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第六章 Heart Steal -SIDEクルギ-




『薄汚い《盗賊》風情が!』


 出生年月日が不明なせいで「多分」とつくアタシの二一年の人生で、いったい何度そういった類の言葉を投げつけられたかわからない。


 もっとも、言う側の気持ちはわかる。

 どれだけ言い訳を並べ立てても《盗賊》は《盗賊》だ。他人から何かを盗んで生計を立てる賊は見下されても文句など言えない。


 でも、じゃあ《盗賊》のアタシを見下し嘲笑するアイツらは、アタシにあったもう一つの可能性――アタシが《娼婦》になっていたなら、満足してたんだろうか。アタシを見下すことなく、対等な一人の人間として扱ってくれたんだろうか。


 そんなわけない。

 どうせ『薄汚い《盗賊》風情が!』が『薄汚い《売女》風情が!』に変わるだけだ。

 ……それでいて金を積んで抱きに来たりもするのだろうな、と思うと腹が立つよりもウンザリとする。


 自分がいつどこで誰の胎から産まれたのかを、アタシは知らない。

 気付いたら王都の貧困層居住区の中でも最底辺、スラムの片隅でボロを纏って物乞いをしていた。

 あの頃の記憶は曖昧だ。

 毎日毎日スラムのゴミ溜めをさまよい歩き、ほんの僅かにでも喰えるものが無いかと眼を光らせていた。

 腐りかけた林檎の芯はご馳走だった。

 身がこびり付いた鶏や豚の骨なんて滅多にお目にかかれない。

 主食は概ねカビの生えたアホみたいに硬いパン。

 捕らえたネズミや虫なんかも躊躇なく食べた。


 人間、本当にどうしようもなく餓えて極限状態だと、大抵のことは気にならなくなる。

 美味いか不味いかなんて以ての外。

 毒の有無も死にさえしなければ問題ない。

 兎に角、喰らう必要があった。喰って喰って喰い続けて、それ以外は腹を満たしてから考えればいいだけのこと。


 いつの頃からか、アタシはただ探し拾うのではなく、持っているヤツから掠め奪ることを覚えていた。

 元々手先が器用で、才能はあったんだと思う。

 ゴミ溜め漁りの物乞いからスリへ、華麗なジョブチェンジ。


 しばらくは上手くいっていた。

 ゴミ溜めを漁るよりはスリの方が安定して腹を満たすことも出来た。

 でもそんなある日、どう見ても冴えない風体なザンバラ髪のヒゲ親父から財布をすろうとしてして、アタシは失敗した。

 ヒゲ親父の正体はその筋では名の知られた《盗賊》で。


 しくじってとっ捕まったアタシには、顔がそこそこ良かったことから《娼婦》見習いとして娼館に売られるか、『オメーにゃ才能がある』とスリの腕を褒めてくれたヒゲ親父に弟子入りして《盗賊》になるか、二つの選択肢が与えられた。


 少し考えてからアタシは《盗賊》になる道を選んだ。


 どうして《娼婦》を選ばなかったのかって?

 ……恥ずかしながら、アタシは文字も読めないくせにゴミ溜めに捨てられていた絵本をなんとなく集めてた。

 綺麗なドレスを着た可愛い女の子が、王子様と結ばれて幸せになるような。

 最底辺の生活を送っていながら、……いいや、最底辺だったからこそ、なのかもね。


 幸せになりたい、って。


 スラムの外で、両親らしき人に連れられて笑顔で歩いてる同い年くらいの女の子を見かけるたび。

 恋人らしき男の人と手を繋いで幸せそうに微笑んでいる女性を見かけるたび。

 アタシは憧れてた。

 なれるはずもない“普通”に。


 他人のものを盗んで生きる、《盗賊》がどうしようもない犯罪者だとわかってはいても、《娼婦》になってカラダを売って生きるのよりは、と。

 あの時のアタシがそう考えた理由はただそれだけ。

 ホント、くだらない。

 白馬の王子様がそう簡単に薄汚い盗人の前に現れてくれるはずなんて、なかったのに。




   ■■■




 ヒゲ親父は、所謂義賊に近いスタイルだった。

 貧乏人や力の無い者、金持ちであっても誠実な相手からは盗まず奪わず、標的は後ろ暗い真似をしている悪党連中のみ。

 一度に盗む量も相手が報復を考えないくらいのギリギリの量に抑え、アタシとヒゲ親父は悪党を懲らしめているかのような自己満足に浸りつつそれなりの生活を送っていた。


 そんな生活を五年ばかり続けた頃だったろうか。

 アタシ達はつまらないしくじりをした。

 盗みに入った屋敷に雇われていた傭兵が予想以上に腕の立つ相手で、危うく斬り殺されそうになったアタシを庇ったヒゲ親父が重傷を負ったのだ。


 かろうじて逃げ出した先で、血が止まらない自分の身体を見て『ああ、こりゃあダメだなぁ』なんて呟いたヒゲ親父は、どうしていいのかわからず戸惑うばかりだったアタシの頭を優しく撫でた。


 最期の言葉は『じゃあ、達者でな』。


 アタシは泣いた。

 家族だったんだ。

 ヒゲ親父は、アタシに出来た初めての家族だった。

 彼が死んでからようやくそのことに気がついて、アタシは泣いて泣いて泣きじゃくった。




 ヒゲ親父の遺体を荼毘に付してから、アタシはこの先どうすべきかを考えていた。

 今まで二人で盗んできた財産は大した額じゃない。

 足を洗って真っ当な職業に就こうとしても、アタシには戸籍すら無いのだ。


 結局、生きていくにはこの先も《盗賊》を続ける以外に道は無かった。

 でもどうせなら。

 ヒゲ親父以上に、もっと徹底して義賊になれないかと思った。


 五年間《盗賊》として生きてきて、アタシはこの世界には想像していたよりも遙かに悪い奴らがのさばっているんだと知り愕然としていた。

 弱者を虐げ、搾取することしか考えていない貴族や商人。

 面倒事を避け、問題を先送りするばかりでスラムの現状から目を背け続ける政府の役人共。

 そして、そんな連中を満足に裁けないこの国の惰弱な司法機関。


 アタシは怒っていた。

 薄汚い《盗賊》としてしか生きられなかった自身の境遇に。

 アタシみたいな人間を生み出し続けるこの国に。


 五年のうちにすっかり《盗賊》としての並ならぬ才能を開花させていたアタシは、悪党共から盗んで、盗んで、盗みまくってやった。

 弱者から不当に巻き上げられた金品を。

 汚職や不正の証拠を。

 奪われた平穏を。

 踏み躙られた安寧を。


 いつしかアタシの、《盗賊》クルギ・タグスの名は王国一の大盗賊として知れ渡り、力無き人達からは英雄視されるまでに至っていた。

 かつてはスラムのゴミ溜めで喰いカスを集めて生きてきたアタシが、誰からも必要とされず《盗賊》になるしかなかったアタシが、《英雄》として持て囃されている。

 そのことに、不覚にも増長してしまった。

 愚かにもアタシは調子に乗って油断したんだ。


 その結果、アタシはこれまで罪を暴いてやった連中の仕掛けた罠にあっさりと引っかかり、捕らえられた。


 どれだけ民衆がアタシを英雄視しようとも、法に照らせば《盗賊》は《盗賊》だ。

 捕まってすぐに死刑が決まった。

 散々派手にやらかしてきた結果だ。受け入れざるを得ない。


 アタシを《英雄》と呼んで感謝していた人達が必死に助命嘆願してくれているらしいけど、おそらくは無駄だろう。

 アタシを恨んでいる中にはかなりの大物貴族も複数いる。連中が民衆の助命嘆願なんて聞き入れるわけがない。


 でも、悲しんでくれる人がいるだけまだマシかな、って。アタシは檻の中でそんな風に考え、諦めていた。

 死ねばヒゲ親父にだってもう一度会えるのだ。それだけは、むしろ嬉しかった。

 ちょっと恥ずかしいけど、あの世で会ったら「父さん」って呼んでやろう、なんて。




 ――でも、アタシは死ななかった。


 助けられたんだ。

 助命嘆願にではなく、一人の《勇者》によって。




   ■■■




 ネロス・キラム。

 それがアタシを救ってくれた《勇者》の名前だった。


 どうやらアタシの《盗賊》としての能力を聞いて、魔王討伐の旅に役立ちそうだと考えたらしい。

 あのクズの本性を知ってしまった今となってはアイツがどういうつもりだったのかなんて余裕でわかるけど、当時のアタシは……我ながら、阿呆だった。

 よりにもよってあんな男を、幼い頃に見た絵本の《王子様》みたいだなんて。

 ああ、あの時のアタシを蹴り飛ばしてやりたい。


 ネロスによって檻から出され、魔王討伐のために《盗賊》の力の有用性と、加えて容姿まで褒められたことで、阿呆なアタシは舞い上がってしまった。

 この歳になるまで運が良いのか悪いのか、《盗賊》なんてやってたわりにまるで男慣れしてなかったのも原因の一端だったわけだけど、それにつけても酷い。自己嫌悪で死にたくなってくる。


 あっという間に恋の毒に陥落したアタシは、アイツには既にロルテって恋人がいたにも関わらず自分もまた《勇者》の恋人になれたんだと有頂天になっていた。

 安っぽい言葉にのぼせ上がって情事に耽り、アイツが望めばどんな下品な奉仕でも応えてやった。

 あんなに『《娼婦》にはなりたくない』って思ってたはずのアタシが、気付けば《娼婦》どころじゃない、雌畜生じみた真似をしてたんだ。

 笑っちゃうし、喩え《娼婦》であっても誇り高く生きてる女性達に失礼すぎて、土下座して謝りたくなってくる。

 ホントに、最低の最悪だった。


《勇者》の仲間に選ばれ、国からも過去の罪全てを不問とされたアタシは、今度こそ胸を張って正義のために生きられるんだとそう信じていた。

 どれだけ誇りと信念のもとに行動しようとも所詮は法に照らし合わせれば犯罪行為であったのに対し、今なら合法的に悪を裁ける。

 ネロスと共に《魔王》を倒し、真っ当な“力”を手に入れれば陽の当たる場所からこの国を良くしていけるはずだって、……そう、思ったのに。


 浮かれていたせいで最初の内はマヌケにも気付かなかった。

 ネロスがアタシに頼んで入手した貴族や商人の情報を利用して、裏で何をしているのか。

 阿呆なアタシはきっと悪党を断罪するためなんだと信じ込んでいたんだ。


 全然、そんなことはなかった。

 アイツは手に入れた情報を使って相手を強請り、時に利用し、ひたすら自分の欲望だけを満たし続けていた。

 悪党貴族や商人達のような狡猾な計算高さは無い。ただただ、我が侭なガキみたいに稚拙で貪欲に。アタシが《王子様》と思い込んで恋した相手は、とんでもないクソ野郎だった。


 そのことに気付いた瞬間、あんなにも燃え盛っていた恋心は信じられないくらい呆気なくスーッと冷めていった。

 それでもアイツがアタシにとって命の恩人という事実は変わらない。目覚めた後も、初恋への微かな未練と恩義への感謝はしつこく残り続けた。

 それにネロスと……《勇者》と一緒に行動していればこの国を良くしていけるチャンスはまだあるかも知れない。

 そんな、希望とも呼べないものに縋って、アタシは旅を続けた。


 アタシよりも後に仲間になったランも、ルードリンの姫様も、最初は《勇者》って輝きに惑わされて、でもすぐに違和感を覚えたみたいだった。この調子なら彼女達がアイツの本性に気付くのもそう遠くはないはずだ。

 ロルテだけは、最初から幼馴染みとして全てを諦めてたんだろう。あの子のことを助けてあげたいとも思ったけど、可愛い顔にベッタリと貼り付いた諦観はアタシ如きには拭ってやれそうにはなかった。


 旅は続く。


 アタシの誇りも、信念も、抱いていた正義も、全てが色褪せ、壊れていく。

 気付けば酒浸りの日々だった。

 限界が近づいていた。

 いっそネロスを殺して、アタシも《勇者》殺害の咎でもう一度絞首台に上るのもいいかもしれないだなんて考え始めていた矢先のことだったよ。


 アタシは、……いいや、アタシ達は出逢えた。

 今度こそ本物の《王子様》に。

 やっと出逢えたんだ。




   ■■■




 メルダート・コーグは、一言で言えば“優しい男の子”だった。

 辺鄙だけれど穏やかな田舎の村で、両親を流行病で同時に亡くすという不幸に見舞われつつも村人の善意に包まれ真っ直ぐに育った、ごく当たり前の“優しい男の子”。


 ……それは、アタシの人生とは無縁の存在だった。




《魔王》討伐の旅というのは、当然だけどとんでもない激務だ。

 畑を荒らす魔獣を退治したりとはワケが違う。《魔王》が人間を害するために選りすぐった強力な魔物の襲撃に備え、斥候を務めるアタシは普段から一切気が抜けない。

 ネロスは『先陣を切って敵と戦ってる俺が一番苦労している』と信じて疑ってないが、適当に突っ込んで剣を振るうだけの稚拙なアイツをサポートしているアタシ達の方がよっぽど疲れていた。

 酒に逃げる割合も、増えていた。


 そんな日常に新たに現れたメルは、紳士的で、気遣いの出来る少年だった。

《盗賊》のアタシが斥候をしたり、トラップを解除したりしても、感謝してくれるのはいつもロルテ、ラン、姫様の三人だけで、ネロスからねぎらいの言葉をかけられた記憶なんてない。

 メルは同じく後方支援を担う者として、アタシをいたわり、手伝ってくれるようになった。おかげで大分負担は減り、ちょっとだけ酒の量が減った。


 メルが仲間に加わってから、パーティーには明確に変化が生じていた。

 ネロスが苛立つ一方で、ロルテもランもよく笑うようになった。

 姫様も幾らか肩に背負った重荷が軽くなったんじゃないかと思えた。

 アタシはアタシで、ネロスは相変わらず悪事の片棒を担がせようと色々命じてくるけど、理由をつけては断っていた。

 夜の奉仕に関しても適当な言い訳をして、最悪本番行為だけは避けるようになっていた。


 メルの眼が、怖かったんだと思う。

 あの子の優しさに触れて癒やされる反面、罪深いアタシを見られたくない、汚れたアタシを知られたくないという不安と恐怖が日に日に強まっていった。

 再び、酒量が増える。


 ここしばらく、アタシはネロスの悪行の証拠集めを密かに行っていた。

《魔王》を無事に討伐し終えたら、これらを全て発表してアイツと一緒に裁かれようと。

 もう恋情は消え失せていたけれど、恩を忘れたわけじゃない。

 貰った命だもの。せめて返してやらないとね。


 そうして、夜中。

 宿泊中の宿に併設された酒場で、いつものように度数が高いだけの安酒を味わいもなにもなく喉に流し込んでいると、


「飲み過ぎですよ」


 いつの間にか近くに来ていたメルにコップを奪られた。

 おにょれ。

《盗賊》からモノを奪うとは生意気な。


「にゃー。返せー」

「これ以上は身体に毒です」


 優しい目。

 優しい声。

 胡乱げにコップを取り返そうとするアタシを、優しい手が遮る。


 やめて欲しい。

 アタシの深酒に関してはロルテもランも姫様も諦めてるのに。

 どうしてそんな、優しく止めようとするんだろ。

 年上なんだぞ。それも六つも。

 なのになんでアタシは、酔ってフラついて、メルに寄りかかってるんだ。情けないにも程があるだろ……


「アタシには……心配される価値なんてないのに、さ」


 思わず呟いたアタシに、メルは何も言わなかった。

 普段は優しいくせに、この子は安っぽい同情に関しては相手にも自分にもよくないと悟っているのか、避けてる節がある。


 ああ、本当に。

 やめてよ。

 見つめないでよ。

 射貫くように、真っ直ぐに。

 アタシが曲がっているんだって事実を突きつけないで。


 誇りも、信念も、揺らいで、歪んで。

 言い訳ばかりで酒に逃げて。


「う……グスッ、……ヒック……ふぐ、う、うぅ」


 泣き出したアタシの頭を、メルが撫でてくれた。

 ヒゲ親父も……こんな風に、撫でてくれたっけ。

 懐かしいなぁ。


 そこからはもう何もかもが止まらなかった。

 一五歳の少年相手に、アタシは胸の内に溜まってたものを次から次へとブチ撒けた。

 生い立ちも。

 義賊気取りで行ってた盗みも。

 捕まって、処刑されるところをネロスに救われたことも。

 ネロスに恋して、言いなりになっていたことも。

 恋は消えても、罪は消えないのだということも、全部。


 言わなきゃいけないと思ったんだ。

 メルには知ってもらう必要があるんじゃないかって。

 アタシの根っこも、望みも、過ちも、全てを。




 何もかも話し終えたアタシに、メルは言ってくれた。


「クルギさんは、クルギさん自身が正しいと信じることを貫けばいいと思う」

「でも、それだって結局は自分勝手な、自己満足で、法に照らせば犯罪なんだよ。大切なものを奪われて困ってる人にそれを奪い返してやっても、大抵はその場しのぎにしかならない。悪党共に罪の証拠をどれだけ突きつけてやっても、金と権力のゴリ押しでのらりくらりと逃げられる。根治には程遠いってわかってる。わかっててもアタシには、それしかなかった。《盗賊》として、義賊だなんておだてられて、調子に乗って……その僅かな誇りと信念すら、ネロスに良いように利用されてさ……」

「僕は田舎の、小さな村の出身で。あそこにあるのは権力なんて言ってもせいぜい村長が他の大人より少しは偉いってくらいで、法律とかも正直よくわからないんですよ。僕が教えられたのは『人が嫌がることはしちゃいけない』『人を無闇に困らせるのはよくない』とかそんなレベルの話で。そんな僕の感覚で言わせてもらえば、クルギさんは間違いなく“善い人”です。法律を遵守するならどんな理由があっても罪は罪かも知れない。でも、法が全て正しいというわけでもないでしょう? 信念を持って悪と戦ってきたって言うクルギさんを、僕は人として尊敬します」


 ……もう、泣かせないで欲しい。

 年下の男の子にこんなにも慰められて。

 アタシどんだけ情けないんだろう。


 だけどおかげで少しは取り戻せた気がする。

 失ってしまったものを。


 メルには感謝しかない。

 ありがとう、アタシと出逢ってくれて。

 ありがとう、もう一度、人を好きになる気持ちを思い出させてくれて。




   ■■■




 ロルテがネロスと決別したすぐ後に、アタシもようやく絶縁状とでも呼ぶべきものを突きつけてやった。

 集めに集めたアイツの悪行の証拠映像……の、ごく一部。実際にはあんなものじゃない、もっと大量にある。

 それらは全てロルテの記録映像と一緒に保存されていて、アタシとロルテは『もしネロスがメルに手出ししてきたらそれをトリガーに王都の各種新聞社、雑誌社に自動で送る』ことで同意していた。


 既にアタシからもロルテからも脅しをかけてあるけど、あのクズはいつ衝動的にメルを害するかもわからない。他にも手は打てるだけ打っておいた方がよさそうだ。


 アタシとロルテの関係は俗に言う“恋敵”ってやつのはずなんだけど、一緒にメルを守ろう、メルを支え、メルに支えられつつこの先も頑張っていこう、という仲間意識のおかげかむしろ以前よりも仲良くなれた。


 ネロスを中心としていた時はただの同じパーティーに所属する仲間。

 今では信頼し背中を預け合える友達になれたと、そう思う。


《魔王》を討伐した後、ネロスと一緒に裁かれるつもりだという意思は今も変わっていない。僅かに残った一片の情と、命を救われた恩に報いるためにも、それだけは、どうしても。

 でも今のアタシには、もし罪を償って、そして許されるのなら……メルと共に歩みたいという欲が生まれていた。


 罪深い子だ。

 ごく当たり前に優しいだけなのに。

 その優しさでロルテも、アタシも、解放してしまったのだから。


 罪は償ってもらわないとね。

 いつか。

 そう、いつの日にか。













**************************








 ……そうして訪れた“いつか”。


 関係のあった頃、ネロスはしょっちゅう『俺は超のつく絶倫でどんな女もヒィヒィ言わせてきた』と自慢げに語っていて、《勇者》の身体スペックもあるしまぁそうなのかな、とアイツ以外に男を知らないアタシはてっきりそう信じ込まされてたんだけど……


 いや、ちょっと。

 待ってよ、ねぇ?




 一晩中イたし続けても萎える気配すらないってどういうことなのッ!?




 あのクズ、せいぜい三回くらいで絶倫を自称してたなんて烏滸がましいにも程があるわよ。メルなんて今ので……うあぁ、数えたくないぃ……

 ってか《勇者》スペック込みで三回って、実際にはとんでもなく淡泊だったんじゃないの?


 あー……もう腰が抜けて……なのにメルのメルを見てるとアタシも昂ぶりを抑えられなくなって、ホントとんでもない子だわ。


 いーわいーわ、上等よ。

 こうなったら昼までどころか夜までだって、明日までだって相手してあげるから。


 だから、これからもずっと一緒にいてよね? メル♥






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― 新着の感想 ―
[一言] メルダート君、リボルバー位かな?って思ってたけど、円型マガジン積んでそうwヤベェな(白目 更新楽しみに待ってます。程々に頑張ってください。
[一言] メルダート君なんか普通の人ではないのでは…
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