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第117話

「お久しぶりです」


「あぁ、呼び出して悪かった」


「いいえ」


 鷹藤家の次男、道康との決闘をして数日後の週末。

 伸は柊家に来ていた。

 柊家の当主である俊夫が言うように、呼び出されたことによる訪問だ。

 しかし、伸は何の件で呼び出されたのかよく分からないでいた。


「鷹藤の次男坊に勝利したって聞いたが?」


「えぇ……」


 道康との決闘の話になり、伸は今日呼ばれたのはそのことなのかと訝しんだ。

 その程度のことなら、彼の娘である綾愛から聞けばいいだけのはずだ。


「実力がバレるのは嫌だったんじゃなかったか?」


 伸の祖父は、元々は鷹藤家の人間。

 有名な魔闘師の家系でありながら、魔力がないために冷遇されていた。

 その鷹藤家から飛び出したことで、ようやく自由を手に入れた。

 両親を亡くし、代わりに育ててくれた祖父のことを尊敬している伸としては、鷹藤家と関わり合いになるのは控えたい。

 そのために実力を隠しているという話だったのに、その鷹藤家の道康と戦った上に勝ってしまっては、鷹藤家に目を付けられること間違いない。

 話が違うのではないかという意味も込めて、俊夫は伸へ問いかけた。


「大丈夫です。学園内ではこいつ(・・・)のお陰ってことになってますから」


「キッ!」


 俊夫の質問に答えると、伸の服の中からミモが顔を出す。

 今日は魔物を倒しに行く訳ではないと言ったのだが、しがみついて離れないので連れてくることにしたのだ。

 考えてみれば俊夫に会わせたことが無かったので、この機に紹介しておくことにした。


「それが噂のピグミーモンキーか……」


 ミモを見て小さく呟く俊夫。

 綾愛から聞いていたらしく、ミモのことを知っていたようだ。


「小柄で隠蔽能力に長けているそうだが、暗殺向けに鍛えているのか?」


「そんなわけないですよ。こいつの向いている戦闘方法が暗殺ぽかっただっただけですよ」


 最初ミモを捕まえた時は、操作魔法の実験体として利用するだけのつもりだったのだが、操作魔法をおこなったら魔力の操作ができるようになった。

 そうなったら強くして見たくなり、特徴を生かした戦闘スタイルが暗殺者みたいになってしまっただけなのだ。


「綾愛から聞いているが、身体強化も使えるそうだな?」


「えぇ。操作魔法の練習にこいつを使っていたら、魔力の使い方を覚えてしまったようで」


 綾愛はミモのことを気に入っていたため、俊夫に話したのだろう。

 知られているのなら別に構わないだろうと、伸はミモのことを説明した。


「今回はそのことで呼んだんだ。ちょっと訓練場に来てもらえるか?」


「……分かりました」


 何の件なのかと思ったら、どうやら今回は操作魔法のことで呼ばれたようだ。

 かと言って、操作魔法のことで伸の知っていることは説明してある。

 何を言われるのか分からないが、伸は言われるがまま付いて行くことにした。






『やっぱりでかいな……』


 敷地内にある訓練場に着いてまず思ったのは、その大きさだ。

 学園と同程度の広さをした訓練場が自宅にあるというのだから、田舎呼ばわりされることが多いとは八郷地区とは言っても、柊家もやっぱり名家だ。


「見ていてくれ」


「はい……」


 訓練場の大きさに感心している伸を置いて、俊夫は少し離れた所に立つ。

 何かをするつもりなようなので、伸は指示通りに見ていることにした。


「ヌンッ!!」


 何をするのかと思ったら、俊夫は身体強化を始めた。


「どうだ?」


「…………すいません。何がでしょう?」


 「どうだ?」と言われても、身体強化をしただけで何が聞きたいのかよく分からない。

 少し考えてみても思いつかなかった伸は、素直に質問の意味を問いかけた。


「……そうか。君からするとたいした差ではないのか……」


 自分の言いたいことが伝わっていないため、質問された俊夫は少し複雑そうな表情で呟く。


「いや、強いてあげるとすれば、魔力制御が前より良くなっているかと……」


「……それだよ」


「えっ?」


 俊夫の呟きから察するに、何か以前と違うようだ。

 以前との差となると、伸は少し気になっていたことを答えた。

 どうやら、俊夫が言いたかったのはそれだったようだ。 


「ティベリオとかいう魔人との戦いの時、君に操作されただろ?」


「はい」


 対抗戦の時に突然現れたチーター型の魔人ティベリオ。

 その相手を、伸は俊夫を操作して戦って勝利を収めた。

 その時に何かあったのか、伸は説明の続きを待った。


「操作された時の感覚をイメージしたら、魔力操作の技術が一気に成長した。これまでの何倍もの速度の成長だ」


 伸からすると、以前より良くなっているとは思うが、急成長というほどではない。

 しかし、俊夫からすると違うようだ。

 魔力操作は、毎日地道に訓練することで少しずつ成長していくものだ。

 それが、伸の操作を体験したことで、急成長することができたようだ。


「つまり、君の魔力操作を受ければ、誰もが成長できるということになる」


「……そうかもしれないですね」


 俊夫だけでなく、了やミモもそうだった。

 それから考えると、俊夫の言うように他の人間でも同じように成長する可能性は高い。


「このことが知られれば、君に魔力操作をしてほしいという人間が殺到するかもしれない。操作魔法のことは黙っていた方が良い」


「そうですね。分かりました」


 手っ取り早く成長することができるなんて、どの魔闘師も手を出したくなるはず。

 魔人や魔物との戦闘を考えると、1人でも多く強い人間がいてくれた方が良いのだが、俊夫からすると、柊家以外の者まで強くなられるのは迷惑だ。

 そのため、俊夫は軽々にこの情報を広めないことを求めた。

 別に少し操作するくらい構わないが、それが大人数となると面倒でしかないため、伸はその提案を受け入れた。


「と言っておいてなんだが……、綾愛の魔力操作をしてくれないか? バイト代は出す」


 知られてはいけないが、知っている以上求めてしまう。

 止めた本人が頼むのは何だが、やはり娘の綾愛だけは頼みたい。


「良いですよ」


 親バカで知られている俊夫なら、そう言うことを言って来ても不思議ではないと予想できた。

 断ることもできるが、伸としてはバイト代というセリフに反応する。

 柊家の人間を全員と言われたらさすがに断るかもしれないが、綾愛だけならと、伸は俊夫の頼みを受け入れたのだった。



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