いかけて連撃を放ってくる了に、逃げ切ることは難しいと考えた深山は迎撃を選択する。
それにより、接近戦勝負となった2人が攻防を開始した。
了が体力を消耗し、少しでも攻撃速度が鈍れば反撃に出ようと隙を待つ深山だが、その機会がなかなか訪れない。
『こいつどんだけ体力バカなんだ……』
連撃を始めて数分経っている。
一撃一撃にかなりの力を込めているのが、防御する木刀から伝わってくる。
それだけ力を込めているのなら、身体強化していようと相当な体力を消費しているはずだ。
それなのに、了の表情は全く崩れていない。
それに引き換え、防いでいる側の自分が疲労を感じ始めている。
そのため、深山は少しずつ焦り始めていた。
「ハッ!!」
「っ!! ここだ!!」
連撃のためにコンパクトな振りをしていた了だったが、その一撃は少し大振りになった。
待ちに待っていた瞬間が訪れたことで、深山はチャンスとばかりに攻撃を躱し、反撃に胴打ちを狙った。
“スカッ!!”
「あっ……!」
胴を打った瞬間、了が自分の間合いから外れていた。
大振りをした瞬間に退いたとしか考えられない動きだ。
まるで、自分がこのタイミングで反撃してくると分かっていたような反応。
その瞬間に深山は気づいた。
先程の大振りは自分を誘い出すための罠で、自分はまんまとそれに引っかかってしまったということに。
「シッ!!」
「っっっ!!」
当然深山の攻撃は不発に終わり、今度は自分が大振りしたことで隙ができてしまった。
その隙を了が逃すわけもなく、上段から振り下ろした木刀が深山の脳天に当たる直前で止められた。
「そこまで!! 勝者金山!!」
勝敗が決定し、審判が勝者である了の名前を叫んだ。
◆◆◆◆◆
「セイッ!!」
「ギャッ!!」
他の武舞台でも試合が行われている。
そこでは、綾愛の1回戦が行われていた。
綾愛のセコンドは今年も伸が付くことになっていたのだが、伸が選手になってしまったので、奈津希に代わっている。
「……あ~ぁ、かわいそうに……」
武舞台上を動き回り、必死に目で追う相手選手との距離を詰めた綾愛は、上段から木刀を振り下ろす。
ギリギリで反応できた相手選手だったが、威力を抑えることができなかったのか、防いだ自分の木刀が自分の頭に当たってしまった。
結構いい音が鳴り響き、セコンドの奈津希は相手選手に同情の言葉を呟いた。
綾愛の相手は、官林学園の1年生で秋谷という男子生徒だ。
秋谷からすると、自分のくじ運の悪さを嘆いたことだろう。
1回戦くらいは突破したいと思っていたところで、大会連覇中の綾愛と当たってしまったのだから。
「しょ、勝者、柊!」
あまりの痛みで頭を抱えこんでしまった秋谷。
その秋谷に顔の前に木刀を構える綾愛。
その瞬間に勝利が決定し、審判が勝者の名を叫んだ。
しかし、相手は連覇中のチャンピオンで、頭に一撃入るわで、あまりにも秋谷を気の毒に思ったのか、審判は少し声を詰まらせていた。
◆◆◆◆◆
「……すごいな。全員か……」
「本当だ……」
その日の試合がすべて終わり、トーナメントを見て伸が呟くと了がその言葉に頷く。
なんと、今年八郷学園の代表選手8人が全員1回戦を突破したのだ。
3年の綾愛と了は予想通りだったが、それ以外の者たちの勝利は驚きだ。
今年の2年は、去年までいた道康の実力が飛び抜けており、それ以外で名前が知られるような者はいなかった。
そのため、全員勝利できたことには完全に予想外だ。
「組み合わせが良かったかも……」
「あぁ……」
女子2名・男子1名が八郷学園の2年生代表選手で、女子2名は相手が他校の1年生と当たった。
そして、男子の1名は魔術戦闘が得意な他校の2年生と当たり、魔術攻撃をして逃げる相手を追いかけまわし、魔力切れに追い込んで勝利した。
「1年2人はやっぱり心配いらなかったようだな」
1年の代表は、順当に正大と麻里がなった。
そして本選で2人とも他校の2年生と当たり、勝利を収めた。
さすが名門家の子息子女と言ったところだ。
「客からすると一番意外だったのはお前の勝利じゃないのか?」
「……そういや、そうかもな……」
柊家の婿殿というだけで、これまで大して知られたことのない人間。
そんな伸が、他校の3年の相手に勝てるなんて、客の多くは思っていなかったのではないだろうか。
了の言っていることは尤もなため、伸は頷くしかなかった。




