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第214話

「フゥ、フゥ……」


「ぐっ、ぐうぅ……」


 伸たちが突如出現したカサンドラたち魔人を倒した頃、鷹藤家たちの方も終わりが近づいていた。

 大量の汗と共に息を切らす鷹藤家当主の康義。

 そして、近くにはカブトムシの魔物が進化した魔人テレンシオが片膝をついて動けなくなっていた。


「魔人でもその出血量ではもう動けまい」


 両者とも傷だらけだが、テレンシオの方が深い傷を負っていて、戦場には撒いたかのように彼の血が大量に落ちてる。

 康義よって斬られた腕から噴き出した血だ。


「私の出現に気付くのが遅れ、最初の攻撃を受けた時点で貴様の負けが決まったのだ。まさに油断大敵といったところだな」


「く…くそっ!」


 康義とテレンシオの戦いは、完全にワンパターンの攻防だった。

 片腕を失い、大量出血するテレンシオ。

 どうにかして傷口を塞いで出血を止めようとするが、それをさせないように康義は息子の康則と共に攻撃をし続けた。

 ならばとテレンシオが攻撃をおこなおうとすると、距離を取り逃げ回るだけに徹する。

 そうやって徹底的に時間稼ぎをすることで、貧血によって段々と戦闘能力が低下したテレンシオに攻勢に出て、勝利を得るに至った。

 老獪とも言うべき策にはまり、負けが確実になってしまったテレンシオは悔し気に声を漏らした。


「魔人の生態を調べるためにも、貴様を捕縛させてもらう」


 不意打ちによって片腕を斬ることに成功し、血を失って弱ったところを痛めつけての勝利を得ることができたが、それでもかなり苦戦した。

 もしも不意打ちが失敗して、五体満足な状態で戦っていたら、自分たちの方が負けていた可能性が高い。

 それだけこのテレンシオとかいう魔人は強かった。

 この数年が異常なだけで、魔人は滅多に出現しないため、生態が全く解明されていない。

 何か弱点になるようなものでも見つけるためにも、康義はテレンシオを捕縛して実験体にすることにした。


「避けろ父さん! 上だっ!!」


「っっっ!?」


 捕縛することを決定した康義は、大量出血によって動けなくなっているテレンシオに近付く。

 そんな康義に、息子の康則が大声を張り上げた。

 それが何かを確認するより先に、康義はその言葉に従ってその場から飛び退いた。


“ズドンッ!!”


「クッ! 新手か!?」


「チッ! ()()外れかよ……」


 強力な雷撃が落ち、土煙を巻き上げる。

 その土煙が晴れると、袴姿の大和皇国の男が立っていた。

 しかし、その姿とは裏腹に、人間のものと思えない禍々しい魔力を纏っている。

 そのことから、康義はこの男が魔人だと判断した。

 現れた魔人はオレガリオ。

 少し前に相対した伸に続き、雷撃が躱されたことに舌打ちし、不機嫌そうに小さく呟いた。


「オ、オレガリオ! 助けに来てくれたのか?」


 霞む視界に仲間であるオレガリオの姿が目に入り、テレンシオは安堵の笑みを浮かべて声をかける。


「…………」


「……何だ?」


“スッ!”


 問いかけに対し、オレガリオは無言でテレンシオの前に立つ。

 そして、答えを返すわけでもなく、テレンシオに開いた右手を向けた。


「……おい。……ま、まさか……」


 自分に向けるオ冷徹な目。

 それで何かを察したテレンシオは、信じられないという表情でオレガリオに話しかける。


“ズドンッ!!”


「っ!!」


 出血で動けず、抵抗することもできない。

 そのため、オレガリオから放たれた電撃を受け、テレンシオは小さい悲鳴しか上げることもできず、全身黒炭へと変わった。


「失敗者は排除するように上から言われていたのでな」


 かつて仲間だった黒炭に向かって、オレガリオは小さく声をかける。

 もうその黒炭が、聞くことなどできないと分かっていながら。


「仲間を殺すとは……」


 どういう理由なのか分からないが、オレガリオとかいう魔人によってテレンシオが殺された。

 何にしても、また現れた魔人と闘わなくてはならなくなった。

 そのため、康義は刀を構えた。


「……安心しろ。お前らの相手をする予定はない。それよりも、家を空けてここに来て良かったのか?」


「……どういう意味だ?」


 刀をむ行けられても、興味がないというような態度のオレガリオ。

 そんな彼の口から、聞き捨てならない言葉が康義に放たれた。

 家とは、皇都の家のことだろう。

 康義は、そこを空けたことが何だというのか問いかけた。


「家に置いてきた孫のことだ」


「っっっ!? 貴様っ! 文康に何かしたのか!?」


 家に置いてきた康義の孫とは、康則にとっては息子の文康のことだ。

 誘拐の教唆犯として捕まった文康は保護観察処分になり、自宅にほぼ軟禁状態にすることで、保護観察が解除されるのを待っている状況だ。

 問題ばかりを起こし、鷹藤家の名に泥を塗ったとはいえ、康則は息子のことを完全に見捨てることはできず、家から追い出すようなことはしなかった。

 その文康に何かしたのかと気付き、康義ではなく康則の方がオレガリオの言葉に強く反応した。


「さあな……」


「おのれっ!!」


「落ち着け! 康則!」


 康則の問いに対し、オレガリオはうっすらと笑みを浮かべて返答する。

 まるで、自分で確認しろとでも言うかのように。

 その態度で更に怒りが沸き上がった康則は、憤怒の表情でオレガリオに凄む。

 今にも飛び掛かりそうな康則だが、片腕が折れた状態では危険すぎるため、康義が止めに入った。


「用は済んだ。では、俺はこの辺で……」


“フッ!!”


「「っっっ!!」」


 相手にするつもりが本当にないらしく、オレガリオは軽く声をかけていなくなる。

 まるで消えるかのように。

 それを見た康義・康則親子は、探知魔術を発動すると共に周囲を見渡す。


「消えた……、まさか転移魔術か?」


 周囲にオレガリオの気配はない。

 この場から完全に消え去ったようだ。

 その現象から、康義はオレガリオが何をしたのかに思い至った。

 まさに転移魔術の現象そのものだと。


「康則! お前は別荘に行け! 俺は家に戻る!」


「わ、分かった!」


 オレガリオがどこに行ったのか気になるが、今はそれどころではない。

 まずは近くにある鷹藤家の別荘。

 そして、家に置いてきた文康の安否だ。

 そのため、康義は目的を分担するため、康則へ指示を出したのだった。



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