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第174話

「「先輩!」」


「またか……」


 自分に向かって駆け寄ってくる少年と少女に、伸は辟易とした様子で呟く。

 というのも、このふたりが絡んでくるのは、毎日の事だからだ。


「組み合わせが……」


「予想外だよね……」


 駆け寄ってきたふたりを見て、伸の側に居た綾愛と奈津希が呟く。

 彼女たちも、毎日の光景に若干うんざりしていたからだ。

 駆け寄ってくる2人は、上長家の長女の真理と森川家の次男の正大(まさひろ)だ。

 三矢野地区の名家である上長家、台藤地区の名家である森川家。

 次期当主候補ではないとはいえ、他の地区から何故かわざわざ八郷地区の魔術学園に入学してくるなんて、何か裏があるのではないかと綾愛と奈津希は考えていた。

 自分で言うのは何だが、恐らく魔術師業界では今人気急上昇中の柊家の自分に接近してくるのは予想できた。

 去年の鷹藤家の道康のこともあるため、森川家の正大はもしかしたら伸と自分の婚約破棄を狙って接近してくるのではないか。

 そして、それは上長家の麻里も同じ。

 彼女は伸に接近することで、婚約破棄につなげようとしているのではないか。

 そんな予想をしていたのだが、それは違う形になっていた。


「新田先輩! これから何するんですか?」


「柊先輩! 寮までお供して宜しいですか?」


 綾愛の予想外だったのは、伸に接近してきたのは正大で、自分に接近してきたのが麻里だったからだ。

 入学式で顔を合わせた後、この一ヶ月、休み時間や昼食時、そして下校時に寄って来るようになったのだ。

 最初のうちは後輩ができてうれしい気持ちもあったのだが、こうも毎日となると、相手をするのがちょっと面倒くさくなってきた。


「いや、これから柊と用がある」


「そうそう……」


 今日は金曜日。

 明日・明後日の土日は、いつものように柊家の魔物退治の仕事をする予定だ。

 そのため、伸たちはいつものように柊家のご用達の料亭で打ち合わせをおこなう予定だった。

 仕事の詳細のことはともかく、伸と綾愛は用があることを2人に告げる。


「あっ! 柊先輩、杉山先輩もチワッス」


「……軽っ」


「こんにちは、杉山先輩、……新田先輩」


「……嫌々だな」


 伸と綾愛の言葉に、正大は綾愛と奈津希に対して、麻里は奈津希と伸に対してそれぞれ挨拶をする。

 正大が興味があるのは伸のため、その側にいる綾愛や奈津希にはお座なりといったようなものだ。

 あまりにも軽い挨拶に、奈津希はツッコムように小さく呟いた。

 麻里の場合、奈津希には普通の挨拶だったが、伸には仕方なく挨拶をしたというのが表情で分かる。

 何か嫌われるようなことをしたことはないというのに、何だか険のある麻里の言い方に、伸は困ったように呟いた。


「なあ、森川。何で毎日のように来るんだ?」


「あなたもよ。上長さん」


 偶にならともかく、毎日のように来られるのは正直言って面倒臭い。

 そのため、伸はストレートに聞いてみることにした。

 綾愛としても、麻里に同じような思いをしていたため、伸の問いに便乗するように尋ねた。


「「兄に言われたので」」


「「「兄?」」」


 問いかけられた正大は伸へ、麻里は綾愛へとほぼ同時に返答する。

 その答えに、伸たち3人は声を揃えて首を傾げた。

 森川家の正大と上長家の麻里には、それぞれ次期当主となる兄がいることは有名だ。

 しかし、どうして自分たちに近付くよう言われたのか気になる。


「そうか……」


 去年の夏の合宿の時、伸は正大の兄である哲也に会って話しをしている。

 その時、哲也は自分のことを気に入るような反応を示していた。

 どう言ったのか分からないが、哲也が弟の正大に何かを言っていたとしても不思議ではないため、自分に近付いてくるのは納得できる。


「森川さんは話したことあるけど、上長さんは……」


「そうだね……」


 伸とは違い、綾愛の方は納得いっていない。

 綾愛も伸と同じく、去年の合宿で哲也と話しているが、麻里の兄である圭太とは、去年年末の対抗戦後に出現した魔人の集団と戦った時に少し挨拶を交わしただけで、まともに話したことが無いからだ。

 柊家の使用人の家系である奈津希としても、綾愛が上長家に関わったことが無いことは分かっているため、同意の言葉を呟く。


「年末の魔人討伐以後、兄は柊家の話をよくするようになりました。なので、上長家の者として柊家との橋渡しの使者になろうと考えております」


「なるほど……」


 年末に出現した魔人集団は、ほぼ伸によって倒された。

 しかし、魔術師学園に通っているとはいっても、伸はまだ高校生である。

 そのため、高校生が魔人たちを倒しましたといっても、国民は納得するとは思えない。

 それならば、伸にお膳立てされたとはいえ、魔人に止めを刺したのはその場で魔人と戦った者たちなのだから、それぞれの家の手柄にすれば良い。

 綾愛の婚約者ということもあり、伸は柊家の人間と言っても良い。

 その柊家当主の俊夫がそれで良いというのならと、止めを刺したそれぞれの家が手柄を得ることができた。

 その代わりに、俊夫は伸のことを家族にも言わないようにと条件を出していた。

 その条件によって正確なことは言わなくても、伸がいることで今後も柊家の人気が上がることは間違いないことを、圭太は口に出してしまったのだろう。

 それを聞いた麻里は、柊家との仲を取り持つことを考え、綾愛に近付くことにしたようだ。

 そのことを聞いて、ようやく綾愛は納得いった。


「ともかく、毎日来られるのは流石に困る。それに、さっきも言ったように、俺たちは用があるんだ。だから今日は寮に帰れ」


 色々勘違いも混じっているようだが、正大と麻里が自分たちに寄ってくる理由はなんとなく理解した。

 しかし、今日はこの後予定がある。

 そのため、伸は2人に寮へ帰るように告げた。


「何の用ですか?」


「土日の仕事の打ち合わせだよ」


 用事があるといえば引きさがると思ったが、そうもいかない。

 正大は、伸たちの用事が何なのか問いかけて来た。

 さすがにイラッと来た伸は、若干雑に用事の内容を告げた。


「じゃあ、その仕事、俺にも手伝わせてくださいよ!」


「私も!」


「「「えっ?」」」


 このメンバーで仕事と言えば、柊家関連のものなのは察することができる。

 正大と麻里も有名一族の人間なのだから、他家の仕事に関わらないようにすると思った。

 そうしたら、まさかの参加を希望してきたため、伸・綾愛・奈津希は揃えて声を出して固まった。



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