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第一章 幼馴染みな恋人




「あ? メルダートをこの先も連れて行くべきだ?」

「ええ、彼はわたし達のパーティーにこれからも必要な人だと思うの」


 大森林に築かれた砦を攻略し、《魔王四天王》の一人、《閃雷》のアグミーサを倒してメルダートの住む村に戻ったところ、そんなありえねー話を切り出したのは《魔法使い》のロルテだった。


 ロルテは、まぁいわゆる俺の幼馴染みってやつだ。

 故郷の街で実家は隣同士。

 顔立ちはいいんだが黒髪ストレートのロングヘアがどうにも野暮ったい感じの地味娘で、一人じゃ満足に自分の意見も言えないようなオドオドした奴だったよ。

 ガキの頃から俺の後ろをついて回って、こっちの言うことは何でも聞いてな。

 初めて抱いてやった時もそうだったっけなぁ。

 まっ、ベッドの上でもどうにもマグロ気味で。つっても乳はデケェしイイカラダしてたからそれなりには愉しめたんだけどな。


 ……あん?

 恋人だったのかって?


 一応故郷じゃそういうことにはなってたな。

 そう、恋人だ。

 ずっと俺の後ろをついてきて、俺の言うことには何でも従う。それまで意見なんざしたことなかった。反論なんて以ての外だ。

 そんなあいつが、メルダートを連れて行きたいとかぬかしやがった。

 あの足手まといの《村人》をだぞ?


 当然、聞いてやるつもりはなかった。

 だってぇのに。

 いったい何がどうなってたのか。俺が知らないうちに全員で口裏でも合わせてやがったのか。


 ロルテだけじゃない。

 ルードリンも、クルギも、ランもメルダートを連れて行くことに賛成した。

 俺以外の四人の総意だ。


 それでも俺は聞く気はなかった。

 リーダーは俺だ。《勇者》パーティーは俺のモノ。

 なのにどうして俺が、この俺様が、わざわざ俺の女の言うことなんぞ聞いてやる必要がある?

 こいつらは《勇者》である俺がキモチ良ーく魔物と戦えるように黙って股だけ開いてりゃそれでいいんだ。


 普段なら俺が強めに言ってやれば全員がすぐに折れた。

 なのにこの時だけはどいつもこいつも断固として首を縦に振ろうとしやがらなかった。

 ムカつくが、しょうがない。

 足手まといなのは本当だが肉盾くらいにゃなるだろう。


 そうして嫌々ながらも仕方なくメルダートの野郎は《勇者》パーティーの一員に加えることになった。




   ■■■




 メルダートが加わって暫く経った頃だ。

 ロルテの俺に対する態度が露骨に変わってきた。

 それまでは、ガキの頃からずっと変わらず俺の顔色を窺い、俺が命じれば何だって言うことを聞いてきたあいつが、嫌がって口答えなんざしやがる。


 特に、夜だ。

 ロルテは俺に抱かれるのを拒否するようになった。


 別に、故郷にいた頃から何十回、何百回と抱いてきたカラダだ。あんなマグロ女、ぶっちゃけもう飽きてる。雌穴なら今は他に三人もいるしな。

 それでも、ロルテが、ロルテ如きが俺を拒否なんてあっていいわけがねぇ。


 アイツは俺のモノだ。

 頭のてっぺんから足の爪先……いいや胎の奥まで、その全ては俺の所有物なんだ。

 所有物が持ち主に逆らっていい道理があるか?

 無いね。

 ありえない。


 どうせメルダートに余計なことでも吹き込まれたんだろう。

 あの粗チン野郎が。

 童貞の分際で調子に乗りやがって。

 寛大な俺の慈悲でパーティーに入れてやってるのに、まさかよりにもよって《勇者》様のハメ穴に手を出すとは。飼い犬に奴隷を犯された気分だ。


 躾のなってない飼い犬にはお仕置きが必要だ。

 とある街に滞在中、俺は夜中にメルダートだけを郊外まで呼び出した。


 馬鹿正直にやって来たあいつは、抜き身の聖剣を構えてる俺を見て心底驚いたってツラしてやがった。

 どうやら今の今まで俺に本気で疎まれてたってことに気がついてなかったらしい。まったくおめでたい奴だ。


「女共にはテメェは街を守るため魔獣相手に勇敢に戦って散っていったって伝えておいてやるよ」


 こんな奴相手に貴重な俺の時間をこれ以上割くのも勿体ない。

 とっとと終わらせて久々にロルテを抱いてやろう。拒否するかもだが知ったことか。どうせ突っ込んじまえばその後は黙るんだ。

 あいつにも躾が必要だし、ちょいとばかし過激なプレイに挑戦してみるのもいいかもしれねぇなぁ、なんて。

 そんなことを考えながらメルダートを斬りつけようとした俺の足下に、氷の槍が突き刺さった。




「――ネロス。メル君に、何をする気なの?」




 振り返ると、そこにはロルテがいた。

 今までの長いつき合いの中で見たこともない昏い表情。その眼に宿ってるのは深い憎悪と、憤怒だ。

 正直、驚いた。

 こんな貌が出来る女だとは思ってなかった。

 俺に向かって殺意をぶつけてくるなんて。枯れかけていたロルテへの関心が一気に膨れ上がった。


 ああ、あの貌を歪めさせたい。

 幼馴染みで、恋人で、主人のような立場だった俺に向けてくる全力の怒りと憎しみを屈服させて、もう一度あいつを組み伏せてやりたい。

 心の、魂の芯まで俺のモノにしたい。


 そう考えた瞬間、股間がギンギンに滾った。

 メルダートなんぞ一瞬でブチ殺してやろう。いや、ギリギリ殺さずにあいつが見てる前でロルテを一晩中犯し抜いてやろうか。


 想像しただけでイッちまいそうだった。

 愉悦のままに俺はメルダートに向けて聖剣を、


「……あ?」


 振るえなかった。

 見れば、足下に着弾した氷の槍からいつの間にか氷がツタのように伸びて俺の身体を拘束していた。


 ……チッ。


 昔っからこういう狡っ辛い手が得意だったなぁ、ロルテ。

 その一瞬でメルダートの野郎、どこかに隠れやがった。さらにロルテも。

 周囲には樹が多い。二人が隠れる場所は幾らでもあるってわけだ。


「はっはっはぁ! ロルテぇ、惚れ直したぜぇええッ!! 決めたぞ、今日から三日三晩お前の事を犯してやる! 俺のナニを咥えさせて、穴という穴にブチ込んでぇ、徹底的に調教してやるから覚悟しろぉ!? ついでに目の前でメルダートの野郎を死ぬまでいたぶってやるからよぉ!!」


 ただの《村人》と、前衛無しの《魔法使い》。

 そんなもの俺の敵じゃねぇ。

 あっさりとぶちのめして這いつくばらせてやる!


 さぁ、鬼ごっこの始まりだ……!!






「……はぁ、……はぁ」


 おかしい。

 なんだ?

 どうしてこうなった?


「《アイスアロー》!」

「ッ! おらぁあ!!」


 飛んできた氷の矢を聖剣で切り払い、魔法が放たれた方角へと俺は駆け出した。

 距離さえ詰めれば一瞬で終わる。ロルテが防御魔法や障壁をどんだけ重ねがけしていようとも聖剣の前には薄布同然だ。

 なのに。


「ッ!?」


 どこからともなく飛んできた矢が俺の動きを阻害する。

 あんなヘロヘロ矢、よっぽど当たり所が悪くない限りは大した傷も受けないとわかっちゃいても身体は勝手に反応して、一瞬動きが止まる。どうやらその隙にロルテは短距離転移を繰り返してるらしい。


「畜生、メルダート……クソ雑魚の分際でぇえ!!」


 何が腹立たしいって、メルダートが本当にチンカス以下のクソ雑魚なことだ。

 ある程度の強さがあれば、闘気なり殺気なり俺は相手の気配を感じることが出来る。どこに隠れていようともあっさり見つけ出して、そこで終いだ。

 だがメルダートの気配は小さすぎた。

 仮にも狩人で生計を立ててたんだからある程度隠形と気配遮断には長けてやがったんだろう。しかしまさか、ここまで何も感じ取れねぇとは。


「虫ケラかぁテメェはぁ!? 隠れてないで出て来やが――」

「《アイスロックハンマー》!!」

「ぐへぁああっ!?」


 頭に氷の塊が直撃し、流石の俺も膝を突く。

 さらにそこへ追撃とばかりに氷の礫が飛来した。


「《アイスストーム》!!」

「ぐぼっ!? げっ、がべぁあっ! クソッ、クソがぁああ!!」


 土手っ腹に氷礫を喰らい、怒りのあまり顔をあげたところに今度は矢が飛んできた。しかも先端に爆薬のオマケ付きで。


「うぎゃぁああああああああっ!?」


 眼前で矢が爆ぜ、俺は無様に吹き飛ばされた。


「《アイスリング》」

「なっ!? こ、ゴルァアロルテぇえ!! この拘束を解きやがれぇえ!!」


 氷の輪で両手両足を拘束された俺は、溢れ出る血を拭うことも出来ず顔面血まみれのまま叫んだ。

 いったい、どうしてだ?

 ロルテは確かに才能はあった。この俺の、《勇者》パーティーの一員としてそこそこ使えるだけの強さではあった。

 だがそんなもの、俺の、《勇者》の力の前にはゴミみたいなもんだったはずだ。

 なのに俺は傷だらけで転がり、ロルテは俺を冷めた目で見下ろしている。


 なんなんだ、この構図は。

 ありえねぇだろ……


「もう少し苦戦するかと思ったけど、予想より簡単だったね。やっぱりわたしとメル君って相性が良いのかな? あはっ♪ ……拍子抜けしちゃったよ、ネロス」

「なっ、なんだとこの雌豚がぁ! いいから拘束解いて、そんでメルダート! テメェだ、テメェ、さっさと出てこい! 殺してやる、絶対にブチ殺してやる! 両腕両脚斬り落として、ダルマにしてから舌を抜いて鼻を削いでよぉ、目と耳だけは残してロルテを嬲る様を見せつけででぼぶげぇえっ!?」


 無防備な腹を蹴られ、俺は嘔吐いた。


「……メル君を、どうするって?」


 向けられたのは、ゾッとする程の殺意だった。


 わからねぇ。

 ロルテはガキの頃からずっと俺について回ってた。

 俺が言えば何でもやったし、逆らったことなんて一度もなかった。

 こんな、虫けらを見るような眼で俺の腹を蹴るなんて、そんな真似の出来る女じゃなかったんだ。断じて。


「メル君を……殺す? ダルマにして、わたしを嬲る様を見せつける……? ねぇ、今、そう言ったの? ネロス……ねぇ?」

「あがっ! あぎゃが、ばばっ!!」


 手にした杖の先を俺の口に突っ込み、ロルテは不快そうに詰問した。


「そんなの、絶対に許さない……!」

「お、おばえぇ……ゲホッ! この、淫乱クソビッチの、浮気者がぁ! メルダートみてぇなゴミに絆されてこの俺をぉ! 恋人をはめるなんて、どこまで堕ちやがった恩知らずがぁ!!」


 ロルテは俺のもんだ。

 俺の奴隷だ。俺の所有物だ。使い勝手のいい、溜まった時に好きに使えるお手軽なハメ穴だったんだ。

 その分いい目だって充分に見させてやった。

 ただの地味な田舎娘にいい服を着せてやって、美味い飯を食わせ、高い酒の味も覚えさせて。

 装備品だって《勇者》パーティーに恥じない超一級品だ。

 俺の仲間だから、俺の幼馴染みで恋人だから、俺の所有物だから今のこいつは最高の環境で冒険者をやれてるんだぞ。


「……恋、人? わたしが……あなたの?」


 なのに、まるで予想外の言葉だったとでも言いたげにロルテはきょとんと首を傾げた。


「子供の頃からずーっといいように顎で使われて、奴隷みたいな扱い受けて、発情したら性欲処理の相手をさせられて……そう、まぁ、そうだよね、うん。それがネロスの言う恋人、なんだよね」


 さっきまでも今までにないくらい憎悪と憤怒にまみれた眼をしてたが、今度のそれは比較にならないくらい深い、奈落の底みたいな澱んだ眼だった。


「まぁ、わたしもね。ずっとそういうものなのかなって、思い込まされてた。だって子供の頃からずーっとそういう扱い受けてきたんだよ? 周りの人も、お父さんやお母さんだって『ネロスは《勇者》だから』って言って誰もわたしを助けてくれなかったし。だから必死にね、思い込もうとしてたの。わたしは《勇者》の幼馴染みで、恋人で、だから我慢しなくちゃいけないんだ、耐え続けなくちゃいけないんだって。ネロスはちょっと乱暴かも知れないけど、立派な《勇者》で、いつかは《魔王》だって倒す。そんなあなたのことが好きなんだ、支えなくちゃいけないんだって。なのに、……それなのに、ね」


 ロルテの眼に、光が戻った。

 能面みたいだった顔に笑みを浮かべ、俺には見せたことのない幸せそうな表情で。


「メル君はね、言ってくれたの。『そんなの違う、間違ってる!』って。わたしのために怒って、悲しんで、泣いてくれたの。自分は無力で、何も出来ないのが悔しいって。……何も出来ないなんてことなかった。だってメル君のおかげでわたしは……わたしは、やっと、あなたの人形から一人の人間に戻れたんだから」


 大粒の涙をこぼしながら、ロルテは物陰から姿を現したメルダートに寄り添った。

 恍惚に頬を染め、うっとりと、恥ずかしげに。


 ……俺は、何を見せられてるんだ?

 知らない。

 こんなロルテ、俺は知らねぇ。

 あいつは確かに元々の顔の作りは悪くなかった。でも地味で、垢抜けない、もっと田舎くさい女だったんだ。

 それが……それが。


 ――どうして、あんなに綺麗なんだ――?






「禍根を残したくないから、本当はここでトドメを刺しちゃいたいけど……メル君がダメって言うからこのくらいで許してあげる。どんなに嫌な奴でも、幼馴染みで……恋人、だった相手を殺したりすれば、わたしが傷つくだろうから、ダメだって」

「な、んだと……こ、の、どこまで調子に……ヒッ!?」


 またあの昏い眼でロルテが氷の剣を俺の眉間に突きつけた。

 こいつ……本性はこんな危ない女だったのか? それとも、これもメルダートのせいなのか?


 メルダートは俺を哀れむように見つめていた。

 たかが《村人》風情が、ふざけやがって!!

 今回は油断したが、傷を治したらすぐさまブッ殺してやる!!

 メルダートを殺して、ロルテはまたハメ穴便器に逆戻りだ。

 ああそうだ。こんなの所詮は一時の屈辱で……って、おい。ロルテ、テメェ、それは……その手に持ってるのは何だ!?


「今日のこと、最初から最後までこの記録結晶に全部映像録ったから。で、ね。もしわたし達に手出ししたら、自動で王都の複数の新聞社、雑誌社に届くように設定してあるの。後はもう、わかるよね?」


 ……今日のことが、全部?

 俺が、《勇者》ネロスが、ただの《村人》を殺そうとして、その《村人》と前衛無しの《魔法使い》のコンビに手も足も出ずボコボコにされたこの映像が、全部?


「そっ、その結晶をよこしやがれ! でないと――」

「でないと、どうするの?」


 絶対零度の視線に射貫かれ、俺はロルテが本気なのだと理解した。

 こいつは、この女はもう二度と俺には従わないのだと。

 俺の言うことには絶対服従だった人形には、戻らないのだと。

 ガキの頃からずっといいように扱ってきた玩具を、俺は失ってしまったのだ。


 ただの、《村人》のせいで。




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