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第131話

「……お前らは何をやっているんだ?」


 伸たちが帰った後の鷹藤家の一室。

 文康と道康の兄弟は、畳の上で正座をさせられていた。

 2人の前に、入室してきた鷹藤家当主で祖父の康義と、父の康則が胡坐をかいて座る。

 康義も康則も眉間に皺を寄せている所を見ると、内心では怒りに満ちているようだ。

 爆発しそうな怒りを何とか抑え、康則が開口一番問いかけた。


「「……申し訳ありません」」


 祖父と父の醸し出す雰囲気に呑まれたのか、兄弟は少し俯きがちに謝った。

 謝ってはいるが、本気で申し訳なさそうな弟の道康とは違い、兄の文康の方は渋々といった感じだ。


「今回のことで、柊綾愛をお前たちのどちらかの嫁にという話は完全になくなった。死んだ方がマシとまで言われたぞ」


「チッ! あの女……」


 魔物を集めて綾愛を危険に晒して助けることで恩を着せ、文康と道康は鷹藤家の評価を上げると共に、自分たちのどちらかと綾愛を婚約させることを目論んでいた。

 しかし、その目論見も魔族によって露見し、作戦は完全に失敗した。

 証拠がないと無理やり抑え込んだが、今後柊家と森川家は完全に鷹藤家と距離を取るだろう。

 康則の言葉を聞いて、文康は舌打ちをする。

 拒否するだけならまだしも、完全なる拒絶の発言をするなんて、調子に乗り過ぎだ。

 文康からすると、鷹藤家から求められているのだから、柊家程度の娘が拒否なんてするなと言いたいところだ。


「柊家なんて力でねじ伏せればいい」


「お前は……」


 思っているだけでなく、道康は思わず小さく呟いた。

 その呟きは康則の耳にも届き、自分の息子でありながら頭を抱えたくなった。

 文康に、同年代の中では突出した才能と実力があることはたしかだが、そのせいで周りからチヤホヤされ、いつの間にか傲慢な性格になってしまったようだ。


「道康も何であんなことを……」


 文康という存在がいたために、道康はそれほどチヤホヤされてはいないため、文康のような天狗になることはない。

 天才の父をもった自分と、天才の兄を持った道康。

 その似たような境遇から、康則は今回の文康の悪事に道康が加担したことが信じられなかった。


「僕は兄さんの指示に従っただけです」


「道康! お前……」


「本当のことだろ!」


 祖父と父の視線に、道康は返答する。

 自分が今回のことに参加したのは、あくまでも兄の文康にやらされたことだと。

 天才の兄の言うことを訂正するのは、弟の自分には難しい。

 父もその関係性が分かっていると見越してのものだが、その発言に文康が怒りを露わにする。

 作戦に綾愛の名前を出したところ、道康も乗ってきたのを文康は見逃していない。

 それなのに、全ての責任をまるで自分に擦り付けるようなものだったからだ。

 睨み合った2人は、とうとう罪のなすり合いのような言い争いを始めた。


「やめんか!!」


「「っ!!」」


 言い争う一室に、これまで黙っていた康義の一喝が響き渡る。

 それにより、兄弟は身を縮め、姿勢を正して座り直した。


「……どうやらお前たちは鷹藤家の本家という自覚がないようだな」


「そんな事……」


「お前は人の話を黙って最後まで聞けんのか!?」


「っ!! す、すいません!」


 鷹藤家は魔闘師の中でもトップに君臨してきた名家だ。

 それゆえに、常に他の魔闘師の見本になるような態度やおこないをしなければならない。

 だというのに、孫2人はとてもそんな意識を持っている様には感じられない。

 康義がそのことを嘆いていると、文康が口をとがらせてすぐに良い訳をしようとする。

 子供ゆえの未熟な精神からだろうが、何かを言われれば反発するその態度も見苦しい。

 自分で犯したことも何の反省もしていない文康に、康義は強めの口調で叱かりつけた。

 ここまで祖父に叱られるようなことがなかったため、文康は顔を真っ青にして頭を下げた。


「反省の意味を込め、夏休み中お前たち2人共ワシか康則の許可なく外出することは禁止する」


「えっ!?」「そんな!!」


 2人共高校生。

 友人と夏休みに出かける予定があった。

 しかし、そんな事など関係なく、康義は今回の罰を言い渡した。

 当然2人は反論しようとするが、康義に睨まれてはそんな事できる訳もない。


「「……わかりました」」 


 これ以上祖父の怒りに触れることはできない。

 そのため、兄弟はその指示に従わざるを得なかった。


「分かっていると思うが、この程度の指示も守れないようなら、どんなに実力があっても鷹藤家から追放するからな」


「「えっ……?」」


 今回は、証拠不十分でねじ伏せることができた。

 孫の厄介事を揉み消すなんて、康義と康則だってしたくない。

 しかし、そうしなければこれまで積み上げて来た鷹藤家の名声も全て地に落ちる。

 自分の代でそんなことになる訳にはいかないため、揉み消さざるを得ない。

 文康に至っては2度目の厄介事だ。

 今回のことで柊家には完全に頭が上がらなくなる。

 もう次を与える訳にはいかないため、康義は厳しめの指示を出したのだ。


「……返事は?」


「「……分かりました」」


 康義の言葉を聞いた2人は俯いているばかりいる。

 何も言わないため、康義は返事を促し、その圧を受けた2人は頷くしかなかった。


「以上だ」


「「……失礼します」」


 2人の返事を受けた康義は、話は終わりとばかりに打ち切る。

 それにより、康義と道康は頭を下げてから退室していった。


「くそっ! こうなったのも柊家のせいだ」


 自分の部屋に帰った文康は荒れていた。

 そして、自分がおかしなことを考えたせいでこうなったにもかかわらず、柊家に八つ当たりの言葉を吐いていた。


「みてろよ! 年末の戦いで当たったら、あの女ぶちのめしてやる!」


 この感情を抑えるには、どうすれば良いか。

 そう考えた文康は、密かに年末の対抗戦で晴らすことにした。






◆◆◆◆◆


「全滅か……」


 今回の魔人たちの襲撃。

 当然それを企んだ者がいる。

 その者は、今回の作戦の失敗を受けて眉をしかめていた。


「いくら魔人になりたての雑魚といっても、あんな餓鬼どもくらい始末できると思っていたのだが……」


「ナタニエル様……」


 計画を実行したのはナタニエル。

 大和皇国に大きな被害を負わせることを指示されている。

 魔人たちを使用して、今回鷹藤家が開催する合宿に集まる大和皇国の有能な若手たちを始末するつもりでいた。

 しかし、今回作戦は失敗した。

 そのことに、ナタニエルは拳を握りしめた。


「……このままでは、俺はあの方に始末される。今年中に何とかしなければ……」


 魔人に寿命なんてものは存在しない。

 強いて言うなら怪我や病気などでないと死なない。

 そのため、時間の概念が人間とは違う。

 ナタニエルたちの上に立つ、バルタサールなんかは特にそうだ。

 そんな彼でも、いつまでも何の成果を出さない者に用などない。

 バルタサールが許容してくれるのも、今年中がリミットになるだろう。


「……そう言えば、ちょうどいいチャンスがあったな……」


 鷹藤家の康義暗殺が最低条件。

 その機会をうかがうナタニエルは、それを成せるかもしれないあることを思いだしたのだった。



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