第180話
「う~わ。すげえ数だな……」
「ギッ!?」「ゲギャ!?」
綾愛たちと別れた伸は、大量のゴブリンが潜んでいる洞窟の入り口前に立つ見張りたちをあっという間に始末する。
そして、入り口から内部を眺めると、見張りがやられたことに気づいたらしきゴブリンたちが、大挙して押し寄せてきた。
ゴブリンたちが人海戦術で作り上げたのか、洞窟内はかなり広い通路になっているが、その通路いっぱいに迫ってくるゴブリンたちに、伸は感想が口から出ていた。
「そんな風に向かってくるなんて、やっぱ馬鹿だな……」
数が多くても通路いっぱいになっていては、こちらの攻撃を躱せないではないか。
そんなことも分からないで一直線に向かってくるゴブリンたちに対し、伸は左手を向けた。
「「「「「っっっ!!」」」」」
伸の左手からレーザー光線が発射される。
迫ってきていたゴブリンがその光線を受けると、一瞬でチリとなり、光線が通った場所は道ができるように開けた。
直線状にいたゴブリンたちの多くは命を落とすか、体の一部を消失することになった。
あまりの威力の攻撃に、ゴブリンたちは足を止めって戸惑いの表情を浮かべた。
「足を止めたらダメだろ……」
止まってくれた方が当てやすい。
そのため、伸はビー玉ほどの魔力の球を作り、足を止めたゴブリンたちに向かって連射する。
僅かな魔力でも、高速で飛ばせば一撃で始末ができる。
魔力の弾丸はゴブリンたちの頭を正確に撃ち抜き、バタバタと倒れて行った。
「「「「「っっっ!!」」」」」
先ほどの光線に続いて、またも仲間が大量に倒れた。
その戸惑いから抜け出せないのか、ゴブリンたちは声も出せないでいた。
「「「「「ゲギャーー!!」」」」」
「おっ?」
後方にいたゴブリンたちは、前方で一気に50体以上が戦闘不能に陥れられただなんてことは分かっていない。
そのためか、前にいるゴブリンたちを押し出すようにして伸へと向かって行った。
「もしかしたら、思ったより楽に殲滅できるか……」
ところてんのように押され、またもゴブリンたちが伸へと迫ってくる。
それに対し、伸はまたもレーザー光線を放つ。
その光線に触れたらただでは済まないと分かっているため、先ほども見たゴブリンたちは横に避けようとする。
しかし、避けようとしても左右には仲間がいて、後ろに避けようにも、わかっていないゴブリンたちが前へ押し出してくる。
そのため、光線を躱すことなどできなく、またも大量のゴブリンが命を落とした。
その結果を初めて見たゴブリンたちは足を止め、伸の魔弾の餌食になる。
この繰り返しをするだけで、もしかしたらほとんどのゴブリンを楽に始末することができるかもしれない。
そんな気がした伸は、思わず笑みを浮かべた。
「キキッ?」
「いや、大丈夫だ。後ろだけ警戒していてくれ」
かなりの数のゴブリンが倒れたが、まだまだ大量にゴブリンがいる状況。
時間が経てば経つほど、伸に負担が来ることになるし、上位種も出てくるはず。
そのため、伸の肩に乗っているピモは、「自分も協力しようか?」とでもいうかのように声をかけてくる。
数は多くても、ゴブリンたちは予想以上に短絡的な攻め方しかしてきていないため、余計な負担を受けていないことから、伸はその申し出を断った。
それよりも、もしかしたら巣の外に出ていたゴブリンが戻ってくるかもしれない。
そういった相手に意識を向けなくて済むよう、ピモには後方の警戒をするように頼んだ。
「ゲギャーー!!」
「おっと」
「ガッ!?」
中には多少知恵のある者もいるのだろう。
仲間を盾にするようにして攻撃から逃れたゴブリンが、伸との距離を詰めることに成功する。
接近されたといっても慌てることもなく、伸は右手に持った脇差でそのゴブリンを斬り殺した。
「ギギャ!!」「ギャウ!!」
伸の意識が接近したゴブリンの始末に向いたことで、魔術による攻撃がわずかに治まる。
そのスキに、抜けてくるゴブリンが増えた。
「……仕方ない」
まだまだ先は長いことを見越してできる限り魔力を温存していたが、これ以上は面倒なことになる。
捕まえられて怪我をするということではなく、単純にゴブリンが臭いから近寄られたくないだけだ。
「洞窟を壊さないように……」
魔術の威力を高めるために、伸は左手に込める魔力を増やす。
しかし、威力を上げすぎて洞窟が壊れてしまっては、ゴブリンを生き埋めにするだけで討伐しきれない。
探知でアリの巣のように地下に広がっているのだから、別の場所に出入り口を作るだけで、また外に出てくるようになってしまうだろう。
それに、その間にさらに数を増やしてしまう時間を与えてしまうことになりかねないため、伸は威力を高めつつも洞窟に影響がないように調整した。
「ハッ!」
「「「「「ギャッ!!」」」」」
洞窟を壊さないようにと考えたとき、水属性の方が良いだろうと、伸は水の刃を飛ばす。
無数の刃が洞窟内を飛んでいく。
生物のみを斬り刻み、洞窟の壁に当たると弾むようにして方向転換する水刃。
その刃によって、大量のゴブリンたちが斬り刻まれていった。
「ゲ、ゲギャ!!」
洞窟の通路を縦横無尽に飛び回る水刃。
それによって、ゴブリンたちは伸に近づくことができなくなった。
しかし、全くというわけでもない。
片腕を斬り飛ばされて大量の出血をしながらも、せめて一撃でもと思っているのか接近してくるゴブリンもいる。
「フッ!」
「ガッ!!」
そうはいっても、所詮はゴブリン。
手負いでなくてもそうなのに、単体で向かってきても脅威になんてならない。
そのため、伸はまたも向かってきたゴブリンを脇差で斬り殺した。
「もっと増やすか……」
手負いでも抜けてくるゴブリンがいる。
それすらうっとおしく感じた伸は、水刃の数を増やした。
それにより、肉片に変わるゴブリンがさらに増え、全く伸に近づくことができなくなった。
「さて、そろそろか?」
ただ立っているだけで、ゴブリンがミンチに変わっていく。
それを見ていた伸は、小さく呟く。
その言葉通り、
「ガアァーー!!」
「っと、来たか……」
ゴブリンたちだけでは何もできずに殺されていくだけ、少しの間そんな状態が続いていると、伸が思った通り、これまでとは違う声が聞こえてきた。




