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フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン

とかげはほかにも、いつもの材料から珍しいおいしい物を拵えるように工夫しました。

 鍋やフライパンから直接食べずに、人を招いたときのように、お客さんとして自分を招待したことにして、絵を描くように皿に料理を並べて愉しんで食べるようにしました。

 

 草花を摘んできてコップに挿し、棚やテーブルに飾りました。

 花を家に飾るために、小さい畑の隅にきれいな花の種をたくさん蒔きました。


 そうしていつもハーモニカを吹きました。


 すると、大好きな、そして唯一吹ける「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」が、つっかえつっかえではなく段々なめらかに吹けるようになっていくのが自分でもよくわかって、とかげはとても嬉しくなって、励まされるのでした。


 そうやって自分を大切にし始めるようになると、とかげにいつしかこんな気持ちが芽生えてきました。

「自分を大切にするように、自分以外の何か別の物も、大切にしたいなあ」


「その『何か』って、何だろう」

 とかげはいつも考えるようになりました。

 

 思いつくのは、やはり、「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」の店のことでした。


 とかげはやはりあの店のことが忘れられず、頭と心の奥には、いつもそのことが大切に仕舞われていたのです。


「あの店、いま、どうなっているだろう…」


 とかげは思いました。


 いまも、あのように荒んだままなんだろうか。

 マスターやバーテンさんは、どうしているんだろう。

 いつも着ていたお客さんたちは、もう、あの店のことを思い出すこともないんだろうか…。


「行ってみよう」


 そう、とかげは思いました。


 行ってみよう、「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」へ。


 明日、行こう。必ず、行くんだ。

 明日、地主さんとこの仕事が終わったら、必ず、あの店に行くんだ。


 とかげの心は決まりました。

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