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第132話

「オッス!」


「おぉ、久しぶり」


 夏休みが明け、最初の登校日。

 伸は久しぶりに了に再会し、挨拶を交わす。


あれ(・・)から休みは何してた?」


「別に、小遣い稼ぎに仕事を手伝ってたよ」


 了の言うあれ(・・)とは、夏休みにあった鷹藤家主催の合宿のことだ。

 またも魔人が出現し、それを合宿に集まった名家の若手たちによって討伐された。

 この事件を報道各社は当然見逃す訳もなく、翌日には全国で報道された。

 その合宿に参加していたこともあり、学校で伸とよくつるんでいる了や、石塚・吉井の2人からも連絡があったため、綾愛や他の合宿参加者が魔人を倒し、自分は救援を求めに動いただけだと説明してある。

 了は夏休みの中旬におきたその事件が済んだ後のことを知りたいようだが、伸が言ったように柊家の仕事を手伝っていたくらいだ。


「了は?」 


「俺は言っていたように毎年恒例の剣道部の合宿と、実家の剣術道場の手伝いがほとんどかな……」


「……そうか」


 了たちとは連絡は取り合っていたけれど、夏休み中に何か面白いことがなかったか気になり問いかける。

 少しヤンチャな性格とは言え、了は背が高くて顔も悪くない。

 去年の対抗戦で好成績を出したこともあり、密かに女性に人気もあるという話だ。

 それなのに何にもないという了の返答に、つまらなそうに呟く。


「石と吉も射撃訓練ばっかだったって話だったな」


「ふ~ん……」


 石塚と吉井は遠距離攻撃が得意だ。

 彼らは今年もその長所を伸ばすための訓練に時間を費やしたらしい。

 こちらも色気のない話だ。

 仕事で一応付き合っている体の綾愛と一緒にいた自分の方がまだマシだったのではないかと伸は思えた。


「了はどんな訓練をしてたんだ?」


「剣で魔力を飛ばす訓練を父ちゃんにしごかれた」


「なるほど」


 入学当初は全くダメだったが、伸の操作魔術によって了は去年の夏から魔術を飛ばせるようになった。

 しかし、戦闘で使うにはまだまだ未熟。

 それを強化するために、親父さんからしごかれたようだ。

 石塚や吉井の様に長所を伸ばすのもいいが、了の場合一番伸びやすいのが弱点の魔術による中・遠距離用の攻撃だ。

 親父さんがそこを重点的にしごいたのも、それを理解してのことだろう。


「後期となると対抗戦の校内戦があるからな。親父さんも力入ってたんだろ」


「……かもな。今年の初めは父ちゃん周りに自慢しまくってたからな」


 全国の魔術学園の対抗戦は、魔闘師にとって注目される大会だ。

 出場するだけでも充分評価されるのに、去年、1年生でありながら好成績を出したのだから、了の親父さんが自慢したくなるのも分かる気がする。

 思春期の息子の身としては、気恥ずかしいことこの上ないことだが……。


「了は選ばれるだろうから、今年も校内戦がんばれよ」


「あぁ」


 去年の成績を考えるなら、了は今年も校内選抜戦に選出されることだろう。

 了もそのことが分かっているので、気合が入っているようだ。

 近接戦の技術は元々高かったし、離れた位置からの攻撃もある程度できるようになれば、去年の成績を越えることもできるかもしれない。

 友達として、伸も了が今年も好成績出すことを期待している。


「伸は選ばれないのかな? 前期末のテスト良かったし」


「俺は無理だろ。選出は実技優先だから」


 了としては、伸でも充分全国大会で通用するのではないかと考えているため、校内戦に選ばれてもおかしくないと思っている。

 前期末のテストの成績も50位以内に入ったし、その可能性はさらに高くなったはずだ。

 しかし、伸は了の考えを否定する。

 たしかに前期末のテストは予想に反して上位に入ったが、校内戦の選出は実技が優先。

 伸の実技の成績は、意図して平均的な成績を取るようにしているため、校内戦に選出されるようなことはないはずだ。


「あの鷹藤にも勝ったし、伸の戦闘時の頭の良さは、もっと評価されても良いと思うんだけどな……」


「鷹藤のは完全に不意打ちだからな。次やったら無理だろ」


 この学園で鷹藤といれば道康。

 綾愛を賭けての勝負を吹っ掛けられて、伸はそれに勝利した。

 1年と2年という差があったとしても、鷹藤家の道康を全く無名の伸が倒したのだから、その戦いも評価対象のはず。

 しかし、伸としては対抗戦では使用禁止の従魔を使った不意打ち勝利。

 対抗戦では使えないのだから、評価から外すと予想している。


「じゃあ、今回もセコンドについてくれるか?」


「……すまん。先約がある」


 校内戦や対抗戦では、セコンドを1人付けるようになっている。

 去年、伸は了のセコンドについて全国大会にも同行した。

 それもあって、了は今年も伸に頼もうとしたが、伸は申し訳なさそうに断った。


「先約? 柊か……?」


「あぁ……」


 先約と言われ、了は一瞬首を傾げる。

 伸がセコンドに付くような相手が、他にいるのか疑問に思ったからだ。

 しかし、すぐにその人物に思い至った。

 道康との決闘で、伸と柊家の綾愛は校内公認の関係になっている。

 その関係からすれば、綾愛が伸に頼んだのだろうと。


「まあ、仕方ないか……」


「……すまん」


「気にすんなって。石か吉に頼んでみるから」


 先に恋人に頼まれて断る訳にもいかない。

 伸の立場を考えれば当然のことなので、了は伸が謝るのを止めた。


「……あの2人だと、どっちがセコンドに付くかもめそうだな」


「そう言われると……」


 入学して最初に揉めたが、その後からはよくつるんでいる石塚と吉井。

 そのどちらかにセコンドを頼むと聞き、伸はなんとなく嫌な予感がした。

 了の実力なら、今年も校内戦を突破して全国大会にも出場できる可能性が高い。

 そうなると、セコンドも一緒に皇都の官林にも同行することになる。

 あの2人なら、それ目当てでセコンドの座を争うのではないかと予想できた。

 伸の発言を受けて、了も同じ映像が浮かんだらしく、若干渋い顔になった。


「揉めたらジャンケンででも決めてもらうさ」


「俺も一緒に行くよ」


「あぁ、頼む」


 石塚と吉井の2人が揉めて、関係に問題が起きるのは遠慮したい。 

 そうならないために、伸はセコンドを断ったお詫びに了に付いて行くことにした。

 伸がいればそこまで大揉めする事もないだろうと、了もそれを受け入れ、石塚と吉井のもとへと向かった。


『まぁ、柊のセコンドに就くことになったのはあいつのお袋さんの圧力に負けただけだけなんだけどな……』


 夏休み中、小遣い稼ぎに柊家の仕事を手伝っていた伸。

 その時に対抗戦の話になり、セコンドを頼まれた。

 頼んできたのは綾愛ではなく、綾愛の母である静奈の方だ。

 夏休み中の合宿の事件によって、鷹藤家からの求婚は完全に絶つことができたが、他の家からのはまだ届いている。

 ならば、八郷学園内だけでなく、伸と綾愛の関係を全国にも広めるために、セコンドについてくれと言われた。

 あくまでも建前のような関係のはずなので、伸としては断りたいところだったのだが、静奈に言われると何だか断ることができなかった。

 セコンドについてもらう本人が断ることを期待したのだが、特に文句を言うこともなく、綾愛のセコンドに就くことを受け入れるしかなかった。


『……何だか外堀埋められてないか?』


 初めて会った時から、静奈は伸を綾愛に近付けるような行動をとっている気がする。

 柊家の仕事の手伝いも、必ず伸の同行者に綾愛にしているのも静奈だと聞いたことがある。

 綾愛を賭けて道康と戦って勝利した時は、その情報を積極的に広めていた節がある。

 今回のことと言い、ふと、何だか逃げられなくなってるような気がした伸だった。



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