来訪 後
「御爺様、この一件自分に任せてはいただけませぬか?」
そう言うと祖父は片方だけの目をぎゅっと閉じ思案顔となった後に母を見た。
「仙法師や…わらわの実家であるからと言って無闇にこの様な火を見るより明らかな争いごとに進んで踏み入るべきではありません…」
そう言うと母は赤らんでいた顔から落ち着き諭すような顔つきとなり言葉を繋げた。
「我が家織田の争いが無くなりこれからというこの時に無用な争いに臨んでは更なる火種となりいずれは細川様の御家や公方様の御家のようになるでしょう…」
そう言うと悲壮感ある雰囲気で祖父を見つめるのであった。
「仙法師よ。最早、そこもとをただの童とは思わぬ。故に我が家の一廉の武士としてして存念を申してみよ」
祖父は厳しい眼差しで自分が口を開くのを待った…
これは正念場だ。この時代の常識で考えれば正に火中の栗を拾う事そのものなのだから。
しかし、自分の意見を当事者たる母よりも重くみ意図を探らんとしているのだと感じた。
「過分なご評価を頂き嬉しく思います。さて、此度の豊後殿申し出について存念を申し上げます」
そう言うと自分は半蔵を呼びいくつかの書状と文書を持ってこさせ、祖父に渡した。
「そこに書かれているものをお読みになられながらお聞きくください。それらは幕府、京の商人、そして真宗と叡山の僧からの文でありそれを元にお話致します」
すると祖父は書状等を丁寧に受け取り、鋭き隻眼にておもむろに読み始めた。
「まず、幕府は東軍に就いた武家には好意的にございます。そして、京の商人らは近江商人との円滑な商売を望んでおりますしその点につきましては我ら故郷の商人においても同様にございます。真宗・叡山等、特に真宗はその近江商人が争う種にありますれば商工人の権益を配慮し訴訟をまとめる事がとりわけ北江における肝要と存じます。」
そう述べ立てると祖父はまた一つまた一つと書状と文書を読み進め都度都度頷いた。
「然るに、商工人と僧等はそれ等に気に掛けることで懐柔し取り込めるものと存じます。国衆及びそれに付随する惣村らは水争いが酷いと聞き及びます。故に、それ等を解決するに謀略と兵を出す事で纏めたく思います。」
一通り話し終えると、祖父は顎に手を当て思案し始めた。
その様子を豊前殿はじっと硬く見つめ静寂がその場を支配した…
「ふむ…是非も無し…仙法師よ。仔細任す!但し【例】の件について間に合うようにせい!さすれば問題ない。されど時はそれほど無いぞ…尤も商人等の書状を見るに思案あったものと察するがな!よいな豊前殿」
「ははっ!!真に忝なくございます!」
祖父から許諾を貰うと豊前殿は少し興奮し赤ら顔にて頷いた。




