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第133話

「注意するのは、了と杉山だけかな……」


 魔術学園では秋の風物詩となる校内代表選抜戦。

 その参加メンバーが決定し、伸はいつもの料亭へと来ていた。

 セコンドに付くことから、綾愛が打ち合わせをしたいと言ってきたからだ。

 ここの料理はめちゃめちゃ美味い。

 呼ばれたのなら来ないわけにはいかないと、伸は嬉しそうにホイホイついてきた。

 料亭に入って料理が来るまでの間、目的である対抗戦の話をしようと、タブレットを取り出して出場メンバーを見た伸は、率直な感想を述べた。


「去年と違うのは、あの渡辺が外れて、田中って奴が入ったくらいだな……」


 1年の前期の時、綾愛を加えて隊を組もうとしていた渡辺。

 その勧誘をあっさりと綾愛に断られ、それを笑った伸たちと試合をする事になった。

 頭も顏も良く、口だけではない程度の実力は有していた。

 しかし、学校に魔物が出現した時は真っ先に逃げるなど、中身の方が良くないとバレ、次第に人気を失っていき、去年の校内戦では初戦で了に負けた男だ。

 2年になってからは、女生徒たちとの噂なんて聞かなくなっていたが、まさか校内戦に出れなくなるなんて思いもしなかった。


「新田君たちに負けてから、あんまり実力伸びてないって話よね?」


「それだと俺たちのせいって聞こえるな。単純にメッキが剥がれただけだろ?」


 実力はあるが、近接戦では了ほどではないし、魔法戦なら石塚や吉井ほどでもない。

 そのことが分かったからなのか、渡辺はどちらを伸ばすべきなのか迷い、魔物が出たら誰よりも早く逃げるようなヘタレ精神も加わって成長が鈍ったのではないだろうか。

 内面さえまともになれば頭は良いのだし、学年でも上位に来れるはず。

 要は、渡辺自身がどうにかする問題だ。


「まぁ、柊は大丈夫だろ……」


 元々、柊家の娘として英才教育を受けて来た綾愛は、剣の腕も魔術の腕も学年ではトップレベルだった。

 それに加え、伸の魔力操作によって更に実力が上がっていて、夏休み中に起きた魔人の出現時、伸が1体任せることができるだけの実力はある。

 この学園内だと、伸以外は3年でも相手にならないだろう。

 そう考えると、よっぽどのことが無い限り、同学年の人間に負けるとは思えないため、伸は綾愛の代表は確定していると踏んでいる。


「……私はって言うと?」


「前回の了じゃないけど、柊は了と杉山の山と別だからな」


 伸の太鼓判を受け、綾愛は内心嬉しい。

 しかし、伸の言い方だと、他に気になる人間がいるようだ。

 そのことを綾愛が尋ねると、伸の口からは了と奈津希の名前が挙がった。


「奈津希と金井君だと、どっちが勝つと思う?」


 伸からすると、友人の了が気になるのは当然。

 奈津希も、柊家の仕事で綾愛と共に魔物退治をしていることもあり、知らない仲ではない。

 8人のトーナメント制で、3位までが学園代表に選ばれる。

 綾愛は、決勝に行くまで了や奈津希と戦わない位置にいるため心配する必要がないが、2人は準決勝で戦うことになる。

 伸の太鼓判通り決勝まで行った時、どっちが来るのか気になった綾愛は、どちらが決勝に来るかを尋ねた。


「了……かな」


 綾愛の問いに対し、伸は少し悩みつつ返答した。

 

「……何で?」


「杉山は仕事で魔物と戦う機会が多い。成長という意味では安定して伸びていると思う。了の場合、元々近接戦の実力は高いし、伸びしろがある分勢いがすごい」


 綾愛は、奈津希と了の実力はほぼ互角。

 友人という関係を差し引いても、奈津子の方が僅かに上だと思っている。

 そのため、伸の予想が意外だったため、その理由を尋ねた。

 魔物を倒すと、僅かに戦闘力が成長すると言われている。

 綾愛との関係上、奈津希は月に何度か魔物退治をおこなっているため、その分成長しているはずだ。

 だが、成長力では了の方が上だ。

 去年の夏休みの時、伸が気絶している了を操作することになった。

 苦手な遠距離攻撃も、その時か成長し続けている。

 去年の全国大会では試合に使えるほどではなかったが、今年はさらに成長している。

 もう、近接戦に気を付ければ倒せる相手ではなくなりつつある。

 奈津希は、どちらかと言うと距離を取っての魔法攻撃が得意なタイプ。

 接近戦になれば了、遠距離戦になれば奈津希に分があるだろう。


「直接対決までどちらが成長しているかって考えると……」


「勢いのある金井君ってわけね?」


「あぁ……」


 距離を取る相手と戦うのは慣れているため、どこまで奈津希が了から逃げきれるかがカギになる。

 了の場合、魔物の退治による成長と同じ位、人との試合でも成長する。

 夏休み中、親父さんにしごかれたと言っていたし、相当伸びているはず。

 奈津希の方が少々不利なのではないかというのが、伸の考えだ。


「柊のように俺が魔力操作すれば、すぐに杉山が上に行けるかもな」


「それは……駄目!」


「あっそ……」


 相手に魔力を流して操作する魔術。

 従魔でピグミーモンキーのピモを使って練習しているが、もっと色々な人間を相手に試してみたい。

 そのため、奈津希に魔力操作を試してみることを提案してみたが、綾愛が止めた。

 綾愛は、自分が魔力操作されてから、どういう訳か女性相手だと止めてくる。

 奈津希のためにならと了承するかと思って尋ねてみたのだが、今回も駄目なようだ。

 仕方がないので、またピモを相手に練習するしかないようだ。


「そう言えば、ピモちゃんは?」


「よっと!」


 せっかくの料亭料理。

 ピモにも食べさせてあげたい。

 元々呼び出すつもりでいたので、綾愛に言われた伸は寮にいるピモを転移魔法で呼び出した。


「キュッ!」


「ワ~♪」


 手のひらサイズで、クリクリ眼の子ザル。

 それを見て、庇護欲が湧かない女子はいないのではないかと思えてくる。

 案の定、ピモを見た綾愛は、嬉しそうな声を上げた。


「ピモ。美味しい料理をあげるから、ちょっと相手してやってくれるか?」


「キュッ!」


 テンションの高い綾愛に、若干引いている感じのピモ。

 代金を支払ってもらうので、少しはサービスしてあげないといけない。

 そう思った伸は、ピモに綾愛の相手をしてもらうことを頼む。

 主人の伸に頼まれては断る訳にはいかない。

 しかも、美味しい料理をもらえるというのだから、ピモは喜んで綾愛に撫でられまくることを受け入れた。



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