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第183話

「おぉ、いたいた……」


「っっっ!?」


 上位種を軒並み倒し、普通のゴブリンたちを始末しながらゴブリンの住処となる洞窟内を進んで行く伸。

 少しずつ洞窟の通路が広がっていき、一際広く作られた最奥の空間にたどり着いた。

 そこにいたのは4m近くの巨体をした上半身は人型、下半身は異様に膨れ上がった雌型のゴブリンが巨大な椅子に鎮座していた。

 これが、大量のゴブリンを産み出していたゴブリンクイーンなのだろう。

 侵入者の撃退のためにゴブリンジェネラルまで出撃したというのに、まさかここまでたどり着くと予想していなかったのか、クイーンは驚きの表情で伸のことを見た。


「「「「「ギーッ!!」」」」」


 侵入者からクイーンを守るべく、ゴブリンたちが伸へと襲い掛かってくる。


「ジャマだ」


「「「「「っっっ!?」」」」」


 群がるように向かってくるゴブリンたちを、伸は煩わしそうに呟くとともに刀を真横に一閃する。

 それと共に飛んだ魔力の刃が、ゴブリンたちを一掃した。


「ギギッ!!」


「全く、ポンポン大量に産みやがって……」


 自分が産んだゴブリンたちが壊滅させられ、クイーンは歯ぎしりをして伸を睨みつける。

 そんなことお構いなしと言わんばかりに、伸は刀の背で肩をポンポンと叩きながら文句を言う。


「キ、キサ…マ」


「っ!? 魔人!?」


 怒り表情で椅子から立ち上がるクイーン。

 そして、低い声と共に言葉を発した。

 まさか言葉を話すとは思わなかったため、伸は目を見開いた。


「コロ…ス!!」


「……いや、なる寸前ってところか......」


 戦闘時用に作ったのか、クイーンは近くに立て掛けてあった丸太のような棍棒を手に持ち、再度言葉を発する。

 先程の言葉もそうだが、片言で喋っている。

 魔人と呼べるほどの強さと知能を手に入れたのかもしれないが、まだ完全に言語を話せる状況に至っていない様子だ。

 そのことから、伸はクイーンが魔人化する一歩手前なのだと判断した。


「シネ!!」


「っと! このクソクイーンが……」


 手に持った棍棒を振り上げ、伸目掛けて振り下ろしてきた。

 その攻撃を、伸は右へ飛び退くことで回避する。

 それにより、クイーンの攻撃で地面が凹んだ。

 直撃すれば大怪我を免れないような攻撃にイラっと来た伸は、文句を言うと共にクイーンのことを睨みつけた。


「オノ…レ!!」


「っと!」


 攻撃を躱されたクイーンは、懲りずに棍棒を振り回してくる。

 その攻撃を、伸は危なげなく回避する。


「フンッ!!」


「フッ!」


 クイーンの攻撃は確かに強力で、ゴブリンジェネラルたちでも一発食らえば戦闘不能に陥ることだろう。

 しかし、伸には通用しない。

 右へ左へと動き回る伸に、クイーンの攻撃は掠ることすらできない。


「クッ!!」


 動き回る伸の速度についていけないのか、クイーンの攻撃の手が止まった。


「鈍くさいな……」


 腕力があるのは、攻撃力を見ればわかる。

 しかし、伸がクイーンを見て警戒していたのは、その肥大化した下半身の方だった。

 もしかしたら、移動速度がとんでもないのかもしれないと思っていたのだが、自分に付いてこれていないことから、そういったためのものではないようだ。


「……下半身の肥大化は、出産のためか?」


 どうやら、移動速度を上げるために下半身が発達したわけではなさそうだ。

 恐らく戦闘用ではなく、早く安定的に子を生み出すために下半身を肥大化させたようだ。

 だから自分の動きに付いてこれていなのだと、伸は判断した。


「だとしたら、警戒する必要はないな」


 もしものことを考えて警戒していたが、ここまでの動きでその必要性がないことを伸は悟った。


「さっさと終わらせてやる!」


 警戒する必要がないのなら、もう倒すだけだ。

 クイーンを倒すことにした伸は、刀を構えて動き始める。


「ギッ!?」


 クイーンからすれば、縦横無尽に動き回る伸の姿がブレて見えているのだろう。

 何とか必死に目で追うが、段々と追いつかなくなってきた。


「シッ!」


「クッ!?」


 クイーンの目が自分の姿を見失ったと判断した伸は、接近と共に斬りかかる。

 武器を使えなくするために、棍棒を持つ右手を狙った伸の攻撃を、クイーンは咄嗟に棍棒で防いだ。


「おぉ、よく防いだな。たまたまっぽいが……」


「グゥッ……」


 右腕を斬り飛ばすつもりで攻撃をしたというのに、上手く防がれてしまった。

 意外に思いつつも、クイーンの反応からして防げたのは勘によるたまたまのように見えたため、伸は大して驚きはしなかった。

 クイーンのことを褒めるように言いつつも、伸はそのことを指摘した。

 その指摘が正しいからなのか、クイーンの額からは冷や汗らしきものが流れている。


「けど、いつまで防げるかな?」


「っっっ!?」


 またも動き始めた伸。

 その動きは先程よりも速く見える。

 先程までは、ブレながらとはいえ見えていたが、今度は全く視界に映らない。

 そのため、クイーンは戸惑うことしかできない。


「フッ!」


「ガッ!?」


 目で追えていないのだが、僅かな風の流れから伸が近づいたことを察したらしく、クイーンは身を捩じらせる。

 その判断は正解だったが、伸の攻撃を完全に躱すことにはできない。

 接近した伸による薙ぎ払いによって、クイーンの横っ腹が切り裂かれた。


「ハッ!」


「ギャッ!?」


 攻撃を受けて横っ腹を抑えて蹲るクイーンに対し、伸はさらに攻撃を加える。

 連撃によって両足の脛の部分を深く斬られ、クイーンは立ち上がることができなくなった。


「終わりだ!」


「ギャーーー!!」


 足をやられて動けなくなったところで、伸は止めを刺すべくクイーンに向かって突進していく。

 そして、その速度を利用して、そのまま心臓部分に突きを放つ。

 普通のゴブリン同様、心臓部分の近くにあったらしく、伸の突きがクイーンの魔石を砕いた。

 それにより、クイーンの体から霧散するように魔力が抜けて行った。


「モウシワケ…アリマセン。カサンドラ…サマ……」


 魔石を潰され、死を待つだけになったクイーンは、前のめりに倒れこむ。

 そして、その瞳が閉じる直前、小さい声で何者かに謝罪の言葉を口にした。


「…………カサンドラ?」


 目を閉じて動かなくなったクイーンを見て、伸は先ほどの言葉を思い出す。

 最後にクイーンが発したのは、謝罪の言葉だった。

 しかし、伸が引っかかったのは謝罪なんかではなく、それが誰に対してのものだったかということだ。

 クイーンは確かに、「カサンドラ…サマ」と名前を言った。

 そのカサンドラという者が、もしかしたらこのゴブリンたちの大量発生に関係あるのではないかと、伸は考え始めていた。



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