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第169話

「あぁ~……! 色々あり過ぎて疲れた……」


 ナタニエルをはじめとする魔人たちを倒した伸は、密かに転移してホテルに戻った。

 ホテルを見上げるように、伸は背伸びをする。

 誘拐されて、犯人を捕縛。

 警察を呼んで、パトカーでホテルに送ってもらおうと思っていたら、今度は大会会場に魔人が出現し、それを倒さなければならなくなった。

 片方だけでも滅多にあり得ないことだと言うのに、それが1日に起こるなんて、運がないにも程がある。

 そのため、伸がこう言いたくなるのも仕方がないことだ。


「あれ?」


「おぉ、伸!!」


 伸がホテル内に入ると、玄関ホールに八郷学園の生徒たちが集まっており、その中にいた伸の友人の了と吉が、入ってきた伸を見つけて声をかけてきた。


「お前、警察から誘拐されたって聞いたけど大丈夫だったのかよ?」


 今日の対抗戦の決勝戦で、伸は綾愛のセコンドに付くはずだった。

 しかし、朝からずっと行方不明になっており、周囲を捜索していたところ警察から誘拐されていたとの報告を受けた。

 無事と聞いていたが、ずっと心配していたため、了は確認のために問いかけた。


「あぁ、見ての通り何ともない」


「そう…みたいだな」


 了の言葉に、伸はどこも怪我をしていないことを証明するように両腕を広げて見せる。

 その言葉を受け、了と吉は伸の全身を下から上まで眺める。

 誘拐されたというのに、少し服が汚れているだけで全く怪我を負っている様子はない。

 それを確認した吉が、納得したように声を漏らした。


「心配させんなよ」


「悪い、悪い」


 誘拐なんて、場合によっては命を奪われる可能性もあったということだ。

 最悪な結果も想像できただけに、了は吉と共に心配していた。

 そのことを若干攻めるように言う了の言葉に、伸は軽い口調で謝った。


「ところで、みんな集まって何しているんだ?」


「何してるって……」


「何呑気なことを……」


 玄関ホールに集まって何をしているのかと思った伸が問いかけると、了と吉は呆れたように呟いた。


「魔人が現れたから、応援に行っていた全員、会場から逃げてきたんだよ。それで、皇都から脱出することになって、先生たちが手配をしていたところだ」


 八郷学園の教師と生徒は、伸が行方不明になっていたことから、ホテルに残って捜索に当たっていた者と、決勝で戦う綾愛の応援に行っていた者に分かれていた。

 そして、誘拐されていた伸が発見され、犯人の捕縛に成功したと警察から連絡が入ったと思ったら、今度は大会会場で魔人が出現するというとんでもない事件がおこった。

 会場にいた生徒と教師は、他の観客と共に会場から脱出し、ひとまずこのホテルに戻ってきた。

 そして、教師たちは魔人のいる皇都から生徒を脱出させるための手配をする事に動いた。

 その手筈が整ったらすぐさま行動に移せるように、生徒たちを玄関ホールに集めていた。


「けど、さっき鷹藤家と柊家の当主によって魔人の殲滅が完了したって報道された所なんだよ」


 教師たちが脱出する手配をしようとしていたところで、鷹藤家当主の康義と柊家当主である俊夫が魔人を殲滅したことが報道されたらしい。


「その報道を受けて、皇都から脱出する必要がなくなったから、また部屋に戻って休むようにだってさ」


「あぁ、そうなんだ……」


 魔人から逃げるために皇都から脱出する必要があったが、その魔人がいなくなったのなら、そうする必要もなくなった。

 そのため、今日はこのままホテルに宿泊し、明日地元の八郷地区へと戻ることに決まったそうだ。

 その言葉通り、集まっていた生徒たちは少しずつ部屋へと戻っていっている。


「新田! 無事でよかった。パトカーで送迎している途中で居なくなったって警察から聞いて、心配していたんだぞ」


「すいません」


 皇都脱出の手配に向かっていた教師1人で、担任の三門が伸を見つけて駆け寄ってくる。

 監禁場所からパトカーでホテルに送ってもらっている時、魔人の出現を知った伸は会場に向かうことを決めた。

 そのため、また行方不明になってしまったと思ったら、1人でホテルに戻ってきた。

 心配と安堵が混じったような三門の表情に、全然平気だったとはいえ申し訳ない気持ちになった伸は頭を下げた。


「金井と吉井から聞いたと思うが、今日は部屋で休んで、明日帰ることになったからな」


「はい」


 了と吉が説明してくれていた声が聞こえていたのだろう。

 三門は手短に説明をしてくれた。


「表彰式がおこなわれている間、お前は警察の聴取を受けることになるからそのつもりでいてくれ」


「分かりました」


 本来なら決勝の後に表彰式をおこなって、翌日八郷地区へと帰る予定だった。

 しかし、魔人の出現があったため、明日おこなわれることになったそうだ。

 去年に続き綾愛が優勝したため、教師と生徒たちは会場に向かう予定なのだが、誘拐の被害者の伸はその間、警察に詳しく聴取されることになったようだ。

 魔人を倒した後、柊家当主の俊夫に手を回してもらうことを頼んでおいたので、長時間質問されることはないだろう。

 明日の予定を説明してくれた三門に、伸は頷きを返した。


「あっ!」


「んっ?」


 三門との話が終わった所で、了が何かに気付いたように声を上げる。

 その声に反応し、伸は了の視線の先に目を向けた。


「あっ、柊……」


 玄関の前に止まった車から降りた綾愛が、ホテルの中へと入ってきた。


「柊! お前も大丈夫だったか……」



 行方不明の伸のこともあってホテルにいた三門だったが、綾愛の事も心配していた。

 魔人が出現したというのに、いつまで経っても綾愛が戻ってこなかったからだ。


「すいません。ただいま戻りました」


 決勝戦の終了直後に魔人の出現。

 魔人に狙われていた自分が逃げる訳にもいかず、綾愛は魔人と戦わなければならなくなったため、すぐにホテルに戻ることができなかった。

 声をかけられた綾愛は、まっすぐ三門に向かい、伸同様申し訳なさそうに頭を下げた。


「2人共無事でよかった。色々あったが、今日は部屋で休んでくれ」


「「はい」」


 綾愛は柊家の人間だ。

 明日の表彰式のことは、父である俊夫から聞かされているはずだ。

 そのため、三門は説明を手短に済ませ、伸たち部屋に戻るように言った。

 それを受けた伸と綾愛は、意図せず声を合わせて返事をした。



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