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第154話

「鷹藤家当主康義、柊家当主俊夫……」


「「…………」」


 名前を呼びながら、ナタニエルは2人の顔を眺める。

 本人かを確認するのと共に、品定めするかのような視線だ。

 そんなナタニエルを、俊夫と康義は無言で警戒する。


「お前たちを殺せば、この国の魔闘師で脅威と成り得る者はいなくなる」


 日向皇国において、現在最強は誰かと問われれば、多くの者が康義と答えるだろう。

 それだけ、康義(鷹藤家)は魔人や魔物からこの国を守ってきた実績がある。

 しかし、最近(去年)からその評価は少し変化している。

 突然の魔人の出現。

 しかも、同時に2体。

 それを、俊夫が率いる柊家が倒した。

 そのことによって柊家の評価は一気に上がり、当主の俊夫の実力は康義に匹敵すると言われるようになっている。

 どうやって仕入れたのか分からないが、どうやらナタニエルは調べたようだ。


「……それが狙いか?」


「その通り」


 その噂が本当であるならば、たしかにその通り。

 この国最強と言われている2人が、この場にいるということだ。

 そして、それがナタニエルたち魔人軍の狙いだということに、俊夫は気付く。

 すぐに返答する所を見ると、ナタニエルにとっては隠すようなことではないようだ。


「海外の件もお前らか?」


 俊夫とナタニエルの話に、康義が入る。

 海外の件というのは、4月に世界各国に現れた魔人が、散々暴れ回った挙句、突如姿を消した事件のことだ。

 群れないはずの魔人たちが、まるで連携を取るかのように暴れ回った事件はいまだに解決していない。 

 これだけの数の魔人による襲撃。

 康義は、その事件のことを思いだし、思わず尋ねたようだ。


「……その通り」


 俊夫のはともかく、康義の質問に答えると言った覚えはない。

 そもそも、康義が来た時点で、話をして時間を稼ぐ必要はなくなった。

 どうせ殺すのだから無視しても良いのだが、何故かナタニエルは問いに答えた。


「まぁ、ここにいるのは他国を攻めたのと全部違うがな」


「「っっっ!!」」


 ナタニエルの発言に、俊夫と康義は驚きの表情へ変わった。

 それを見て、ナタニエルは笑みを浮かべた。

 わざわざ康義の問いに返答したのは、この反応を見るためかもしれない。

 

「こいつも含めて、19体以上いるということか……」


「いつの間にそんな数に……」


 昔から自然発生的に出現しては、人間に多くの災いをもたらした魔人。

 毎回出現するたびに、多くの犠牲と共に人間は討伐してきた。

 進化して知能を得て言語を使用し、人の姿に変化することができる魔物が魔人だと言われており、どのような条件により進化するかはいまだに解明されていない。

 滅多に出現しないはずの魔人が、去年からは世界各地で発見されることになった。

 特にこの大和皇国では、頻出していると言って良い。

 1体でも危険な魔人が、ここにるのと他国に出現したのも合わせて、最低でも19体いるということだ。

 俊夫と康義が驚くのも無理がないというものだ。


『それだけの数をどうやって集めているんだ?』


 知能と魔術を駆使して、人間は魔人の脅威から生き残ってきた。

 魔術を使用する人間の質の向上を図るための育成機関として、国の地域ごとに魔術学園を設立してきた。

 魔術師の質が向上すれば、その分討伐される魔物の数は増える。

 討伐される魔物が増えれば、魔人の出現頻度も下がるはず。

 それに、魔人なんて世界中のいつどこに出現するか分からないというのに、ナタニエルたちはどうやって仲間に引き入れているのだろうか。

 そのことが、俊夫には違和感しかない。


『……っ!! まさか……』


 これだけの数の魔人を集結させたということは、生まれたばかりの魔人をすぐに発見する能力でもあるのではないかと思えてくる。

 そんな能力があるなら、人間側にも欲しいところだ。

 しかし、そんな考えが一気に吹き飛ぶような考えが、俊夫の頭に思い浮かんだ。

 自分で思いついておいて信じられない考えだが、それが正しければ魔人を集められることも可能だ。


「……っ? 柊殿?」


 急に黙った俊夫に、康義が話しかける。

 魔人の数に驚くのは分かるが、今は目の前の敵に集中してもらいたい。


「……まさか、魔人を生み出しているのか……」


「っっっ!?」


 若干顔色が悪くなっている俊夫から発せられた言葉に、康義は言葉を失い目を見開く。

 次の言葉も出てこないほどの驚きの発言だ。

 人間にとって脅威でしかない魔人を、意図して生み出せるなんて、冗談にしては笑えない。


「……へぇ~、よく気付いたな……」


「「っっっ!!」」


 否定して欲しいという思いから問いかけた質問だったが、笑みと共に返された答えに、俊夫と康義は絶句することになった。

 ナタニエルの答えが本当のものか分からないが、その可能性があることは受け入れざるを得ない。

 そう考えると、最悪な予想が思い浮かんでくる。

 どういった方法で新たな魔人を生み出しているのか分からないが、その生み出される速度によっては、人間が滅亡する未来までも想像できてしまう。


「それを聞いたら、せめてここにいる魔人を倒さないとな……」


 これから、魔人はまだ増えるかもしれない。

 速度にもよるが、自分たちがすることは一つ。

 この国を守るために、この会場にいる魔人を殲滅することだ。


「柊殿……」


「分かっております」


 俊夫の言葉に、康義が待ったをかける。

 名前を言われただけだが、俊夫は康義が言いたいことはすぐに理解した。


「「お前は捕縛して、魔人を誕生させる方法を吐かせる!」」


 発言と態度から、ナタニエルは魔人を生み出す方法を知っている様子。

 それならば、捕縛してその方法を吐かせる。

 そんな決意と共に、俊夫と康義はナタニエルとの間合いを詰め始めた。


「フフッ! 勝つだけでなく捕縛?」


 左右に分かれ、少しずつ距離を詰める俊夫と康義。

 そんな2人を視界に入れながら、ナタニエルは余裕の表情で待ち受ける。


「……舐めるなよ!!」


「「っっっ!!」」


 余裕そうな表情から一変する。

 俊夫と康義の言葉が癇に障ったようだ。

 そして、眉間に皺を寄せると共に発せられた言葉と共に、肉体に纏う魔力量も一気に膨れ上がった。


「わざわざお前らの質問に答えたのは何でだと思う?」


「「…………」」


 膨大で濃縮された魔力を纏うナタニエル。

 そんな彼の魔力に当てられ、俊夫と康義は彼の質問に返答できない。


「さっき言ったように、お前らをここで殺すからだ!!」


 返答など期待していない様子のナタニエルは、康義に向かって地を蹴った。



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