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第11話

「ん? どこ行くんだ? 伸……」


「ちょっとトイレ……」


 地下から学園付近に迫り来る魔物。

 教師陣はみんな外の魔物の相手に向かってしまって、学園内で抵抗するとなると、2、3年生が動くことになるだろう。

 しかし、魔物の数と強さを考えると、とてもではないが高校生には重荷だ。

 何とか穏便に魔物を始末したいところだが、伸も食堂内から動けなくなってしまった。

 色々考えた伸だが、ここから出る言い訳なんてこれしかないと、問いかけてきた了に返答する。


「「「……じゃあ、俺も!」」」


「……何のつもりだ?」


 立ち上がった伸に合わせるように、了、石塚、吉井の3人も声を揃えて立ち上がった。

 顔に出さずに嘘をついたつもりだが、もしかして何か気付いたのだろうか。

 どういうつもりか分からないが、行っては何だが彼らがついてきては足手まといだ。

 伸はとりあえず、3人の真意を尋ねた。


「大丈夫! 分かっているって!」


「……何が?」


 伸に問いかけられた了は、小さくサムズアップする。

 はっきり言って、伸には何を言っているのか分からない。

 首を傾げる伸の耳に、了は自分の口を近付けてきた。


「魔物を見に行くんだろ?」


「っ!!」


 周囲に聞こえないように話した内容で、3人の言いたい意味が分かった。

 3人は、伸がトイレと称して魔物を見に行こうとしていると思っているようだ。

 当たらずとも遠からずといった考えだ。

 そして、彼らも一緒に魔物を見に行こうと考えているのだろう。


「違う。本当にトイレに行こうと思っただけだ」


「「「分かっているって!」」」


 付いてこられたら、彼らに自分の実力を知られてしまう。

 彼らなら口止めすれば大丈夫かもしれないが、バレる可能性は最大限控えるべき。

 例え友人でも100%の保証はないため、連れて行く訳にはいかない。


「…………静かにしてろよ?」


「「「あぁ!」」」


 魔物はもう学園内に入っている。

 彼らを説き伏せる時間はない。

 ならば、一緒にここから出てるしかない。

 今なら食堂内の生徒たちは混乱していて気付かれない。

 そう考えた伸は、了たちと共に食堂から抜け出そうと動き出した。


『この3人なら、気絶させれば済む話だ』


 さっさと外に出て、魔物を倒したい。

 自分の実力を隠すなら、彼らを気絶させれば済む話だ。

 彼ら3人なら簡単に眠らせられる。

 伸の内心では、そんなことを考えられていた。


「ちょっと、あなたたち!」


『チッ!!』

 

 食堂内の混乱を利用して出ていこうと考えたのだが、この中で冷静な人間がいた。

 その人間によって、伸たちは呼び止められてしまった。

 魔物のことを考えれば、一刻も早くここから出たいというのに、またも無駄な時間を使わされた伸は、内心でおもいっきり舌打をうった。


「柊……さん?」


 伸たちを止めてきたのは柊綾愛だ。

 名門柊家の令嬢なら、こういった荒事には慣れている。

 彼女は覚えていないだろうが、昔伸と会った時も荒事の中だった。

 席が少し離れていたから気付かれないと思っていたのだが、こんな時にはその冷静さは邪魔でしかない。

 呼び止められた伸たちは、外に出ようとする足を止めるしかなかった。


「放送聞いていたでしょ! この場で待機が学校の決定よ!」


 全くもってその通りだ。

 伸もこんな時でなければ納得していたことだろう。


「分かってる。でも、ちょっとトイレに行くだけだから……」


 ここで足を止めている間にも、魔物は学園の地下に侵入してきている。

 なので、すぐにでもここから出ていきたい。

 苦しいとは思いつつも、伸は平然とした表情で柊に嘘をついた。


「あなたたち4人そろってトイレなんて嘘ね。そう称して魔物の所に行こうとしているわね?」


「うっ!」「くっ!」「なっ!」


『そんな反応したらバレるだろ!?』


 男4人が、こんな時に揃ってトイレなんてあり得ない。

 あり得たとしても、言い訳のしようはある。

 しかし、嘘を見破られても冷静な伸とは違い、了たち3人は顏どころか声まで出して反応してしまう。

 その反応をしたら、嘘だとバレてしまったことを認めるようなものだ。


『やっぱりこの3人と一緒に外へ行こうとしたのは完全に失敗だった』


 3人だけならどうにでもなると思っていたため連れていくことにしたのだが、こうなってはそれが仇になった。

 この状況で出ていくのは、かなり無理な状況になってしまった。


『こうなったら……』


 仕方がないので、伸は策を変えることにした。


「この3人はともかく、俺は本当にトイレに行きたいのだけど?」


「少しくらい我慢しなさい!」


 3人の嘘は柊にバレただろうが、自分に限ってはバレていないはず。

 そう考えた伸は、3人には諦めてもらって自分だけ出ようと考えた。

 伸の発言に、3人は裏切って自分だけ行くつもりかといったような目をしているが、そんな目に気後れしている訳にはいかない。

 しかし、どうやら彼女には4人1組と考えられているらしい。

 渡辺たちとのこともあり、いつの間にか1年の中では伸まで問題児扱いになってしまった。

 巻き込まれただけだというのに酷いことだ。

 聞く耳持たないと言うかのように、伸の言葉は彼女に一蹴されてしまった。


『この子……面倒だな』


 この状況で彼女のしていることこそが正解だ。

 しかし、伸からするとそれが迷惑でしかない。

 

『……学食内の人間に寝てもらうか? いや、数が多すぎる』


 1学年、1クラス30名、AからFまでの生徒の多くがここに集まっている。

 180人とまではいかないが、それに近い数を眠らせて外へ行こうかと伸は考えを変えようとした。

 しかし、いくらとんでもなく実力差が離れていようとも、誰にも気付かれずに眠らせることは極めて難しい。


「仕方ない……」


 実力もそうだし、誰にも気付かれずに外に行くということは不可能になった。

 これ以上ごねるようなことを彼女へ言うと、実力で止めてくるかもしれない。

 そうなったら、面倒事が増えるだけだ。

 伸は、彼女の言うことに従うように、食堂内の生徒が集まる場所へと向かうしかなかった。


『本当に仕方がない……』


 校舎やこの食堂に被害がないようにしたかったのだが、そうもいかなくなった。


『だから、魔物の方に来てもらおう……』


 ならば、多少の被害は諦めるしかない。

 人に被害が及ばなければ、校舎なんかは建て直せばどうにでもなる。

 伸は、内心で少し荒事へ持ち込むことにした。






『来たな……』


 冷静に椅子に腰かけたまま、伸は密かに動いていた。

 体ではなく魔力をだ。

 地下に薄く魔力を流し、わざとこの食堂におびき寄せるように魔物を誘導した。

 気付かれないように少しの魔力しか使えない。

 柊にも気づかれていないようにしたため、この距離で倒すことができないのが残念だ。

 しかし、誘導は上手くいったらしく、魔物の気配がここへとたどり着いた。


“ドンッ!!”


「「「「「キャー!!」」」」」


 伸の誘導した魔物が、食堂の地下から出現してきた。

 魔物の姿を見て、恐怖に駆られた女子生徒たちは大きな声で悲鳴を上げた。


「……ギュ」


「ギュ……」


 1年生が1階なのは伸にとって好都合だった。

 地下から出てきたのは、巨大なモグラのような魔物のようだ。

 その魔物が2体床に空けた穴から這い出てきた。


「……なっ!」


「魔物……?」


 少し前までは魔物の姿を見たいと思っていた石塚と吉井だったが、巨大モグラの姿に戸惑っている様子だ。

 伸の思った通り、体が思うように動かなくなっているのかもしれない。


「くっ! 何で魔物がこんな所に!!」


 3人の内、了だけは何とか動けるようだ。

 しかし、武器もないことも関係してか、いつもと比べて肩に力が入っている。


「みんな下がって!!」


『柊!』


 魔物を見て、すぐに立ち向かおうとした者が現れ、伸はまたも慌てる。

 避難を開始するべき状況で、柊が魔物に対峙したからだ。



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