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第135話

「……そう来たか」


 遠距離から魔術攻撃をおこなうことで、了の接近を阻止する奈津希。

 そのまま戦い続ければ、奈津希が魔力切れで負けることは明白。

 しかし、その状況はすぐに変化する。

 奈津希が魔術攻撃をしなくなったからだ。

 その様子をモニターで見ていた伸は、奈津希の考えを理解して呟く。


「逃げ回るだけにシフトしたか……」


 奈津希の行動の変化。

 それは、魔術攻撃をしないで了から逃げ戦法だ。

 接近戦に持ち込みたい了は、いつものように距離を詰めようとする。

 それに対し、奈津希も同じ距離移動することで無駄に魔力を消費することを抑えている。

 これなら、魔力切れ負けをする事はないだろう。


「でも……」


 この世界では女性の方が魔術が得意で、魔力量は女性の方が多い。

 そのため、このままなら今度は了が不利の状況だ。

 先程の綾愛の言葉ではないが、このまま進むとは思えない。


「……ハッ!!」


「っ!! あれは……」


 これまでと違う了の動きに、モニターを見ていた綾愛が反応する。


「っっっ!!」


「……チッ!」


 綾愛の反応と同じ速度で、奈津希も反応する。

 了が急激に接近する速度を上げる。

 開始早々におこなった、了得意の速攻だ。

 しかし、その速攻に対し、奈津希も同様の技術を使って回避をおこなった。

 まさに開始早々と同じ状況。

 速攻をまたも躱されたことに、了は思わず舌打をした。


「杉山はかなり了のことを分析したんだな……」


「えぇ……」


 距離を取り、逃げ続ける奈津希。

 その距離を詰めようと、了は時折速攻を仕掛ける。

 だが、またも奈津希が了と同じ速度で動き、接近戦になることを回避する。

 そのことから、伸は奈津希の行動を褒める。

 逃げ回っているだけだが、勝利をするための最適手を選択している。

 あれだけ了の接近に対して反応できるのは、ただ事ではないことから、相当な分析をしたに違いない。

 開始早々の魔術攻撃は、あくまでも分析と実戦の誤差を埋めるための時間だったのかもしれない。

 伸は口に出さないが、もしかしたら柊家の人間を使った可能性も考えられる。

 校内の試合に家の力を使うなんてという人間もいるかもしれないが、魔闘師が相手にするのはルール無用に襲い掛かってくる魔族や魔物だ。

 きちんと分析するのは当然のこと。

 文句を言う方が甘いというしかない。

 了も剣術道場の息子だ。

 そう言った文句を言うような性格ではないはず。


「……やっぱり、まだ魔力の溜めがあるかな……」


 奈津希が了の動きに反応できているのには分析によるものもあるのだろうが、了の方にも少し問題があることを発見する。

 了の速攻は、訓練によって何度か使用できるようになったようだが、集中するせいか魔力を溜めるために、発動までに僅かな間があるように感じる。


「……逆に、奈津希は魔力の溜めが少ない。魔力操作技術の差ね」


「あぁ」


 了の速攻と同じ技術で回避をおこなう奈津希。

 つまり、その了の溜めの間を見極めてから、奈津希は同じ技術で回避をおこなっているのだ。

 それが示すのは、綾愛が言ったように魔力操作の差だ。

 僅かな間を感じてからでも発動ができる奈津希の方が、有利になるのは当然の状況だ。


「…………」


「何かやる気だな……」


「えっ?」


 口を真一文字にして奈津希を見る了の顔を見て、伸は何かを感じ取る。

 恐らく、友人だから感じ取った感覚かもしれない。

 その伸の言葉に、綾愛は心配そうに応援する奈津希を見つめた。


「ハッ!!」


「っっっ!! 危な……」


 僅かな間が空く。

 それを見て、奈津希は高速移動をする。

 しかし、急接近してきたのは了ではなかった。

 迫ってきたのは火球。

 奈津希はギリギリのところで、その火球を回避することができた。

 速攻を使う時と同じ間を空け、了は魔術を発動させたのだ。

 その火球の魔術は、あくまでも速度重視の攻撃。

 とは言っても、直撃すればその隙に了に距離を詰められ、接近戦に持ち込まれるのが目に見える。


「躱したけど……」


「また了が有利になったな」


 綾愛は、奈津希が了の火球魔術を回避したことに安堵するが、すぐに状況を理解する。

 伸が言うように、また了が有利な立場に立ったからだ。

 夏休み中の親父さんの特訓というのは、あの魔術攻撃のことだろう。

 接近戦のみの戦闘スタイルから、去年の夏から魔術攻撃ができるようになった。

 苦手分野が解消され、それを得意分野に利用する。

 了が着実に成長して行っている証だ。


「速攻か魔術か、どっちで来るか分からない攻撃に、適切に反応できるわけがない!」


「そうだな……」


 伸の言ったことを受けて、奈津希もずっと自身の魔力操作を訓練してきたのだろう。

 それによって了の速攻に対応できていたのだろうが、伸の人体操作で魔力操作技術が上達した綾愛なら可能かもしれないが、今の奈津希では速攻と魔術攻撃を適切に対応するのは無理だろう。

 どっちの攻撃に対しても魔力を消費する高速回避をしていれば、魔力切れになる。

 これで了の勝ちだと、誰もが思ったことだろう。


「っ!!」


「っ!?」


 この状況を理解しているのは当事者の奈津希だろう。

 了は奈津希が負けを宣言するのかと思っていたが、違う行動をとったことに驚く。


「接近戦? 当たって砕けろってか?」


 モニターを見ていた伸も、奈津希の行動を意外に思う。

 何故なら、距離を取り、接近戦を拒否ししていた奈津希の方が了へと接近していったからだ。

 その姿から、距離を取っても不利な状況なら、玉砕覚悟で了の得意な接近戦で勝機を見い出そうとしたのかと伸は感じた。


「……違う!!」


「えっ?」


 伸の呟きに、綾愛は否定の声を上げる。


「来るなら来いっ!!」


 接近戦は願ったり叶ったり。

 了は迫り来る奈津希を待ち受けるように、木刀を構えた。


『掛かった!!』


「っっっ!!」


 あと数歩で了の攻撃範囲に入るというところで、奈津希が行動を起こした。

 何の動作も見せず、周辺に魔力の球が幾つも出現させたのだ。

 その現象に目を見開く了。


「ハッ!!」


「ぐ、ぐおぉーー!!」


 玉砕攻撃ではあっても、残った魔力全てを使った近距離からの魔力球の連射攻撃。

 流石と言って良いだろう。

 その攻撃に対し、了も反応する。

 魔力を纏った木刀で、迫り来る魔力球を必死に弾き飛ばす。






「ぐっ!!」


「勝負あり!!」


 攻める奈津希と防ぐ了。

 その状況が少しの間続き、とうとう試合が決着した。

 その瞬間、審判の三門が手を上げた。


「勝者杉山!」


 攻める奈津希の連射の方が、了の防御を上回った。

 魔力球の直撃を腹に受けて蹲った了に、奈津希が木製の薙刀を突きつけ、勝負ありとなったのだ。


「予想外だ……」


「やった!! 奈津希!!」


 伸が応援していた了が負け、綾愛が応援していた奈津希が勝利した。

 残念そうに伸は呟き、綾愛は跳びあがってこの結果を喜んだ。



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