邂逅 前
文明13年 1481年 3月中旬 山城国愛宕郡花背
いくらか日が差せば暖かい気がするとは言え、盆地特有の寒さがしみる中、藤次郎が口数が少なく有無言わせぬ雰囲気で勝手知ったる様子でずんずんと進んでいった。
初めはこんな山伏の様な格好をさせるからには寺社が多い東山辺りであろうと思っていたが、北へと進み彼の有名な鞍馬の山を越え幾つもの峠を登り降りしながら山奥へと分け入って行った。3月も半ばと言えど盆地故に山陰には日が差さず、それ故に多くの雪が残っており白い世界がいっそう風を冷たくする…
何度か休息を取りながら辺りが暗くなり道も地形も認識し難くくなった頃には藤次郎におぶって貰い道からははずれて行き尋常ではない雰囲気の谷間を縫うように進んでいると唐突に幾ばくかの民家らしきものがかろうじて判る盆地の集落に着いた。
「仙法師様、目的地につきましてはございまする。某の里の集落にございます」
そう言うと一見建物も何も無いただ真っ直ぐな杉が生い茂る所に降ろされた。しかし、雪が薄い根本をかき分けると板状の岩がありそれを返し上げると階段が現れた。
「さぁ某が先導致すのでついてきて下され。里長に面会していただきたくございます」
そう言うと手速く松明を用意し火を着け促された。そうして藤次に付いて暫く降ると大人一人がなんとか通れるかと言うような通路を進んだ。しかもこの通路は幾重も曲がり角が続きなんとも不思議な通路であった。
そして少し広く天井も高い空間だが行き止まりとなって立ち止まった。すると藤次はおもむろに鈎がついている棒で天井小突き何かに引っ掛けると天井が開き縄が釣り落ちてきた。
「さぁ仙法師様、某に掴まり下され」
そう言われたので掴まると、手速く松明を消ししまって縄を登っていった。
そうして登り切るとそこにはしっかりとした造りの大きな居住空間があり囲炉裏を囲むように幾人もの人がいた。
「頭領、藤次只今戻りました。また、命により織田仙法師様をお連れ致しました」
そう平伏すると、部屋の奥の方に陣取っていた小柄で一見では年齢不詳な何とも不思議な男が頷いた。
「ご苦労であった藤次。さて、お初にお目にかかりまする。手前、この者共の長をしておりまする小太郎という者にございます。この度は遠路はるばるご足労いただき感に堪えませぬ…」
そう言うと小柄な身を更に縮めるように平伏しようとすると他の者も自分に対して平伏した。自分以外が皆平伏するという何とも居心地の悪さと不思議な人々を前に現実味を失いつつあった。
「はぁ…とりあえず面を上げて下され。そう畏まられては大層居心地が悪い。面をあわせて話しましょうぞ」
「大変恐れ多いですが失礼いたします。まず、我らが何者でなぜ貴方様にお越しになって頂いたかをご説明します」
小太郎はそういうと周りにいた者達に目配せをし古い竹簡や巻物を準備し始めた。