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前進

 1480年文明12年 9月中旬 津島 大橋屋敷


 この頃は先月より始めた粗銅錬成事業が軌道に乗ってきた。

行ったのは「南蛮絞り」だ。我が国の算出する粗銅の中には比較的多くの金・銀が含まれている。それを鉛と共に溶かした後に一旦冷す。そしてできた銅と鉛の合金を、鉛融点以上銅の融点以下で熱す。そうしてでてきた鉛の融解物を軽石又は骨粉、消石灰、火山灰など混ぜ合わせ焼き上げた粗製の皿に受けると毛細管現象により鉛は皿に吸収され金・銀だけが残る。

 この事業を行い始めかなり資金繰りが易くなった。何より金・銀の保有によってどのような取引においても信用が大きくなり円滑になったのだ。

 また、7月に行った大橋大和守との【はなし】で米を含む兵糧の為替取引の成果も現れ始めた。我々が住む東海は比較的生産力が大きい故に、兵糧の価格が安い。故に、東海の兵糧を甲斐や関東に売り金銭や粗銅を手に入れたのだ。

 

 さて、今日は大橋大和守の屋敷にてまたもやいくつかの【はなし】ととある人物と仲を取り持ってもらった。


 「おお!仙法師よ、よく来たなぁ。まぁ座れい」


 この頃は自分の事業によく絡む故か景気が良いためかえらく機嫌良く愛想がいい大和守に促されその人物の前に座った。

すると、既に目の前には小柄なれど浅黒く逞しい益荒男がいた。


 「ほぉ〜おみゃあさんが、噂の仙法師殿か…本当に童子よなぁ。うんうん、儂こそが佐治駿河守為勝だ、宜しゅう」


 佐治駿河守為勝…尾張国知多郡大野城を拠点に先代佐治為綱が知多郡守護 一色義遠より横領しその後そこを中心に勢力を伸ばした。


 「ああ、そのようすなれば知ってはおろうが…オダダンジョウノチュウヨシノブが子 仙法師である」


 「おう。知ってるぜ、おみゃあさん。なんでも今までに見たことも聞いたことも無いようなものをバンバン作らせてるらしいじゃねぇか。香油に天麩羅そして…清酒!いやぁ〜清酒かぁどんな味なんだ!気になるみゃぁ〜」


 「わかったわかった。【はなし】がおわったら飲ませてやる。まずはきいてくれ…駿河守、たんとうちょくにゅうだがオダ家ではなくこの仙法師こじんと同盟せぬか?わしは今は兵も領地もないがゼニはある。ちかぢかめいもくを建て足軽をやとうつもりだ。ゆえにひりきと言えど力は持てる。何より、きでんは北に水野家、南に戸田家と敵対しておる。味方は多い方が良いのでは?」



 「ふ〜む。現状においてはなんとも言えぬ。確かに申し出はありがたい。されど今の現状ではお主何か見返りを出せるとは思えぬ」


 「これからじぶんがなさんとすることはきでんの力が無ければ成らぬ。また、しぶんが大きくなればなるほどきでんは必要になるのだ」


 そう言い、大和守と駿河守に【はなし】として自分の中にある腹案を説明するのであった…



 

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