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第168話

「さすがだな」


「柊殿」


 ナタニエルを倒した伸が刀についた血を振り払って鞘に収めると、柊家当主の俊夫が近寄りながら話しかけて来た。


「鷹藤殿と2人がかりでも難しかった相手を、こうもあっさり倒すなんてな……」


 この国で最強と呼ばれる鷹藤家当主の康義と、伸の魔力操作によって実力が上がった自分。

 その2人が連携して戦ったのにもかかわらず、ナタニエルとは互角だった。

 いや、全力ではなかったところからすると、ナタニエルの方がかなり有利な状況だった。

 そんな相手を、伸は全く寄せ付けない強さで圧倒した。

 つまり、それだけ自分よりも強いということ。

 信じていたとは言え、ここまでとなると何だか呆れてくる。

 だが、倒せたのだから結果オーライということで、俊夫は納得した。


「そう見えたかもしれないですけど、かなりの相手でしたよ」


「そうなのか?」


「えぇ」


 たしかに、結果的には圧倒した。

 しかし、ナタニエルはかなりの実力を持っていた。

 余裕があるかのように、ナタニエルを煽ったりしたが、全く気を抜いてはいなかった。

 というのも、「もしも」があり得る相手だったからだ。


「っ?」


「…………」


 俊夫と話していると、康義も近付いてきた。

 無言で、鹿も表情は険しい。


「……何か?」


 鷹藤家の、伸にとって一番関わりたくない人間の康義。

 本当は話をする事も嫌なのだが、何も言わず若干睨みつけているような康義の視線に、伸は思わず何か言いたいことがあるのか問いかけた。


「君は何者だ?」


「新田伸…です」


 伸の問いを待っていたかのように、康義は質問を投げかけてくる。

 その質問に、伸は自分の名前を答えた。


「そうじゃない! 何故あの魔人を倒せるような能力を持っているのだ!?」


「鍛えたからです」


 伸の答えが自分の質問とはズレたものだったためか、康義は若干声を荒げて問いかけてきた。

 そもそも話したくもない相手にだというのに、何だかケンカ腰の態度を取られたことで、伸も若干イラッと来る。

 そのため、嘘ではいないが適当に返答した。


「……誰に剣を教わった?」


「自己流です」


「っ……」


 伸の態度を見て、自分の態度が悪いからこそ壁を作られたと、康義はすぐに察したようだ。

 そう言ったところは、伊達に年を食っていないと言ったところだろう。

 だからと言って、今更態度を変えた所で伸の方は変えるつもりはないため、康義の質問に対して嘘を答える。

 伸の態度が変わらないことに、これ以上聞いても意味がないことを悟った康義は、それ以上質問することを諦めるしかなかった。


「鷹藤殿。まずは魔人討伐の報を……」


「……そうですな」


 魔人の出現は、皇都だけの問題ではない。

 国中騒ぎになっているはずだ。

 伸とナタニエルの話を聞いていたため、俊夫や康義もナタニエル以外の魔人が討伐されたことを探知している。

 そのため、突如出現した魔人全てを討伐し終えたことを、国中に知らせて安心させる必要がある。

 伸に興味を持つ気持ちは分かるが、今はそれよりも討伐したことを知らせるべきだと、俊夫は康義を止める。

 俊夫に言われてそのことに気付いた康義は、大人しくその意見に賛成した。


「あっ! それなんですが、自分の名前は出さないようにお願いします」


「何……、そうか……」


「……? あぁ、そういうことか……」


 ナタニエルを倒したのは伸だ。

 当然伸の名前を出すつもりでいた俊夫と康義だったが、本人がそれを止める。

 2人共、「何故?」と問いかけようとしたが、すぐにその理由に気付いた。

 全く無名の伸が倒したと言っても、国民が納得するのか怪しい。

 それよりも、鷹藤・柊の名前で討伐したことを公表する方が、信憑性が高いため、そうするように進言したのだと。


『他の魔人の止めは任せたのに、一番強いのを自分で殺したら意味なかったかもな……』


 結局、今回現れた魔人の全部を伸が仕留めた。

 止めだけは他に譲ることで、完全に自分だけで倒したとは言えない状況を作り上げた。

 今回のことで、名門家の人間に自分の実力は知られてしまうことになるが、それ以外の一般人に知られることはないはず。

 名門家の人間が、もしも自分の事を広めようとしても、止めは自分が射したという情報も付いている分、本当の事と受け止められるか微妙なところだ。

 しかし、一番強いナタニエルを自分が倒してしまったとなると、そこまでした意味がなくなってしまったのではないかと思えてきた。


「……まぁ、いいか……」


 この場にいるのは俊夫と康義だけだ。

 見ていない以上、真偽のほどを知ることはできないため、他の人間も俊夫と康義が倒したと思うはずだ。

 不確定な今後のことを考えても仕方がないため、伸は深く考えることはやめた。




「ところで……」


「はい?」


 魔人を討伐したことを報道陣に知らせる手筈を康義に任せ、俊夫は伸と話しかける。

 真面目な顔をしているせいか、伸は何のしたのかと思いつつ首を傾げる。


「綾愛のことだが……」


「あぁ……」


 俊夫の娘である綾愛の事と言われ、伸は何が言いたいのかなんとなく理解した。

 鷹藤家に手を出されないために、康義に婚約者だと言ったことだろう。


「言いたいことは分かってます」


 康義に婚約者だと言ったのは、あくまでも鷹藤家に正をさせないための方便たと、そのことは言われずともちゃんと理解している。


「柊殿の気にする事はありません」


 俊夫は綾愛を溺愛しているため、綾愛に手出しをしようものなら柊家全てを相手にする事になりかねない。

 そんな面倒な思いなんてしたくないため、そんな事はするつもりはない。


『いくら何でも、柊の気持ちも考えないと……』


 家同士で婚姻関係を結ぶことがある。

 伸もそのことは知っているが、だからと言って相手の気持ちも考えないわけにはいかない。


「そうか……」


 伸の言葉を聞いた俊夫は頷いた。

 自分が勘違いして綾愛に手出しをしないという言葉に、納得した頷きだと伸は理解した。

 伸との話を終えた俊夫は、今後のことを打ち合わせるためか、踵を返して康義の所へと向かって歩き出した。


「…………」


 背を向けられていたことで、伸は気付かない。

 康義の所へと向かう俊夫が、一瞬腹黒い笑顔をしていたことに。

 そして、後になって悔やむことになる。

 この時、もっとちゃんと俊夫と話しておけば良かったと。



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