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第224話

「……おいっ、あいつって……」


「あぁ、柊家の……」


 対抗戦が開始され、伸の1回戦の順番になった。

 名前を呼ばれ、試合の武舞台へと足を勧める伸の顔を見て、会場がざわつき始めた。


「伸! お前予想以上に注目されてんな」


「……お前分かってて言ってんだろ?」


「まあな!」


 選手入場する伸の少し後ろから、セコンド役の石塚が付いて行く。

 その石塚は、観客がどうしてざわついているのかすぐに理解し、少しにやけて伸へと話しかける。

 その言葉と表情は、明らかにからかっている。

 そのため、伸は前を向いたまま少し不機嫌そうに石塚に問いかける。

 すると、やはりからかっていたらしく、石塚は悪びれることなく返事をした。


「そりゃあ柊家の婿殿がどんなもんか気になるよな……」


「…………」


 石塚の呟きに、伸は無言になる。

 彼の言うように、自分も観客たちと同じ立場なら同じように気になっていたかもしれない。

 そのため、伸は仕方ないとあきらめ、この状況を受け入れることにした。


「なあ……」


「んっ?」


 両選手が武舞台に上がり、開始線に向かおうとする伸に、石塚が話しかけてきた。

 何か言いたいことがあるようなので、伸は首を傾げて石塚に発言を促す。


「セコンドってこういう時何か言った方がいいのか?」


「……何か相手の気になる事とかないなら、別に何も言わなくていいぞ」


 伸が選手として今年初めて出場するのと同じように、石塚も今回初めてセコンドに立つ。

 試合開始直前になって急に緊張してきたのか、セコンドはどうしたら分からなくなったようだ。

 会場が試合開始に近付くにつれて、なんとも言えない空気感を醸し出しているからだろう。

 その気持ちも分からなくはないため、伸は自分の経験からアドバイスを送った。


「そうか……、でも、相手は初出場だし、気を付けろとしか言いようがないな」


 セコンドになれ、石塚はずっと浮かれていたわけではない。

 伸のために、相手選手の情報を得ようとできる限りのことをしていた。

 しかし、相手の瀬和田学園の2年生は、今年になって初めて出場する選手だ。

 他校で初出場では情報が得られず、アドバイスしたくてもできない。

 そのため、石塚は申し訳なさそうに発言する。


「大丈夫。様子見して、行けそうなら勝ちに行く」


 お互い初出場で、データがないのも一緒だ。

 それならば、最初は様子見して、相手の実力を計るのがセオリーだ。

 そう考えた伸は、石塚にそのことを告げて開始線に向けて歩き出した。


「これより1回戦、八郷学園3年新田選手と瀬和田学園2年清水選手の対戦を開始します」


「「…………」」


 開始線に立った両選手に対して話しかける審判。

 その言葉を、伸と相手の清水は黙って聞いている。


「それでは用意!」


 審判のこの言葉で、伸と清水は木刀を構える。


「……始め!!」


 構えを取った2人を見て、審判は合図と共に試合開始の宣言した。


「ハアッ!!」


「「「「「っっっ!?」」」」」


「っっっ!?」


 試合開始と共に、清水が伸へと突っ込む。

 初出場なのだから、様子見してから攻めかかるというセオリーを無視した行動だ。

 その行動に、会場の観客と石塚が目を見開いて驚く。


「…………やっぱりな」


 意表を突き、ものすごい速度で距離を詰める清水。

 誰もがその行動に驚いているというのに、伸だけは冷静だった。


「ハッ!!」


 一気に距離を詰めた清水は、居合斬りの要領で伸に攻撃を計る。

 その一連の流れは洗練されており、相当反復練習を行ってきたことが窺える。

 正眼の構えを取る伸目掛けて振られたその攻撃が、吸い込まれるように胴へと向かって行く。


「シッ!!」


「がっ!?」


 自分の攻撃が当たる。

 当たれば1回戦の勝利が得られる。

 そう考えていた清水だったが、そのような結果にはならなかった。

 自分の攻撃が当たる瞬間、相手選手の姿がブレ、気づいた時には相手の木刀が自分の胴に当たっていた。

 予想していなかった反撃を受け、清水は苦悶の表情と共に声を上げた。


「……な、なんで……?」


 セオリーに反した攻撃。

 躱されることはあっても、面食らって反撃なんてできないはず。

 そのはずが、どうして反撃できたのか。

 理由が分からず、清水は思わず伸に問いかけた。


「君と同じ思考の友人がいるんでな……」


 どうしてかと聞かれたら、開始線に立った時に清水の目を見たからだ。

 それは、とても様子見すると考えているようなものではなく、むしろ一発かましてやると言っているような目だった。

 だからこそ、伸は清水の行動を別段驚かなかった。

 そして、それはまるで了を見ているような感覚に似ていたため、予想できたのだ。


「……ぐ、ぐふっ……!」


 伸の説明を受けても納得できない。

 そんな表情をしながらも、痛みで意識が薄れていく清水は両膝をつき、前のめりに倒れて気を失った。


「っ!! そこまで!! 勝者、新田!!」


「「「「「……ワーーーッ!!」」」」」


 予想外の清水の行動。

 しかし、それを読んだ伸の反撃。

 たった一瞬の攻防だったが、高度な読み合いによる結果に、観客は一瞬間をおいて大きな歓声を上げた。


「フゥ~……」


 外から見たら高度な攻防かもしれないが、伸からすると手加減することにかなり意識を向けていた。

 手加減の調整をミスすれば、未来ある魔闘師の人生を潰してしまいかねないためだ。

 自分のそんな心情を理解するわけもなく騒ぐ観客の声にかき消されながら、伸は軽く溜め息を吐いて退場を開始した。



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