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第175話

「…………」


「「「…………」」」


 時間は遡り、魔人が潜んでいるといわれている島にある城の中では、重苦しい空気が流れていた。

 会議室の上座に座る少年、バルタサールが無言で不機嫌そうな表情をしているのが原因だ。

 部屋にいる魔人たちは、その重苦しさから何も発言することも出来ず、バルタサールが人差し指で机をトントンと叩いている音だけ響いている。


「……なぁ? テレンシオ、カサンドラ」


「「は、はい!」」


 しばらくの沈黙の時間が流れ、机を叩く指を止めたバルタサールは、下座に座っている2人の魔人に話しかける。

 突然声をかけられたからか、2人共言葉に詰まりつつ返事をした。


「オレガリオの報告だと、ナタニエルまで死んだそうだ」


「……そのようですね」


「……遺憾です」


 バルタサールは、伸たち大和皇国の人間と同じような見た目をした自身の側に立つ男、オレガリオを指差しつつ話す。

 ナタニエルが死んだことは、オレガリオによってこの場にいる全員に報告されていた。

 そのことによってバルタサールが不機嫌になっているのだが、あらためてそのことに触れて来た。

 それに対し、話しかけられたテレンシオとカサンドラは、バルタサールの機嫌を損なわないよう、当たり障りのない答えを返すしかなかった。


「エグリア共和国やスドイフ連合国では思い通り行くのに、何で大和皇国はそうならないんだ?」


「「も、申し訳ありません」」


 2人からすると、「そんなことを言われても……」と答えたいところだ。

 しかし、そんな事を言えばバルタサールの逆鱗に触れるかもしれない。

 テレンシオとカサンドラは他の国での破壊活動を命じられており、その指示通りに結果を出している。

 それがエグリア共和国とスドイフ連合国だ。

 結果を出しているのにこのような重苦しい空気なんて、はっきり言って迷惑そのものでしかない。

 そのため、2人はこのような状況を生みだしたナタニエルに対し、罵詈雑言を叫びたいところだが、その張本人は死んでいるため、自分たちが悪い訳でもないのに謝罪の言葉を返すしかできなかった。


「いや、謝ってないで理由を答えろよ!」


「「は、はい!」」


 当たり障りのない言葉ばかり返って来ることがバルタサールの勘に障ったらしく、若干語気が強まる。

 それと共にバルタサールから魔力が洩れ、それに当てられた2人は更に委縮することになった。


「…………」「…………」


 どのように答えようと、バルタサールの機嫌が直る訳ではないことは明白。

 そのため、テレンシオとカサンドラは視線を合わせ、バルタサールの言葉にどちらが答えるかの権利を譲り合う。


「恐らくですが……」


 視線による譲り合いも、時間が経てば更にバルタサールの機嫌を損なうこのになる。

 そのことが分かっているため、テレンシオは自分が返答することを決意した。


「ナタニエルは、まず鷹藤家のみを脅威の対象として動いていました。しかし、柊家というもう一つの脅威がいたことで、計算が狂い始めました」


 テレンシオは、これまでの経緯から自分の考えを述べ始めた。

 大和皇国の管轄であるナタニエルは、これまでの情報から鷹藤家のみを警戒・標的として行動していた。

 そして、大和皇国の実力者が集まる年末の対抗戦というイベントに目を付けたナタニエルは、配下であるコウモリ魔人のカルミネ、チーター魔人のティベリオを送り込み、返り討ちに遭うことになった。

 その時に、大和皇国には鷹藤家だけでなく、柊家という一族も脅威だと認識したのだろう。


「その柊家が、まさか鷹藤家以上の脅威だったとは思わず、ナタニエルの奴は返り討ちに遭ったのかと……」


 脅威と認めつつも、ナタニエルの中ではあくまでも鷹藤家に次ぐ存在というくらいの認識だったのかもしれない。

 鷹藤康義と組んだ柊俊夫により返り討ちに遭ったということは、俊夫が康義と同等の実力を有しているということ。

 その可能性を考慮していなかった浅慮が、ナタニエルが再度失敗する原因になったのだろう。


「……っで? どうする?」


 これまでを総合的に判断すると、バルタサールとしてもテレンシオの考えに概ね同意する。

 ならば、大和皇国に打撃を与えるにはどうするべきかを、バルタサールはテレンシオに問いかけた。


「お、俺が向かいます! 鷹藤康義と柊俊夫を必ず殺してきます!」


「い、いえ! 私が!!」


 この状況で康義と俊夫を撃つことができれば、バルタサールへの心証が良くなり、魔人軍に置いての地位でトップに立てる。

 そんな目論見を密かにしつつ、テレンシオとカサンドラは自分が康義と俊夫の殺害に名乗りを上げた。


「……2人だ。お前ら2人で行け」


「「……えっ!?」」


 立候補する2人を眺めたバルタサールは、少し間を空けた後呟く。

 予想外のその呟きに、テレンシオとカサンドラの2人は思わず声を漏らした。


「んっ? 何だその顔は?」


「いや……」「いくら何でも……」


 エグリア共和国とスドイフ連合国への侵攻のために、テレンシオとカサンドラは多くの魔人を配下にしている。

 ナタニエルと同等、いや、それ以上の戦力と言っても良い。

 いくら脅威だといっても、そんな自分たちが揃って赴くのは過剰戦力でしかない。

 そのことをバルタサールに指摘できる訳もなく、2人は言い淀んだ。


「……だから?」


「いえ!」「我々で当たらせていただきます!」


 有無は許さないと言わんばかりのバルタサールの言葉に、テレンシオとカサンドラはが反論することができる訳もなく、すぐさまその指示を了承した。


「オレガリオ! 2人を大和へ送れ」


「了解しました!」


 テレンシオとカサンドラの言葉を受けて、バルタサールはオレガリオに指示を出す。

 他の魔人軍の幹部たちよりも戦闘面において劣るオレガリオだが、彼がバルタサールに重宝されている理由は転移魔術が使用できるからだ。

 それを理解しているけオレガリオは、指示に従い魔力を練り始めた。


「「行ってまいります!」」


「あぁ……」


 オレガリオが転移魔術の準備が整った合図を送ると、テレンシオとカサンドラはすぐに側に寄り、オレガリオの左右の肩にそれぞれ手をかける。

 そして、2人がバルタサールに出発の声をかけると、オレガリオは転移の魔術を発動させた。


「…………」


 3人がいなくなった会議室で、バルタサールはひとり考え込む。

 いくらオレガリオが転移魔術を使用できるといっても、ナタニエルと鷹藤・柊の戦闘を間近で見ることはできない。

 つまり、戦闘の一部始終が分かっている状況ではないということだが、ずっと引っかかっていることがある。

 ナタニエルは、本当に康義と俊夫の2人の手によって倒されたのだろうかということだ。

 たしかに、康義と俊夫の実力はかなりのものだ。

 だからと言って、ナタニエルを倒せるほどだろうか。

 その僅かな違和感が、バルタサールの中でずっと残ったままだった。



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