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第148話

「ハァ~……」


 捕まってしまった経緯を思い返い、伸はまたも自分の不甲斐なさに溜め息を吐く。


「っと、反省は後だ。さっさとこの場から脱出しないと……」


 偽警官の2人は、何者かの指示によって自分を誘拐するように指示を受けていたらしい。

 自分を誘拐する目的が何か知りたくてワザと捕まったが、当然このままでいるわけにはいかない。

 いきなり姿を消したため、学園関係者たちには迷惑をかけているはずだ。


「柊にも悪いからな……」


 綾愛なら急なセコンド変更も問題ないとは思うが、いつも通りに戦いに挑むといった心境にはならないだろう。

 決勝の相手はあの文康だ。

 このような余計なことが無い状況で、試合に挑ませてあげたかった。


「でも、考えようによっちゃ、この状況は柊にとって都合が良いか……」


 この場所まで運ばれている車内で、伸は寝たふりをしながら偽警官たちが主防犯の名前を出さないか聞き耳を立てていた。

 しかし、睡眠薬を嗅がせて眠っていると油断していても、2人は主防犯の名前だけは出さなかった。

 それでも、2人は主防犯の「坊ちゃん」が誰なのかのヒントを出していた。

 偽警官の2人が自分を誘拐した目的は、綾愛を試合で敗北させることらしい。

 そのことから、主防犯は誘拐したという情報を利用して、綾愛の実力を削ごうという考えだ。

 誘拐したということを綾愛に知らせれば、すぐにでも警察が動く。

 そうならないように知らせるには、直前、もしくは()()()がベスト。

 そうなってくると、必然と答えは出る。


「文康だろうな……」

 

 答えが出ると、それほど難しい推理ではなかった。

 偽警官たちが「坊ちゃん」と言っていることから、彼らは鷹藤家の人間なのだろう。

 鷹藤家の人間で「坊ちゃん」呼ばわりされるのは、文康か道康のどちらか。

 道康が兄貴のためにやったとも考えられるが、そこまで仲が良い関係ではなかったはず。

 なので、考え付くのは文康だ。


「まぁ、あの2人を捕まえれば確実に分かる話だ」


 綾愛の試合を見て、もしかしたら文康は自分が負けるかもしれないと思ったのだろう。

 だから、保険のために誘拐計画を考えたのかもしれない。

 きっと文康は、自分のことを綾愛にくっついているモブだと思っているのだろうが、完全に相手を間違えた。

 これから文康が破綻していく姿を想像して笑みを浮かべつつ、伸は脱出を開始することにした。






◆◆◆◆◆


「ただいまより決勝戦を開始します!」


 伸の行方不明のまま対抗戦決勝の選手入場が終わり、舞台上の綾愛は文康と向かい合う。

 そんな2人を見た審判は、会場に集まる観客に試合開始を知らせるように声を上げる。

 審判のその言葉を聞いて、会場の観客たちは自然と声が治まっていった。


「「「「「…………」」」」」


 綾愛と文康が、木刀を構えて睨み合う。

 その状況で会場中が静かになった所で、


「始め!!」


 審判から試合開始の合図がされた。


“バッ!!”


 試合開始の合図から早々、綾愛と文康は打ち合わせていたように相手から距離を取る。


「ハッ!!」


「フッ!!」


 左手を向け、2人共魔術による攻撃を放つ。

 相手に当たれば戦闘不能に追い込むことができる程度の、性質変化させる僅かコンマ何秒すら省く、速度重視の魔力弾だ。


“パンッ!!”


 綾愛と文康が放った魔力弾が中間点でぶつかり合い、弾けると共に消失する。

 これにより、威力も速度も互角ということが分かる。


「シッ!!」


「ッ!!」


 2人はまたも同時に動きだす。

 舞台上を円を描くように時計回りに走りながら、相手に向かって魔力弾を発射する。


「っ!!」


「チッ!」


 発射される魔力弾は、全部互いの魔力弾によって相殺される。

 止まっていても、動きながらでも互角。

 距離を取っての魔術攻撃で相手を崩すのは難しいと、2人共悟る。

 決勝までの戦いから、こうなることが可能性は予想できていた。

 そのため、綾愛はそれほど驚かないが、文康の方はこの状況を忌々しそうに舌打ちした。


「「…………」」


 魔術勝負は互角。

 綾愛と文康は少しの間睨み合うと、ならば次はと、右手に持っていた木刀を両手で握った。


「シッ!!」


「ハッ!!」


 特に合図がある訳ではないが、睨み合っていた綾愛と文康はほぼ同時に舞台を蹴る。

 距離を取っての魔術対決では、なかなか勝負がつかない。

 ならば、今度は接近戦での勝負ということだ。


「セイッ!!」


「フンッ!!」


 先に綾愛が上段から斬りつけ、文康は木刀でいなす。


「ハッ!!」


「っ!!」


 攻撃をいなされて体が僅かに前へ流れた綾愛に対し、今度は文康が右薙ぎを放つ。

 その攻撃を、綾愛はしゃがみ込むことによって回避する。


「シッ!!」


「っ!!」


 文康の木刀が頭の上を通り過ぎる。

 そのすぐ後、綾愛はしゃがみ込んだ反動を利用して左斬り上げを放つ。

 その攻撃に反応した文康は、バックステップすることにより躱した。


「ハッ!!」


「っ!!」


 バックステップした文康に対し、綾愛が突きによる追撃をする。

 その突きを上へ弾き、文康は袈裟斬りを放った。 


「クッ!」


 文康の攻撃を、綾愛は木刀で受け止める。

 そして、2人は鍔迫り合いの状態になった。


「フンッ!!」


 その状況から、綾愛は跳び退くことで距離を取る。


「「…………」」


 少し距離を取った2人は、またもお互いを睨み合った。


「「「「「ワーーー!!」」」」」


 僅かな時間で繰り広げられた高レベルの攻防戦。

 とても高校生の試合とは言えない。

 当然試合を見に来ていた観客は盛り上がり、2人の膠着状態を合図にしたように歓声が上がった。


「フンッ! 鷹藤家の天才と言われた俺が、田舎一族である柊家のお前なんかと互角なんてな……」


「……田舎で悪かったわね」


 速度による手数で攻める綾愛に対し、パワーで軍配の上がる文康。

 魔術戦だけでなく、接近戦でも互角のようだ。

 その状況に、文康は不機嫌そうに呟く。

 そんな文句に近い呟きなんて綾愛は気にしない。

 文康の気持ちを煽るように、余裕そうな笑みで言葉を返した。


「……あぁ、そう言えば……」


 案の定、綾愛の態度が気に障った文康は眉間に皺を寄せる。

 しかし、すぐさま表情を崩し、何となくいやらしい笑みへと変わった。


「お前のセコンド、これまでと違うな……」


「……それが何?」


 伸がいなくなったことにより、綾愛は急なセコンドの変更を余儀なくされた。

 柊家を田舎一族と言うような奴だ。

 何度か顔を合わせているとは言っても、無名の新田のことを覚えているはずがない。

 そのため、綾愛は文康のにやけた表情に嫌な予感がして来た。


「なんかあったのか?」


「……あなたには関係ないでしょ?」


「まあそうだが、大変だよな……」


「…………」


 言葉の内容は心配しているような物言いだが、表情は全く逆。

 文康は、試合で憂さ晴らしをするように相手を痛めつけるような男だ。

 自分のセコンドの心配なんてあり得ない。

 そう思いつつ、綾愛は無言で文康の言葉の続きを待った。


「行方不明なんて……」


「っっっ!!」


 この言葉を聞いて、綾愛は嫌な予感の意味を理解した。


「あなたっ!!」


「おっと! 大きな声を出すなよ! お前が騒ぐと行方不明のセコンド君に危害が及ぶかもしれないぞ?」


 伸が行方不明になった原因は、文康が何かをしたのだろう。

 そのことを理解した綾愛は、糾弾しようと声を荒げようとした。

 しかし、そんな綾愛を、文康はたしなめるように話しかける。

 騒げば伸に危害を与えると、遠回しの脅しだ。


「……何が目的なの?」


「簡単だ。お前は無駄な抵抗はせず、俺にズタボロに負ければいい」


「…………」


「それでいい」


 文康の目的を聞き、綾愛は木刀を下ろす。

 自分の脅しに屈した綾愛を見て、文康は笑みを浮かべて床を蹴った。



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