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旅路 後

 1481年文明13年1月下旬 山城国綴喜郡 薪


 先日に千賀地半蔵保清を口説いた結果、服部党20名が新たに加わった。それらと共に我々は予定通り木津川を下り綴喜郡に至り事前に交渉していた酬恩庵なる禅寺付近にあるいくつかの豪農の屋敷にて宿泊することとなった。


 この綴喜郡薪たきぎと言われる地は西に生駒山地、東に木津川を擁した平野が広がり大和街道を通しているという土地である。また、宇治の隣である故にこの地もまた茶の生産が盛んであり生駒山地にはちらはほらと茶畑が拓かれている。

 更に、京洛までは約八里半(25.5km)ほどであり、木津川沿いを北へ上れば宇治川と合流し淀・山崎の地へと至り更に巨椋池を上れば伏見へと至る実に交通の便が良く消費地から程近いという土地柄である。

 故に生産力が高く経済力を持つ豪農が多いというのが特徴である。それ故にそれらの豪農が連盟し「惣」を作り強固な連帯が行われ自治自衛がなされている為比較的戦乱の影響が小さく時に文化人の避難や下向の中継や上洛する人々が上洛前の最後の準備に滞在する地である。


 さて、此の度上洛するに当たって準備をしてきたが複雑怪奇である京の最新の情勢を探り分析しつつ入洛の際の服装等の確認や予定の打ち合わせを行っていった。

 しかし、自分は供回りと母に任せ、少し土産を持ってと半蔵と共にある寺へと向かった。


 「申し申す!頼もう!我ら尾張国よりきた織田弾正忠家の者である。ご高名たる一休禅師にお会いしたく参った!」


 そう言うと奥より10歳ほどの見目麗しい小僧がひょこひょこと駆けてきて来て言った。


 「そのぉ〜、あのぉ〜…申し訳無いのですが我が師は只今、瞑想座禅中につき、お声を掛けても受け答えることなくどなたともお会いになりませぬ。またいつ終えるかもわからないので今回のところはお引き取り願いたいのですが…」


 その様に最初はしどろもどろな様子で途中から流れるように小僧は言った。


 「ほぉ〜う。禅師は瞑想座禅中とな…それはそれは…また日を改めて…」


 と自分が言い小僧がホッとした顔をした瞬間に半蔵に目配せをし抱えてもらい風のように駆けて寺へと押し入った。


 「かの偏屈生臭坊主が真面目に瞑想座禅なんぞしているわけなかろうが!!」


 と叫び居住区と思わしき場所へと突撃をかますとそこには瞑想座禅なんぞしていない歳をくった髭面のお爺さんが両目を瞑った美しい中年女性に膝枕をされながらだらしない顔をして横臥していた。


 「見つけたぞ!一休禅師!!我は仙法師なり。話を聞いてもらうぞ。これを見よ!!」


 そう言うと同時に驚いている一休に対して文を叩きつけた。その文とは事前に地元の禅僧 沢玄宗幽和尚に書いてもらった紹介状兼手紙である。

 

 「な、なんじゃお主は!!うっ、何をする!…ん?沢玄?」


そういった後に起き上がることなく横臥したままだらしなく文を見て顔をしかめたり頬を緩めたりしてから文をぽいっと放り投げた後にむくっと起き上がり鋭く血走った眼で瞬きすらせず自分を見下ろしこう言った。


 「会い喜び別れ悲しむ、これを如何する」


 その様子に気圧されそうになるが自分も負けじと


 「初めて会う、再び会う、驕りて会う。これ同じ。犬歩きて棒に当たる、況や一寸先闇なり。故に一期に一会に臨むべし」


 「得ぬ足らぬ、求められぬうまく行かぬ苦しみ、これ如何する」


 「我ら浮世の客なり。客ならば不自由なれど苦は仕方無し。されど人たれば知恵を出すべし」


 「生くる苦しみ、病む不安、老いる不満に死する怖れ。これ如何する」


 「一度ひとたび生を受け人間道を歩みたれば、刹那刹那を楽しみ、苦道においての楽を見つけるべし。死すれば一切無なり」


 …などと問答を受けそれに応酬し続けていると一段落付いたのか眼力が解け、人をたらす様なくしゃくしゃの笑顔となり口を開いた。


 「はっはは…沢玄の申す通りに見た目からは乖離している童子だ。しかも、物の道理を良く得ている…参った!参った!暫し待て、望みの物を用意しよう…しかし、お主は武士もののふではなく僧になってはどうだ?お主ほどの者ならば名を残す僧と成れようて」


 「力愛不二なり。力無くして世を済うこと能わず。されど、愛なくして振るう力は何れ我が身に返るなり」


 「またもや一本取られたわ!よいよい、ようわかった。然らば、待て」


 そうして、暫く楽しそうに文を書く一休を待っていると実に美しく見事な達筆で書かれた文の数々を受取った。


 「しかし、何というか…こんなに様々な人々に会うて如何するのだ?」


 今、一休にしたためて貰ったのはこれか在京中に会おうと思う人物への紹介状である。一応こんないい加減な生臭坊主であってもやんごとなき方々から一流の文化人、幕府のお偉い方から豪商に至るまで交流がある人物である。

 なにせ、後小松天皇の御落胤であるらしい…


 「人は一人では生きて行けぬし成せる事は小さい。人は支え合ってこそ大を成せるものなり…では御免!」


 そう辞去を述べ半蔵と共に部屋を出て行った。

 その姿を見つめながら一休はこう呟いたのであった。


 「花は桜木、人は武士…お釈迦様も出家なんぞせねばかくあったのであろうか…」




やっと休暇になりました!今日から…今日からこそ毎日更新…できたらいいなぁ〜

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