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第213話

「っっっ!?」


 気を失っているカサンドラまでもう少しと近づいたところで、伸の探知に何かが引っかかる。

 それを受け、伸はカサンドラを脇に抱えてその場から飛び退いた。


“ズドンッ!!”


 ついさっきまで伸がいたところに、強力な雷撃が降り注いだ。

 もしも飛び退いていなかったら、 今頃伸は瀕死になっていたところだろう。


「チッ!!」


 小さなクレーターを作るような強力な雷撃。

 それによって起きた土煙が晴れてくると、そこには1人の人間が立っていた。

 どうやら攻撃を躱されたことが気に入らないらしく、無傷の伸の姿を見て舌打ちをした。


「……何者だ? という必要もないか……」


 オールバックの髪形をしている以外特徴がない顔で、腰に剣を差した中肉中背の剣道袴姿の男性大和皇国人。

 見た目だけならそんな感じだが、体内を流れる魔力が人間とは異質。

 その特徴は魔人特有のものだ。

 そのため、伸は質問の答えを求めなかった。


『俺の探知から逃れたのか?』


 カサンドラにも言ったが、戦う前に周辺の探知は行っていた。

 戦闘が開始されてから接近を計ったのだとしても、あまりにも速すぎる。

 そのことから、自分の魔力探知から逃れたのではないかと伸は考えた。

 探知は生物の魔力に反応するため、体外に魔力をコントロールして全く出ないようにすればそれも可能だ。


「いや違うな……」


 自分の探知は微細な魔力でも感じ取れるため、それを誤魔化すまで体外に魔力を出さないようにするなんて考えられない。

 そのため、伸は探知から逃れたという考えは打ち消した。


「あの感じ……、まさかっ!?」


 自分の探知から逃れたのではない。

 そうなると、あの魔人はどうやってこの場に現れたのか。

 その方法を考えたとき、伸はある方法が思い浮かんだ。


「お前転移使いか?」


「っ!? ……察しがいいな。カサンドラを倒すだけある」


 いきなりこの場に出現した方法。

 それで伸が思いついたのは転移魔術だ。

 そのことを確かめるように問いかけると、その魔人は僅かに反応し、伸の考えが正しいと言っているような発言をしてきた。


「お前も捕まえるところだが、見逃してやるからさっさと消えろ」


「……それはありがたい話だが、余計な情報を与えないために、そいつを渡すわけにはいかない」


 肌で感じる脅威度はカサンドラと同等のため、伸は負けることはないと判断できるが、この魔人には転移がある。

 危機を感じたら逃げられてしまう可能性が高い。

 それならば、今回は無理に捕まえるようなことはせず、カサンドラだけで我慢するのが無難だ。

 それだけ、魔人を作り出すという情報は重要だ。


「……そうか!」


 考えてみれば、この魔人は周辺にいなかったというのに出現するタイミングが良すぎる。

 それに、カサンドラが魔人の作り方という口を滑らせたことも知っているかのような反応だ。

 まるで見聞きしていたかのようなタイミングだ。

 そのことから、伸はある考えが浮かんだ。


「空の魔物を利用したか……」


 周辺の探知に魔人は引っかからなかったが、魔物たちの存在には気づいている。

 カサンドラとの戦闘を一部始終見ることができたのは、空を飛び交う魔物くらいのものだ。

 契約した主従なら視覚共有をすることもできなくはないため、 その魔物の中にこの魔人の従魔でも紛れていたのだろうと考え、伸は呟いた。


「……察しが良すぎて気持ちが悪いな」


「そいつはどうも」


 呟きが耳に入った魔人は、僅かに引いた目を伸に向けつつ話す。

 同じ人間に気持ち悪がられるならショックを受けるが、相手が魔人だと誉め言葉でしかないため、伸は感謝の言葉を返した。


「まぁいい、逃げる気がないならかかって来いよ」


「……そいつを抱えたまま戦う気か?」


「ハンデには丁度いいだろ?」


 魔人に向けて刀を抜く伸。

 左手は気を失っているカサンドラを抱えたままだ。

 そんな状態で挑発してくる伸に、魔人は不愉快そうに問いかけてくる。

 その問いに、伸は笑みを浮かべて返答した。


「舐めるなよ!!」


「……居合?」


 伸の挑発に、こめかみに血管を浮き上がらせた魔人は、一気に距離を詰めて攻撃してくる。

 接近しての居合斬りだ。

 その攻撃をバックステップをして躱した伸は、意外そうに呟く。

 魔人が大和皇国の剣術を使ったからだ。


「っ!?」


 後退した伸は自分の変化に気付く。

 左手が軽くなっていることにだ。


“バッ!!”


「なっ!?」


 伸が左手に意識を向けた瞬間、攻撃を仕掛けてきた魔人も後退して距離を取った。

 何故と思いつつ目を向けると、魔人の左手にはカサンドラが抱えられていた。


「どうして!?」


 別に手を離したわけではない。

 それなのに、あの魔人はどうやってカサンドラを奪い取ったのか。

 訳が分からず、伸は思わず声を出していた。


「いや、それよりっ!!」


 どんな方法を使ったのか分からないが、これでは転移で逃げられる。

 それを阻止するために、伸は考えるよりも先にカサンドラを奪い返す行動に出た。


「フンッ!!」


“ズドンッ!!”


「なっ!?」


 距離があるため、魔人は伸が接近することなど気にせず、カサンドラを足元に置く。

 そして、驚きの行動に出る。

 現れたときに伸にはなった雷撃を、無防備なカサンドラに向けて放ったのだ。

 その雷撃によって巻き上がった土煙が引くと、そこには全身が炭化したカサンドラと思わしき死体が転がっていた。


「お前……、仲間じゃないのか?」


「生憎、上からの命なのでな」


 てっきりカサンドラを救いに来たのかと思っていた伸は、足を止めて戸惑いつつ問いかける。

 それに対し、魔人は特に感情を込めず返答した。


「このっ!!」


 カサンドラを殺されてしまった以上、魔人の作り方を知っていると思われるこの魔人を捕まえるしかない。

 そう考えた伸は、再度魔人に向けて地を蹴る。


“ブンッ!!”


「くっ!」


 接近してきた伸から逃れるように、魔人は姿を消す。

 魔力も消えたことから、転移をしたのだろう。

 それを察した伸は、すぐに周囲を探知し、上空のワイバーンに乗った魔人を見つける。


「俺の用は済んだ。帰らせてもらう」


「おいっ!」


「……何だ?」


「せめて名乗れ!」


 せっかく無力化したカサンドラを殺され、獲物を横取りされた気分だ。

 怒りがわく伸は、逃げようとする魔人を呼び止めて名前を求める。


「……オレガリオだ」


 別に名乗る必要はないが、聞かれたから答える。

 その程度の軽い気持ちで返答した魔人、オレガリオは転移によって姿を消した。



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