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第127話

「……へえ~、木の魔人でも血は赤いのね?」


 不意を突き、仕留めるつもりで斬りつけたのだが浅かったようだが、斬りつけた木の魔人の腹部からは、血のような液体が流れている。

 木の魔人ということだから、内臓までも木でできている可能性を感じていたのだが、表面部分だけのようだ。

 思わぬ発見に、綾愛は意外そうに呟いた。


「このっ!!」


「っ!」


 見下すような綾愛の発言に腹を立てた木の魔人は、魔力を集めた手を地面に突く。

 それにより、綾愛が立つ地面の周辺に変化が起きる。

 地面が隆起し、棘のような物が綾愛に向かって襲い掛かった。


「……土魔術。まぁ、木の魔人なら当然ね……」


 木の魔人なら、土や水に関する魔術が使えてもおかしくない。

 反応速くバックステップして躱した綾愛は、木の魔人がおこなったことを確認するように呟いた。


「おのれ!! 人間の小娘風情が俺に傷を!!」


「回復魔術? 治癒力強化かしら……」


 綾愛に距離を取らせた木の魔人は、傷口に魔力を集める。

 それにより、綾愛に斬られた腹の傷が少しずつ回復していった。

 それを見た綾愛は、回復の魔術を使用したのかと思った。

 しかし、魔術を使った様子はないため、綾愛は木の魔人が自分の治癒力を上げたのだと判断した。


「殺す!! 殺してやる!!」


 魔人である自分が、人間の、しかも成人していない娘に傷をつけられた。

 そのことが許せない木の魔人は、目を血走らせて綾愛のことを睨みつけて叫んだ。


「ハァー!!」


 怒りの表情と共に、木の魔人は全身に纏う魔力量を増やす。

 更に全身の身体強化を図ったようだ。


「死ねーー!!」


「フッ!」


 力いっぱい地を蹴り、木の魔人は綾愛へと接近した木の魔人は、綾愛へ向けて剣の形に変えた右腕を思いっきり振り下ろす。

 その攻撃を、綾愛は息を吐いて横へと躱した。


「くっ! このっ! このっ!」


「フッ! ハッ!」


 攻撃を躱された木の魔人は、綾愛を追うように両手を振りまわす。

 しかし、その攻撃も綾愛には当たらない。

 ダッキングとスウェーをして、木の魔人の攻撃をギリギリのところで躱す。


「おのれー!! ちょこまかと!」


 全力の攻撃が完全に見切られている。

 綾愛に攻撃を躱され続け、木の魔人は更に頭に血が上っていった。

 そのため、攻撃が単調になっていることに気付かないまま両手を振り回し続けた。


「くらえーーっ!!」


 躱し続ける綾愛は、木の魔人の攻撃が単調になっていることには当然気付いている。

 その攻撃に合わせ、冷静にカウンターチャンスを窺っていた。

 攻撃が当たらないことで焦りを覚えた木の魔人は、強力な一撃を加えようと、右腕の剣を思いっきり振り下ろす。

 しかし、綾愛はその大振りの攻撃を待っていた。


「ハッ!!」


「ギャッ!!」


 木の魔人の攻撃を躱しつつ、綾愛は刀を合わせる。

 狙い通りにカウンターを当てた綾愛は、木の魔人の右腕を斬り飛ばすことに成功した。


「グウッ……」


 右腕を斬られ大量の血が噴き出る。

 その苦痛に、木の魔人は表情を歪める。


「綾愛ちゃん……すごい」


 相手は魔物ではなく人類の敵とも言うべき魔人だというのに、完全に綾愛のペースで戦闘が進んで行っている。

 そんな綾愛の戦いを見て、距離を取って見ていた奈津希は感嘆する。

 もしもの時にはと考えて援護をする予定だったが、その必要もないかもしれない。


「ガアァーー!!」


「っ!!」


 片腕を斬り飛ばしたことで勝機を見た綾愛は、追撃をするように木の魔人へと迫る。

 しかし、木の魔人が魔力が高まったため、接近を中断して距離を取る。


「ハァッ!!」


「なっ!! 手が……」


 何をするのかと思っていたら、木の魔人は高めた大量の魔力が右腕の切断面へと集めた。

 すると、先程綾愛が斬り飛ばしたはずの右腕が生えて。

 欠損した肉体を魔術で再生する場合、大量の医療魔術師が必要になる。

 しかし、木の魔人は自分の力だけで再生させたため、綾愛は驚きの声を上げた。


「木の特性からかしら……」


 回復系の魔術が得意というだけでは、いくら魔人だからといってこれほど短時間で欠損部位を回復させることはできないはず。

 何か他にも理由があるはずと考えた綾愛は、その特性によるのなのだろうと結論づけた。


「ハァ、ハァ……」


「腕を治したのはすごいけれど、血を止めるだけで済ませるべきだったわね」


 魔術と再生能力により、あっという間に腕を治したのは素直に称賛に値する。

 しかし、その代償として、木の魔人の魔力が大幅に下がった。

 まだ戦闘中だというのに、それでは治した意味がない。

 一気に魔力が減ったことによる疲労により、木の魔人は息を切らす。

 そんな木の魔人に対し、綾愛は忠告するように話しかけた。


「殺す!!」


 綾愛の警告など耳に入らず、木の魔人は再生した右腕をまたも剣の形へと変える。

 そして、身体強化の魔力が減って落ちた速度で、またも綾愛へと襲い掛かった。


「綾愛ちゃん!!」


「っ!! くっ!!」


 奈津希は掛け声と共に、木の魔人に向かって火の矢を発射する。

 横から飛んできた攻撃に慌てた木の魔人は、接近の脚を止めて両手の剣で攻撃を防ごうとする。


「こんな魔術なんて……」


 飛んできた火の矢を、木の魔人は難なく弾いた。

 隙をついて攻撃をして来たようだが、たいした威力の魔術ではない。

 所詮は人間の小娘の攻撃と、木の魔人は僅かに落ち着きを取り戻した。


「終わりよ!!」


「っっっ!!」


 落ち着きを取り戻したのはいいが、その時にはもう遅い。

 木の魔人が奈津希の魔術攻撃を防いでいる間に、今度は綾愛が距離を詰めていた。

 つまり、先程の奈津希の攻撃はこの機会を作るためのもので、綾愛もその意図を理解した。

 そして接近した綾愛を見て、木の魔人は目を見開く。

 火の矢を防ぐために両手を使用したため、自分は完全に無防備だ。

 これでは攻撃を防げないと、木の魔人は迫り来る綾愛の刀をただ見ていることしかできなかった。


「ガッ!!」


 まるで走馬灯のようにゆっくりと迫る綾愛の刀。

 それが最期に、木の魔人の意識は消えた。

 綾愛が刀を振り抜き、木の魔人の首を斬り飛ばしたのだ。


「……やっぱり新田君はすごいわね」


 奈津希の援護を受けたとはいえ、魔人を1人で倒した綾愛は小さく呟く。

 これまで出現したの魔人の中では弱くても、魔人は魔人。

 少し前の自分なら、決してこのように勝てはしなかっただろう。

 勝利できた理由。

 それは、伸に人体操作をしてもらたことにより、魔力の操作技術が上達したからだ。

 刀を鞘に納めた綾愛は、密かに伸に感謝したのだった。



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