後日
文明13年 1481年 3月中旬
無事に佛光寺と本願寺が統合される運びとなり、これからは蓮如を中心として史実通りに日本最大の仏教勢力へとなるものと思う。大切なのは蓮如との【話し合い】で取り決めた中の一つに惣や座から挙がる強訴や訴訟の如何に対して情報を共有し速やかに町代官と僧によって陳情を受け取り代官所にて裁く場所を開くことと、商業の振興である。
つまるところ中世の民衆の不満と財力と信奉力ある宗教組織がより多くの利権を確保し既得権益を守ろうとする運動が合さって政治に介入しようとしたのが本願寺等を筆頭とする宗教勢力の反乱的史実なのであると思う。
ならば最大勢力を育てつつ、むしろこちらから介入できる様に調整し勢力を分裂なり統合なりし政治権力を確定させればローマ帝国(とりわけビザンツ帝国)のように安定した強固な政治体制を確立できるという思想のもと今回の運びとなったのだ。その為に新生本願寺派とも言える中の次席たる経豪改め蓮教を親織田に取り込んだ。勿論こちらも【お話】込だが…
また、蓮如がこれから忙しくなる故に教団の渉外担当で窓口となる蓮如が6男・蓮淳を誼を通じた。この男、ある意味最も後年の浄土真宗らしい僧侶で僧というよりも武士然とした者であった。史実における後年の評価が本願寺の家宰であり、裏法主である。また、公家衆とも付き合いがある為か僧侶にしては耳がよく己から窓口を買って出た上に織田ではなく自分自信に興味があるとも言われた。だからこそ、これから親睦を深め最も取り込みたい男である。
しかし、その様な思惑をおくびにも出さずに精力的に取り持っていた所に祖父には「我が家は日蓮宗であるからして、あまり他宗と懇ろになるのは感心できぬぞ?それともお主は浄土真宗に宗旨変えか?」と詰められてしまったので実利と構想を【お話】したところ「武士ならばそれが至上よ!うまく行けば彼の平相国入道(清盛)をも越えられようて!ははは…」と納得していただいた。
しかし、祖父とは別にその様子を見て感心されたのは藤次である。
藤次は神人である故にそもそも信仰心が篤い。とりわけこの時代は神道よりも仏教を尊ぶ気風であるからして、他宗派といえども僧を助け寺を盛り立てると言う事は十分に立派な行いなのであろう。少なくともその様に見えたらしい…
そうしていつも通りに朝稽古をし終えて、身支度をしていると神妙な顔で声をかけられた。
「仙法師様、近々お時間ございませんでしょうか?」
「ほう…藤次郎か、如何した、また新たな鍛錬か?」
「是であり、また否でもあります。されど決して損や後悔は致しませぬ。故に、お時間を頂戴致したく存じます」
「うむ…何とも歯切れが悪い事だが…しかし、藤次郎がそこまで改まって願い出ると言う事は余程重大なこと察する。相わかった!」
「ありがとうございます。つきましては支度をし某に付いてきていただきたい。但し今回は半蔵殿のご同行は辞めていただきたい…我ら一団の秘事に関わりますゆえ…」
秘事?、藤次郎が只者ではないと思っていたが何やら胡散臭いながらも妙なことになった…しかし、秘事と聞くと気になるのが人の性なのだろう、俄然出向く気になった。
「秘事とは、何とも大きくでたな!まぁ、そういうことならば半蔵よ留守を任すぞ」
そう言うと半蔵はいつも通り静かに頷き消えた。そして、それを見届けた藤次郎が稽古着では服を持ってきて着替えるように言われた。
その服は何やら山伏の修行装のようでありながらも目立たない色形した服でありそれを手伝って貰いながら着用した。
そして、目的や目的地を告げられずまだ寒い春空の下、藤次に連れられて歩くのであった。




